第400話 変わること
王宮内をいつも通り歩いていた。
今日の護衛はアルバートとヒューバートだ。
オーフェスとジェラルドには、ラファエルの用事に付き合ってもらっている。
手を貸して欲しいと言われて快く送り出した。
多分、騎士達の所とか行ってるのだろう。
「ソフィア様」
「何?」
「体調に変化はございませんか?」
「大丈夫。ありがと」
「………本当に?」
「本当だって」
ヒューバートが心配そうに話しかけてくる。
もうすっかり毒は大丈夫なんだけれど、臣下が主を心配するのは当然だよね。
苦笑しながら返す。
………あれ?
私主扱いされてるよ!!
じぃんとしてしまった。
「心配ねぇよヒューバート。ソフィア様は殺しても死なねぇぐらいの図太さだからな」
………おい!!
アルバートの言葉に半目になる。
「………アルバート」
「なんだ? ソフィアさ!?」
あれ?
なんでアルバートは固まるのかな?
なんでアルバートの顔が青ざめるのかな?
私、笑ってるだけだけど?
「………主を気遣う心っていうのを、じっくりと講義しましょうか」
片方の手は拳を握り、もう一方の手は拳を包み込む。
あら、ポキッと音が出たわ。
凝ってるのねきっと。
アルバートの顔色が更に悪くなるのは何故かな?
「わ、悪かった!! だからその笑顔止めろ!! 拳鳴らすな!!」
ザッと後ずさるアルバートに、遠慮なく近づいていく。
「ついでに敬語の練習もしましょうか」
「ひぃ!?」
「………ソフィア様、お散歩はよろしいのですか?」
「あ、そうだったわね。ここで運動なんてしたらお医者様に怒られるわ。また引きこもりになっちゃう」
ヒューバートの言葉に私はアルバートに詰め寄るのを止めた。
アルバートより、部屋から一切外出禁止の方が断然嫌だ。
散歩に戻ると明らかにアルバートがホッとしていた。
誰かアルバートに教育施してもらえないかしら。
私より公爵に非礼をしちゃったら、サンチェス国の品性が疑われちゃうわ。
そんな事を考えながら歩いていると、私が通る予定の道の所々で、侍女や使用人が頭を下げて通路脇に立っている。
………なんで?
首を傾げると、ヒューバートに失笑される。
「ソフィア様、コレが普通でございますよ」
「………ぁ」
ヒューバートに言われ、私は思わず苦笑した。
そうだったよね。
皆、王女に頭を下げることは普通で、道を空けることも普通だ。
「そうだったわね。こちらで下げられた事なんて滅多になかったから忘れてましたわ」
私の言葉が聞こえたらしい。
ビクッと震える者が殆どだった。
「ソフィア様」
前方から歩いてきた人物に呼ばれ、私は顔を向けた。
「あ、ソフィー。ご苦労様」
目の前で頭を下げたソフィーに声をかける。
「いえ。これがわたくしの仕事ですから」
「順調ですか?」
「少々時間がかかる者が何名かいますが、問題はありません」
「そう。ならいいですわ。引き続き宜しくね」
「はい」
私はソフィーが持っている書類に目を向ける。
「出てます?」
「出てます」
「そう。夜にまとめてよろしくね」
「はい」
ソフィーが私の前から通路端に移動し、改めて頭を下げる。
その場を後にし、私はまた散歩を再開したのだった。




