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第40話 落ち込んだ後は浮上するのみ!




「よし! 二人とも行くわよ!」

「おー!」

「………はぁ…」


勢いよく上げた腕。

それに合わせてくるのはカゲロウ。

ため息をつくのはライト。

現在私は城下街に来ていた。

落ち込んだときには、楽しいことをするのが一番!


「………さっきまで泣いてたくせに」

「そこ煩い」


ライトを黙らせてから、私はスタスタ歩き出す。

ラファエルと仲直り?

それは後回しです!

だって今会っても、私が仕事を手伝えないのは分かっているから。

それをもう一度再確認させられたら、手が出るかもしれない。

自分の不甲斐なさを棚に上げて。

そんな事したくないし。

ラファエル叩くなんて多分出来ないだろうけど。

八つ当たりになることは分かっている。

だから、私は――


「働くぞー!」

「働くー! 食事ほうしゅう!」


うんうん。

カゲロウはノリが良くていいねぇ。


食事ほうしゅうはありがたいですが、苦情が私に来るんですがねぇ……」


ライトが何か言ってるけど、無視しよう。

誰から苦情来るのか知ったことではない。

私を深窓の令嬢にしようとしている人の言葉なんか、聞きたくもない。

私は王女だけれど、人形じゃないんだから。


「こんにちわー」


周りの建物と装飾が違う店のドアを開けて中に入る。


「いらっしゃ――あ! オーナー!」


会計所の所にいた女の子が笑顔で走り寄ってくる。


「お久しぶりです! オーナーに色々お話ししたいことがあるって店長が言ってましたよ! でも、なかなか顔見せてくれませんでしたから」

「ごめんなさい。ちょっとゴタゴタしてたから」


ここは私が立案した店。

リニューアル店だ。

店の中は清潔感溢れる白一色の壁で、棚は落ち着いた色合いの木棚。

一定の間を開けて、バッグや装飾品が綺麗に並べられている。

ふと、私は違和感に気づく。


「………あれ……?」

「あ、流石ですね!」


女の子は私の視線の先を見て笑う。

以前は広々とした店の壁一面に棚があり、中央に机があった。

机の上に小物を並べていた。

「回」の文字のような内装だったのだ。

なのにその中央から少しずらした中央に仕切りがあったのだ。

天井まで伸びる仕切り――もはや壁。

更に……


「………入り口が二つ……」

「あちら側は貴族用です」

「………」


どういうことだろうか。

私が立案したことは、平民受けは良いが、貴族には合わなかったはずだ。

だから、利益も殆ど取れなかった。


「それが先日、うちを訪ねてこられた方がいらっしゃいまして、とある御方の使いだと言って」

「………」

「ここにテイラー国の人間を雇わないか、と」

「テイラー国、ですって………?」

「ええ、5名ほどいらっしゃいまして。で、試しにリメイク品を作ってもらったんです。それがもう美しくて!」


背中に冷や汗が流れてくる。

――まさか…


「即採用させてもらいまして、それで入り口も別に。仕切りも作って、貴族と平民用の空間を作ったら、もう大盛況で!!」


………ギギッと私は壊れた機械みたいにぎこちなく後ろを振り返った。

――ライトがあさっての方向を向いていました。

………お前…


「おしゃべりはお店でするものじゃないですよ」

「あ、店長!」


奥から30代の女性が出てくる。

ここの店長である、オリヴィア。

因みにさっきの店員はミア。

二人とも平民でファミリーネームはない。


「オーナー。お待ちしておりました。奥へ宜しいですか?」

「ええ。じゃあミア。店番宜しく」

「はぁい!」


元気が良いミアを残して私は店長と共に奥へ行く。

影二人もついてくる。

連れて行かれたのは店長室。

ここも壁色は白。

壁には経営状況を書いた業務日誌と呼ばれる書を並べてある棚。

奥に窓があり、その手前に机。

そして部屋の中心に来客用の机とソファー。

そこに向かい合わせで座る。


「大体はミアが喋ってしまったようなので、その後のことを」

「………まだあるの…」

「はい」


ちょっとゲッソリしてしまった。

だってまさかあの時街で話してたことが、実行されているなんて思わないでしょう。


「最近人気の甘味店、知っていますでしょうか?」

「………ええ」


そしてなんでここで、ラファエルの店のことを出されるわけ!?


「その店の方から包装用の入れ物のオーダーを頂きまして。貴族用と平民用で」


机に並べられた二種類の包装袋。

違いがよく分かる。

貴族用には、甘味を取り出した後も使用できるような、綺麗な飾りがついているバッグ。

平民用は、日本でよく見る使い捨てのような貧相な手提げ。


「………それで?」

「纏めての単位で料金を頂くようになったのですが、あちらの店の繁盛に合わせてこの店もどんどん利益が出まして。さらに貴族がこの店が元になっている鞄だと聞きつけ、来店数が劇的に増え、装飾品や鞄を購入していくものですから、オーナーにお渡しする料金も膨れ上がっていまして……大型金庫がいっぱいなのです……」

「………」


私は頭を抱えてしまった。

………これか。

あの甘味の繁盛は。

確かにテイラー国の人間が貴族用の包装を作ったとしたら、そりゃその分値は上がるわよね…

この国でテイラー国の人間が装飾した物は手に入りにくいし…

希少価値の値段で。

………もはやぼったくりと堂々と言われても、テイラー作だから、で納得してしまう…

また、貴族は見栄をはりたがる。

自分はこんなに持っているのだという……見せびらかすためにも買うだろうし…


「さらに」

「………まだ何か……?」

「『甘味店で購入された鞄をこの店に持ち込めば、買い取りしてくれる』との話も出回っていて…」

「………それで持ち込んで売られた鞄の飾りを付け替えて甘味店に売れば………またここに返ってきて………エンドレス」

「はい。なので、盛況ですね」

「………ソウデスネ」


………さて、犯人は誰ですかね。

ライト?

レオポルド?

ラファエル?

………全員グルか?


「取りあえず、オーナーにお渡しするお金を引き取って頂けませんでしょうか……」


………私の取り分は利益の僅か1割のハズなんですがね…

私は立案しただけで、実際に働いているのは従業員。

従業員の給料に回してって言ってるのに、店長は利益の2割を従業員の給料に。

3割が材料費等の経費。

1割を店の修繕費などに使うために貯金。

………で、その残りの4割を私に渡してくるのよ。

………ボーナスとかで皆で分けたら良いのに。

まぁ、私は今までの分も店のために使わず貯めてるけど。

………これはちょっとは使った方がいい、よね…?


『ちょっとは使わないと民に回っていかない』


ラファエルの言葉が頭をよぎる。

………はぁ。

仲直りのためになんかラファエルにプレゼントでも考えようかな……?

そう思いながら、私はここに働きに来たのに、無労働でお金だけ受け取りをさせられて、店を追い出されたのだった。

利益が増え、従業員も増え、私のやることはないそうだ。

………ここでも何も出来なかった……

ガックリと項垂れながら私はお金をリアカーに乗せ、引っ張っているライトとカゲロウの後をトボトボついて行った。


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