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第415話 怒らせてしまったようです ―S side―




ガルシア公爵領の飼育監査に何故かヒューバートとわたくしが任命された。

勿論、ラファエル様の部下達も一緒だけれど。

今日いきなり視察へいけと、姫様に無理矢理馬車に押し込められ、有無を言わさずここまで来た。

………今度は何を企んでいるのかしらまったく……

ラファエル様も姫様の我が儘を許容しすぎだと思います。

帰ったら文句を言わなきゃ。


「ソフィー殿、気分は大丈夫ですか?」

「え、ええ。大丈夫です」


隣に座っているヒューバートに声をかけられ、ハッと顔を上げて返事をした。

眉間にシワが寄っていたようだ。

慌てていつもの表情に戻す。


「それにしても、いつもより強引でしたねソフィア様」

「ええ……何かあったのでしょうか…わたくし達が一緒にいては都合が悪い、とか……」

「………ぁぁ……ラファエル様の我が儘かもしれないですね」


………ぁ、そっちかもしれなかったわね…

一方的に姫様を責めるような考えを持ってしまって、申し訳ないですわ……


「それにしても……ガルシア公爵領、ですか……」

「ぁ……」


ヒューバートは元々ガルシア公爵の跡取りだった。

けれど、王宮騎士になってしまったので、彼が公爵になることはなくなった。

思うところがあるのだろう。

私はそれについて何も聞かなかった。


「私の生まれ育った所ですから、ラファエル様とソフィア様に気にかけていただけているというのは、純粋に嬉しいですね」


ふわっと笑ってわたくしを見るヒューバートの顔には、何の憂いもなく…

わたくしは、ヒューバートを少なからず哀れんだことを恥じた。

彼はとっくに、わたくしの考えたことなど、過去のこととして思っているのに。

勝手にあれこれ考えて…


「あ、ついたようですよ」

「………そうですね」


わたくしは心の中で謝罪し、ヒューバートにエスコートされながら馬車から降りた。

そこはミルンクとコッコの放牧場。

今日は天気も気温も良く、広い場所で思い思いに放牧されている2種を見て、つい頬を緩めてしまう。


「頭数が多いと、圧巻ですね……」

「そうですね」


わたくしは姫様の前世の記憶も共有しているから、牛の放牧とかは知っている。

だから思わず、懐かしい、と思うけれどヒューバートにとっては初めてのこと。

目を見開いてその光景を眺めていた。

思わずふふっと笑うと、少し顔を赤く染めてわたくしを見下ろしてくる。


「………馬鹿にしてます?」

「まさか。微笑ましく思っただけです」

「………なんだか子供扱いされているような…」

「そんなことございません。わたくしは貴方の……その………婚約者………ですから…」


顔が赤くなるのを感じながら、わたくしは微笑む。

わたくしを見てヒューバートは息を飲み、でも恥ずかしそうに同じく微笑んだ。

………いつからだっただろう。

ヒューバートもわたくしも、プライベートで互いを前にしても会話できるようになったのは。

仕事なら割り切れるのに、プライベートでは会話もままならなかった。

でも今はこうして仕事の合間に少し、らしい会話も交えながら、普通に公私ともに話せるようになった。


「帰りに少し時間をもらって、父――いえ、ガルシア公爵に面会してもらっても…?」


姫様に言われていたガルシア公爵と顔合わせは、正直まだ出来ていなかった。

こんな仕事の片手間みたいに会って良いのかしら……

正式にお伺いを立てた方が…

困っていると、後方から誰かが近づいてくる気配がする。

すぐさまわたくしは振り返った。

勢いよく振り返ったせいで、ヒューバートは勿論、わたくし達に近づいてきた人もビクッと身体をはねさせていた。


「………ぁ……」


その人物――女性はヒューバートに触れようとして手を上げていたため、わたくしは彼との間に滑り込み、相手を正面から見た。


「………何か、この方に御用ですか?」


気安く触られても困る。

この方はわたくしの婚約者ですもの。

他の女性が触れて良いものではない。


「………ソフィー殿……」

「………はい?」


困ったようなヒューバートの声が聞こえ、思わずわたくしは彼女から視線を外して、後方のヒューバートを見上げた。


「その……こういう場合、俺が君を守るように立たないといけないんだけれども……」

「………ぇ……?」

「それに、彼女を許してやって欲しい。悪気があったわけではないから」

「何故です。婚約者がいる、それも姫様の騎士に声もかけずに触れようとする令嬢は非常識ですわ」


何故ヒューバートは彼女を庇うのだろうか。

姫様の護衛に触れることは、許されないのに。

姫様の護衛も侍女も姫様のモノ。

姫様のモノには、姫様の許可がない限り、禁止行為となるのに、それを許せだなんて。


「………ぁ、うん。ごめん。でも……その……彼女はマーガレット・ガルシア。次期ガルシア公爵の奥方になる方ですから……」

「………え!?」


ハッとして改めて彼女を見る。

………確かに見覚えがあるご令嬢だった。


「も、申し訳ございません!!」


バッとわたくしは頭を下げた。

姫様のご学友に、ヒューバートの妹君に、なんて態度をとってしまったのだろう。

確かに彼女が血の繋がっている兄に触れることは当たり前の行為で、現在姫様の騎士となっているけれど、つい触れようしてしまうのは理解できる。

咎められることはあっても、罰せられることはないだろう。

………というか、わたくしはヒューバートの書類上はまだ兄妹である彼女に、嫌われてしまう行為を先程やってしまった。

その場がピリピリした空気になってしまう。

わたくしは頭を下げながら、心の中で姫様に謝罪する。


『………姫様……わたくしは、ガルシア公爵令嬢を怒らせてしまったようです。…ヒューバートと婚約解消しなければならないかもしれません……せっかく姫様が、ラファエル様がお許し下さったのに……』


わたくしは公爵令嬢の言葉を聞く覚悟を決めた。


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