第414話 似合ってない?
仕事をせず、ナルサスに言い寄っていた侍女を連行させ、私は使用人に扮した護衛達と共に部屋へと戻りながら、手に持った紙に記入していく。
歩きながら書けるようにバインダーに挟んで。
あ、バインダーは昨日夜鍋して作ってみました。
………嘘です。
丈夫な板と針金とリボンでちょちょいと作りました。
不器用な私がそんなすぐに作れるかって?
作れますとも!
………綺麗かどうかは聞かないで!!
「ねぇソフィア様」
「何?」
「その紙はさんでるうにゃうにゃしたの、何の形?」
「………」
バインダーのクリップにしているのは丈夫な、紙がずり落ちないよう上下に付けた針金。
………まぁ不器用な私が作ったら真っ直ぐにはならないんですよ!!
放って置いて!!
「ジェラルド、聞いてやるな」
「なんで?」
「ソフィア様が地味に傷ついてますから、疑問に思ってても言わないのが従者です」
「ちょっと!! その気遣いが余計悲しいから!! 普段はズバズバ言ってくるくせに!!」
変なところで気を使わないで!!
頬を膨らませながら記入し終え、ペンも針金の間に挟む。
上部に付けたリボンを肩に掛け、バインダーを下げて両手を空ける。
「………そういえばアルバート」
「あ?」
「………言葉遣い」
「す、すまん! あ、すんません!!」
………もう諦めた。
「あんた、ちゃんとアシュトン公爵と頻繁にやり取りしてるんでしょうね?」
「ぎくっ!?」
「………口で効果音を出さないの……」
「い、いやぁ……何書いたら良いか……」
後頭部を掻きながら、困った顔になる。
………何やってんだか……
自分を助けてくれた公爵でしょうに。
私もちゃんとご挨拶しなきゃ。
北の公爵だし……せっかく雪が残っている地域だし…スキー場とか作れないかなぁ?
傾斜がある程度欲しいけれど。
今度ラファエルに連れて行ってもらえるように頼もうかな?
部屋について入りながらそう考えてたら、ぼふっと柔らかい壁にぶつかった。
………って……ぇ……
顔を上げるとそこには、満面の笑みを浮かべたラファエル様が……
固まった私をラファエルは、まるで舐めるように眺めていた。
………って!!
ズサッと私は後ずさり……たかったけれど、ラファエルにきっちり腰を抱かれていました。
「ああ……この王宮侍女の制服は、ピッタリ身体のラインを出すタイプだからね」
ラファエルの言葉に私は自分を見下ろし…
………うん。
ボンがない私の身体は貧相だわ!!
見る角度によっては寸胴……いやいや!!
ちょっとはあるから!!
「に、似合わないって言いたいんでしょ!?」
「それで言うなら凄く可愛くて似合ってるよ」
ニッコリと裏のない笑顔で言われ、私の顔はボンッとまるで音が出そうな程、一気に熱くなった。
「でもソフィア。その姿を何人もの男に見られたんでしょ? 俺より先に。ジロジロと見られたんでしょ?」
「じ、ジロジロなんて見られてないわよ! 顔が分からなければ他の王宮侍女に紛れるんだし!」
「でも、さっき騎士が侍女を捕らえて監視するよう、ソフィアに命令されたって聞いたけど?」
情報早いな!!
………ぁ、いや、もしかしたらラファエルも精霊を連絡係にしてるのかも。
「ご、ごめんなさい。騎士に勝手に命令して」
「王宮騎士はソフィアでも命令できるから、構わないよ。それより問題なのは、ソフィアのこの格好を俺以外が見たって事だよ」
そ、そこに戻るのね…
「俺に黙ってこんな楽しいことするなんて」
………あ、そっち……
ラファエルらしいな…と苦笑してしまう。
「ソフィア、今度の学園の休みに、俺の専属侍女やって! 仕事中にソフィアに世話をしてもらえるなんて、至福の時だろうし」
「え……」
楽しそうに笑うラファエルに苦笑する。
「まぁ、いいけ――」
「いいわけないでしょう!」
「「………ぁ……」」
思わず頷こうとしたとき、遮られた。
ラファエルと2人で見ると、ルイスが仁王立ちで私達を睨んでいた。
「ソフィア様は王女の自覚はあるのですか!?」
「………ぁ、あります……」
「では、自ら使用人にならないで下さい!! みっともない!!」
「す、すみません……」
「ラファエル様も悪乗りしすぎです!! ソフィア様の侍女姿を見たいなら、自室のみでお2人でして下さい!! 執務室でなど言語道断です!!」
「す、すまん……」
ルイスの言葉に反論など出来ず、2人で謝った。
「ソフィア様はさっさと着替えて下さい!!」
「は、はい!!」
呆れ顔のフィーアが既に寝室の扉を開けて待機していたので、私は急いで寝室に駆け込んだ。




