第408話 2人目の
「お待ち下さい!!」
まだ追ってきた…
ユーリア・カイヨウがラファエルに手ひどく言われたのにも関わらず、諦めずに来る。
周りの野次馬も、眉を潜めヒソヒソ囁く。
この分なら、私の方がマシだと思ってくれるかしら…
なんて、他力本願的な思考は止め、改めてユーリア・カイヨウと対峙する。
ラファエルが何か言おうとしたのを止める。
そろそろ本気でラファエルがキレそうだ。
私はともかく、ラファエルがランドルフ国民の前で下手なことは出来ない。
さっきまでのラファエルの言葉に耳を貸さないなら、これ以上ラファエルの言葉は無意味だ。
「………しつこいですわよ。貴女は王女でしょう。これ以上ラファエル様に詰め寄ることは、外交問題に発展致しますよ」
「わたくしも言っているわ! 貴女と話しているのではないと!」
「いいえ。婚約者がいらっしゃる、ましてや他国王子に詰め寄るなど、誰にも許されることではありません。これ以上ラファエル様にご迷惑な行為をされるのであれば、正式に抗議致します」
「何故貴女にそんな事を言われなければなりませんの! 貴女もここではわたくしと同じ立場でしょう!」
………え?
こいつ何言ってんの?
………ごほん……失礼しました。
他国王女という立場では、確かに私は彼女と同じ立ち位置だろう。
けれど私はラファエルの婚約者で、同盟国のサンチェス国王女で、ランドルフ国の改国に大いに(多分)貢献している実績を持っている。
彼女と立場は天と地の差があるはずだ。
「ラファエル様の婚約者はわたくしです!」
………え?
本気でこいつ何言ってんの?
………ぁ……いや、もういいや…
口が悪いのはもうスルーしてもらおう。
………誰に言い訳してるのだろうか…
「モブ王女は黙ってなさい!」
………ぁ、はい。
ピンときました。
アマリリスよりバカだこいつ。
あ、ごめん。
こいつじゃなくて、この王女、だね。
婚約者と主張するなら、この王女は続編してる女だと分かる。
いらっしゃいませ、同じ転生者。
でもね。
ここはゲームじゃないんだよ。
「………貴様……」
あ……ヤバいよ。
ラファエルが本気でキレた。
後ろでぼそりと呟かれた言葉は、他国王女に対して使っていい言葉じゃないからね。
っていうか、王女も王女で、ちょっとは繕うことしなさいよ。
あっさり転生者だってバラしてどうするの。
略奪したくて正々堂々と対決するなら、受けて立つけれど。
でも一方的に、こっちとの会話を切って引っ込んでいろは可笑しいだろう。
現実は私が正式な婚約者なんですからね。
ラファエルは渡しません。
「ラファエル様」
「だってソフィア!」
「大丈夫ですから」
目付きが悪くなるラファエルを抑え、私は改めて王女を見る。
「王女としても、1人の女としても、今のお言葉は許容するには少々無理がありますわ」
「関係ないでしょ!」
「はい? 関係ないとは? わたくしは正式なラファエル・ランドルフ様の婚約者です。ランドルフ国とサンチェス国で正式な文書を交わしているのです。いくら貴女が否定されようともその事実は変わりありません」
本当に頭悪――ごほんっ。
「なによ偉そうに! そんなもの!!」
「そしてわたくしを侮辱することは、同時にラファエル様を侮辱していることに他ならないことは、当然ご存じの上で仰っているのですよね?」
「なんですって……? わたくしは貴女を!」
「婚約者を侮辱するということは、わたくしを選んだラファエル様をも侮辱するということ。貴方は今、ラファエル様を侮辱しているのですよ。サンチェス国王女などを選ぶラファエル様は頭が可笑しい、と」
私が言った途端、王女からではなく私の後ろから殺気が……
あ、ヤバい。
私も後から説教コースかもしれない…
ごめんなさい!
本気で頭可笑しいなんて思ってませんから!!
「………聞き捨てならないなソフィア。私は心底君に惚れてプロポーズして、婚約してもらったのに」
してもらった、を強調して言うラファエルの言葉は耳に入ったのか、王女が大きく目を見開いた。
「ソフィア以外何も要らない私は、確かに頭が可笑しくなってるのかもしれないかもね? ソフィアがいなくなるなら、私は国を捨てて命をも捨てるよ」
ラファエルの宣言は、王女だけでなく、野次馬も固まらせてしまった。
ラファエルがこの国からいなくなる。
後に残るのは…
野次馬が次々と焦ってラファエルに声をかけたそうにするが、ラファエルの許可がなければ喋れない。
………っていうか、私は別の意味で焦っていた。
ラファエルを怒らせてしまった、と。
どうやったら機嫌が直せるか、必死だった。
勿論、笑みはそのままですとも。
「ダメですわラファエル様。それではランドルフ国の皆様が困ってしまいます」
「困ればいいんじゃない? だって、ランドルフ国民はソフィアを虐めるんだし」
ラファエルが困ったように笑えば、野次馬達の顔色が悪くなっていく…
ああ……ラファエルが本気で怒って、本音がダダ漏れに…
「他国王女もソフィアに対しても私にも失礼だし。一緒に駆け落ちしない?」
「あら、面白そうですわね」
面白そうでついつられてしまうと、野次馬達がブルブルと首を横に振っている。
最近私の味方増えてるからね。
いなくならないでくれと、必死で首を振っている。
………あれ、頸椎捻挫とかにならないかな……と本気で心配してしまうぐらいに必死で振ってる…
「あら、わたくしったらつい。ダメですわよラファエル様」
「………ダメ?」
「ダメですわ。放って置いても大丈夫、ぐらいにならなくては。それに、駆け落ちでは落ち着いて眠れないではないですか。どうせ国を出るのでしたら、新婚旅行で行きたいですわ」
「いいね。何処でも連れて行ってあげるよ」
「ありがとうございます」
ラファエルの機嫌が直った。
同時に野次馬達がホッとし、中にはその場に崩れ落ちる者まで。
………そんなに……?
苦笑しそうになるけれど、笑顔は崩せない。
「カイヨウ国王女。ソフィアを侮辱し、他国での傍若無人。正式に抗議させてもらう」
呆然とラファエルの言葉を聞いていたユーリア・カイヨウは、ハッとして顔を真っ青にさせた。
「お、お待ち下さい!!」
「散々チャンスはあげてた。それでも聞かなかった。自業自得でしょ」
ラファエルは冷たく言い放ち、私を連れてその場を今度こそ立ち去った。
ユーリア・カイヨウはその場に崩れ落ちていた。
………どうでもいいけれど、まともな転生者が見たい、と思った私は悪くないはずだ。




