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第406話 再び




ザワザワと賑やかだった通路が一気に無音となった。

気にせず歩いていると、前方から走り寄ってくる人影。


「そ、ソフィア様!!」


駆けつけてきたのはフィーア。

息を切らせ、私の前まで来ると膝に手をついて息を整える。


「大丈夫ですか?」

「は、はい…」

「ダメですよ? 走っては…淑女は走ったりしません」

「す、すみません……って、そうではないのです!!」


息が整ったフィーアはハッとし、ガバッと顔を上げる。


「も、もうお身体は大丈夫なんですか!?」


焦りながら言われた言葉に、私は目を見開き、そして微笑んだ。


「はい。ラファエル様に助けていただきました。こちらの国のお医者様は優秀でいらっしゃいますわね」


ここは学園。

フィーアは私の侍女と公表しておらず、この学園の生徒は知らない。

従って、フィーアは私との接点は学園しかなく、私の体調経過過程を知る術はない。

その為、この演技が必要だったのだ。


「よ、良かったです……」


へなへな…とフィーアが床に座り込んでしまう。


「だ、大丈夫ですか? フィーア嬢…」


手を差し出すと、フィーアは両手を振った。


「だ、大丈夫ですソフィア様! 私のような者に手を差し伸べるべきではありません!」

「まぁ。可笑しな事を仰いますのね。ラファエル様も言っておりましたよ」

「え……」

「この学園の内では、わたくしもラファエル様も1人の生徒です。皆様の立場と変わらないのですよ」

「ソフィア様……」


フィーアが恐る恐る私の手を取る。

グイッと私は力を入れて引っ張ると、たたらを踏みながらフィーアが立ち上がる。


「あ、ありがとうございます」


戸惑っているが、ゆっくりと微笑むフィーアに、私も微笑み返す。


「ご心配下さり、ありがとうございます」

「いえ! わ、私は…そ、その……ソフィア様のお友達ですから!!」


拳を握り、目をキツく閉じ、顔を真っ赤にしながらフィーアは叫んだ。

おお…!!

迫真の演技だ。

………と、思っていたのだけれど……

不安そうに揺れる涙に濡れた瞳を見て、『あ、これ…本気のやつだ…』と思った。

………フィーアは本気で、ここでは私を友と思っている…?

嬉しい言葉に、私はますます頬を緩める。


「ええ。わたくしはフィーア嬢のお友達です。ですから、助け合うのは当然ですわ」


私の言葉にハッとし、フィーアは泣き笑いで私を見る。

うん、可愛いな。

元々可愛かったけれど。


「あら。さすがはサンチェス国王女ですわね」


聞きたくない声が聞こえ、私は顔に出さないようにして振り返る。


「罪人の娘の元貴族令嬢とお友達とは、立派ですわ」


ユーリア・カイヨウがそこにいた。

アマリリスの情報では、ラファエルの婚約者の予定だった王女。

………正直言って忘れていた。

っていうか、こっちに来てまだ少ししか経っていないはずなのに、いつ何処でフィーアの事を……


「それは、フィーア嬢自身の罪ではございません。わたくしのご友人です。失礼な言い方は止めて下さいませ」

「罪人ばかり庇っている王女という噂、本当のようですわね。同じ王女として残念ですわソフィア様」


そう言ってユーリア・カイヨウは去って行った。

………言いたいだけ言って、私の言葉は無視か!

イラついたけれども、顔には出せない。


「………姫様」

「………大丈夫よフィーア。貴女は今のままでいい」


周りの生徒に聞こえないように呟き合い、ユーリア・カイヨウの背中を見つめていた。


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