第409話 繕うことが難しいです
ラファエルはにこやかに笑ったまま、私をエスコートして教室へと辿り着いた。
あれからユーリア・カイヨウの邪魔はなくなり、他人から見たら凄く穏やかな王太子に見えるだろう。
………私にはすごく怒っているように見えるんだけどね!
「………まともな王女はこの世にいないのか」
ぼそりと呟かれる言葉。
………もしもしラファエルさん?
「………わたくしも王女なのですけれど…」
「もちろんソフィアは別だよ。私の愛しい人」
「が、学園でそういうのはお止め下さい…」
カァッと顔が赤くなってしまう。
所構わずラファエルは私に言葉を惜しまず言ってくれるから、王女としての威厳…は、皆無だと思うけれど、繕うことが出来なくなるから控えて欲しい…
「ソフィア様、ラファエル様、大丈夫でしたか?」
突如私達に話しかけてくる者がいた。
また非常識が来た!!
ムッとして、顔には出さないようにして声をかけてきた者を見た。
注意しようとして、その者の目に何故か既視感を覚え、私は口を噤んだ。
………何処かで見たような…
「………王族に平気で声をかけるとは、君は教養がないのかな?」
ラファエルが生徒を見る。
制服を見る限り、貴族だと分かるのだけれど…
観察していると、次々と男子生徒がこちらに向かってくる。
………全部で……5……人……
と、いうことは……
私は額に手を当てた。
「………影’s」
「え?」
私の呟きにラファエルが反応して、少し考えハッとする。
そして改めて彼らを見た。
「ああ。君達か」
「はい。多少無礼があっても、王子と王女なら許して下さるでしょう?」
「………公の場ではやめてくれ……」
「失礼しました」
まったくだ。
公の場でこんな事をされれば、処分しなければならないのだから。
彼らは影の正装である全身黒ずくめの格好から、学園に馴染める制服に変わり、爽やかイケメンになっている。
清潔感あるサラサラな髪。
色とりどりの髪色ではあるけれど、影の時とは全く違う雰囲気。
背丈は高く、ラファエルとそんなに大差ない。
間近で見ると普通の貴族と言われても、違和感ないし。
影は基本身寄りのない平民が食うに困って、貧困街……つまりスラム出身の者ばかりだ。
王族や貴族は、死んでも誰も気にしない者達を拾って自分に忠誠を誓うように思想誘導し、鍛え上げる。
私とお兄様は、基本兵士の平民の忠誠心ある者から選ぶのだけれど、影’sは確かお兄様がそのスラムから拾ってきた者達だったと思う。
なのに周りの貴族と遜色ない立ち姿や雰囲気を出せるとは…
彼らが凄いのか、周りがダメなのか、爽やかイケメン達の前では彼らが凄いと思わざるを得ないのだけれど。
「貴方達、素敵ね」
ニッコリ笑って思わず言えば、ピシィッと彼らは勿論、聞き耳を立てていた教室の生徒も全員固まってしまった。
………え?
「………ふぅん?」
ハッとしたときはもう遅かった。
ラファエルが笑みを深めて私を見下ろしていた。
あ……はい。
ラファエルの地雷を私は自ら踏んだんですね!!
無意識って怖い!!
「あら? ラファエル様お顔が怖いですわ」
「そんな事ないでしょう?」
ニッコリと、ますます笑みが深くなる。
「勿論一般論ですわよ? わたくしの目にラファエル様以上の殿方は映りませんし。これからもわたくしにはラファエル様だけですわ」
「………でも、私に素敵なんて言葉を言ってくれたことはないよね?」
「そ、そんな……ラファエル様に面と向かって素敵だなんて……恥ずかしくて言えませんわ……」
恥じらいながら視線をそらすも、チラチラとラファエルを見て反応を窺ってしまう私は、ヘタレか!!
まだ王女を繕ってても、恥ずかしいのは恥ずかしいのだ。
でもこれは周りの反応も窺うためのものでもある。
最近私達が学園に来られていないので、ラファエルとの仲の良さが中々世間に広まらないのは問題だと、ルイスに言われて今日から学園に復帰していた。
ちょっとは学園でイチャついてこい、と。
命令されてイチャつくものではないと思うのだけれど……
だから、人前で恥ずかしがっていて、それでもラファエルを好きだと分かるように演技しようとして……
本気で恥ずかしがってる私は、ラファエルの目には酷く滑稽に映っているかもしれない…
でも、他国にも仲の良さ――想い合っていることが広まるようにしろというのは理解できる。
ユーリア・カイヨウみたいのが、きっといっぱいいるだろうし。
貴族令嬢も余計なことをこれ以上しないように牽制しろ、というのにも頷けるから。
「ソフィアは本当に恥ずかしがり屋だね。あんなに改国に助力しているときは凛々しいのに。そのギャップに私はいつも愛おしくなるよ」
「ら、ラファエル様、こ、こんな所で止めて下さいませ…が、学園ですよ…?」
ラファエルが腰を引き寄せ、私に顔を近づけてくる。
や、やり過ぎだよ!!
「最近ソフィアが伏せってたし、元気になったら即学園に行きたいって言うソフィアとイチャつく時間もなかったんだよ? ちょっとは許容して欲しいな?」
目の前でニッコリ微笑まれる。
う、嘘つけ!!
療養と称して動けるようになっても、暫く学園へ行く許可が出なかったのは、ラファエルが時間が出来るようになって私との時間を持ちたかったからだ。
私もそれに文句を言わなかったけれども。
言う必要もないし。
それを捏造しないでよ…
理由は分かるけれども…
「………あれ、本当のやつだよな?」
「………ソフィア様が別人なんだが?」
「………お転婆王女が恋する乙女……未だに信じられん」
影’s!
聞こえてるからね!!
とは突っ込めず、私はラファエルに抱かれたまま、恥じらう演技(本気で恥ずかしいのだけれども)をしながら、暫くその状態のままいたのだった。




