第04話 彼の信頼はありませんでした
ひょ、評価が……ブックマークが……あんなに!?
す、すごい……
ありがとうございます!
感謝いたします!
ラファエル・ランドルフの婚約者としてランドルフ国に来ることになった私。
私はソフィア・サンチェス。
サンチェス国第一王女で、先日開かれたパーティで第二王子を直々に処分したことでラファエルの信頼を得たらしく、婚約を申し込まれ強制的に婚約書類にサインした。
王と王妃にそのまま行けと追い出され、ラファエルの実家へ。
ランドルフ第三王子である彼の実家は勿論王宮。
………ではなかった。
立派な建物ではあるものの、ここは正確には王宮の離宮。
しかも離宮は王宮から約一時間のところにある。
最早別宅。
何故こんな所に彼の生活空間があるのか。
それは部屋の外で話しながら仕事している侍女達の話を盗み聞きして分かった。
一応ここに第三王子の婚約者がいるんですがね。
盗み聞きした内容はこうだ。
『第一王子と第二王子と違って第三王子は執務をせず遊びほうけている』
『今回の婚約は王と王妃に早く身を固めて王宮に留まるように命令をされたからではないか』
『だからサンチェス国の王女に求婚したのでは』
『無能な第三王子を世話しないといけない境遇に不満がある』
などなど。
随分乙女ゲームと違う内容だった。
ゲームの設定ではランドルフ国王子の中で一番頭が良く、人望があったはず。
このED終了後時点でのこの侍女達の評価。
現実だからか、もしくは人望があるのは街の人間からか。
彼が遊びほうけているというのは、彼自身を見て話した印象とはかけ離れている。
世間に対して作っているのか、事実か。
考えられる遊んでいるという吹聴は、女ではなく街に頻繁に行くから。
執務は他の王子に任せて市場を見に行っている、とか。
国というのは王族が勝手に動かせるものではない。
民の生活が潤う事によって国が発展する。
逆に民の生活が苦しいと国が傾く。
王子が仲が悪くなく、分担しているなら問題はない。
だが――
私は部屋を見渡す。
離宮ということは、仲が良いとは言えないかもしれない。
彼のことを噂話で判断するつもりはないけれど、一つの判断材料になる。
まぁ、ここは現実世界。
ゲームの設定通りとは限らない。
現に私は自分の兄を断罪した。
そこから狂ったのか、最初から狂っているのか。
とにかく、私は生きている彼に告白されたのだ。
何故私を婚約者に選んだのか聞いたら、好きだと言われた。
顔を真っ赤にしながら。
無理矢理言わせた感が凄いけど…。
でも私はここで生きると決めた。
この世界の適齢期を過ぎていた私を選んでくれた彼を、好きになりたいと思った。
だから今、ここにいる。
思い返していると、部屋の扉が開く。
「ソフィア」
考えていた彼が入ってくる。
「ラファエル様」
「お待たせしました。出かける準備は出来てますか?」
「はい」
ニッコリ笑って聞かれ、私も笑って頷く。
今日はラファエルの仕事が午前中に終わるという事で、午後から出かける約束をしていた。
私はこの国が初めてで、街を案内してくれる約束をしていたのだ。
彼とここで暮らしはじめて一週間。
まだ彼は私と距離を取っている。
敬語が取れていない。
「寒くないですか?」
「はい」
この国は日本で言う冬の気候が一年中続く。
春夏秋の気候変化がない国で、植物が育ちにくい。
だから気候が暖かいサンチェス国と同盟を結んでランドルフ国の技術で作ったサンチェス国の作物を提供している。
それが私との婚約の理由の一つでもあると思う。
これからも同盟を続けるなら、王族同士の結婚という形で裏切れないという状況を作る。
それも同盟の手段の一つでもあるし、16年王族として生きていたから理解できる思想でもある。
でもやっぱり慣れないことはある。
「では、行きましょうか」
笑って差し出される手。
エスコートだ。
日本人であった記憶を取り戻し、そして身内以外にエスコートされたことがない私は、その手を取るのに中々勇気がいる。
よし、と意気込みながら勇気を出して手をラファエルの手に乗せると、ラファエルが笑みから少し困り気味な笑顔になったのに気づく。
「ラファエル様…?」
「あ、すみません。やはり、私があんな事言ってしまって…更に抱きしめてしまったので、緊張しているのかと思いまして…」
どうやら見られていたらしい。
一瞬固まった私を。
っていうか、ピュアなのこの人!?
顔を赤くして背け、困ったように頬を掻いている。
まさかこんな美形のモテ王子が恋愛したことないとか言わないよね!?
女性の扱いには慣れてるでしょ王子として!
………なんて事は言えず…
「す、すみません。私、父と兄以外にエスコートされたことありませんでしたから、少し勇気が必要で…」
「そうなのですか? では、この間のダンスは……」
「…っ」
思わず『うぐっ』と言いそうになった。
堪えたけど。
聞いた瞬間に満面の笑みはズルいでしょ!
こっちが顔を赤くする番だった。
「私が初めてだったのですか?」
聞かないで欲しい!!
なんて叫ぶことも出来ず……
赤い顔をそのままに、スッと視線を背けてしまった。
「そうなんですね」
止めて下さい。
私にそんな嬉しそうな顔を見せないで!
そんな顔を向けられるほど、私貴方に相応しい人間じゃないから!
売れ残りの普通の顔の女なんです!
心の中で言えても、口に出して言えない私はビビりだ。
国のために彼に気に入られなければならない。
それにこの婚約は破棄が限りなく0の王族同士のもの。
一生一緒にいる人に嫌われては、今後の人生が真っ暗になる。
嫌われているのに世継ぎの為に顔を会わせる人生など御免だ。
だから私は作らないといけないのだ。
ソフィア・サンチェスという王女を。
「………可愛いな……」
「………ぇ?」
「………ぇ、あっ!」
ポツリと聞こえた声に反応して視線を戻すと、ラファエルが失言したという風に手で口を覆った。
そしてまた顔を赤くするラファエル。
………可愛いのは貴方の行動だと思う…
「そ、そろそろ、い、行きましょう」
ぎこちなく笑う彼に手を取られ、私は部屋を出た。