第398話 ちょっと可笑しいよ
いつも通りの朝だった。
朝起きてラファエルが隣にいて、離してくれなくて。
日課に行くまで駄々こねられる。
ラファエルを追い出して、フィーアに身支度を手伝ってもらった。
いつもならソフィーだけれど、今日からソフィーが筆頭侍女で、申し送りなど仕事があるから。
昨日ラファエルに報告してから侍女達を集め、新体制を告げた。
不満そうな顔をする侍女も当然いたけれど、意外と私の言葉を聞く侍女が多かった。
元々きちんと仕事をする侍女に加え、ソフィーに怒られていたその時洗濯担当だった侍女達も、不満なく話を聞いていた。
ずっとそれが続いてくれればいいけれど。
………おっと、話が逸れた。
いつもなら朝食を1人で食べていたのだけれど、何故か今、前にラファエルが座っているのだ。
仕事がいっぱいあって、ずっと日課が終わったらすぐに執務室に行ってたはずなのに。
「あ、今日のは美味しい」
………今日のは、って…
いつもは美味しくないの?
こっちの王宮のご飯はいつも美味しいと思うんだけど…
あっさりしてて、お腹に重く溜まるものではないから。
「ソフィアと一緒だからかな?」
「っ……!?」
あ、あぶなっ!
思わず噴き出してしまいそうだった。
「ら、ラファエル……」
「ん?」
「………何でもないです…」
だからなんでそういう事サラッと言っちゃうのっ!
どうしていいか分からず、大人しく食事を続ける。
………って、そうじゃなかった。
「ラファエル、お仕事はいいの…?」
「ん?」
「最近ご飯も一緒に食べられないくらい、忙しいでしょ…?」
「ああ、ごめんね寂しい思いさせて」
「だ、大丈夫だけど…」
………あれ?
私の質問に対する言葉じゃないよね…?
食事を終えたラファエルは、食後のお茶に口を付け始める。
………だから、仕事は…?
「ソフィア、今日の予定は?」
「え……あ……特には…散歩だけかな…?」
「そっか。じゃあ夕飯一緒に食べれる?」
「う、うん。大丈夫だよ」
………え?
反射的に頷いてしまったけれど、ホントに仕事は!?
ルイスに怒られるよ!?
その時ノックの音がし、私は扉の方へ顔を向けた。
「どうぞ」
「失礼致します」
入ってきたのは藍色のストレートの髪に同色の瞳。
すらっとした体型で、これまたイケメンだ。
………王宮の人間とか貴族の人間、イケメン率高すぎだろう。
って……あれ?
「………ルイスが着ている服に似ている…?」
「ああ、ルイスのは宰相服。彼のは1ランク下の臣下服。ルイスが彼らを束ねるから、上司と分かるように赤を主体とした執務服で、彼らの臣下服は青」
日本で言う執事服に似た上下で、上着の裾は床に届くぐらいに長い。
肩や胸元に無駄な装飾品がジャラジャラ付いていて、仕事し辛いと思うけれど。
「ご苦労様。終わった?」
「はい。執務室の方に最終決裁書類を置いておきましたので、後でご確認を」
「ありがとうウォー。ファイはまだかかりそう?」
「いえ、ファイも終わりましたので、同じく書類を執務室に置いております」
「分かった。後で確認してまた呼ぶよ」
「はい。失礼致します」
ウォーと呼ばれた彼は、静かに立ち去っていった。
………あれ……自己紹介なし?
「ファイが尚書、ウォーが司法、ウィンが徴税、アースが儀典、サンダが交渉」
えっと…?
『尚書』重要書類である契約書とか議事録を作成保管する人
『司法』尚書が作成した書類を王が許可し、正式に決まった国政を運用する人
『徴税』文字通り税を集め管理する人
『儀典』宴とかの催し物関連の準備と進行する人
『交渉』王の代理人で交渉する人
「………で、合ってる?」
「うん、大丈夫」
「いつの間にその立場の人が出来たの? ずっとルイスと2人でやってたと思うけど…」
「ん? 昨日ソフィアが執務室出てった後から」
………ということは……
私は先程聞いた名前を反芻し、ガックリと項垂れてしまった。
火・水・風・土・雷
名前聞いたときに気付くべきだった。
早速精霊を重要臣下の位置に置いたらしい。
………そしてやっぱりラファエルも名前適当だなぁ…
「一応聞いていい?」
「何?」
「………精霊は、ちゃんとラファエルの期待に応えられる能力を持っているの?」
そういう方法があると教えた手前、精霊がラファエルの望むレベルでない可能性もあるから、提案したからには私にも責任がある。
魔法みたいな力を持ってても、国政の能力はどうなのだろうか…?
「それが聞いてよソフィア」
ラファエルが隣に移動してきて、こてんと肩に頭を置かれる。
「ちょっと試しにって眷属精霊にそれぞれ優秀な――国政とかに比較的詳しい精霊を厳選してもらって、書類やらせたんだ。そしたら…滅茶苦茶、否のうちようがない、完璧な書類を、短時間で仕上げてきたんだよ」
「………? それっていいことなんじゃないの?」
なんでラファエルは落ち込んでいるんだろう?
「それならそうと、もっと早く手伝ってくれたら良かったのに…」
「………ぁぁ……」
他力本願過ぎるのはダメだけれど、ラファエルもルイスも仕事を抱え込みすぎてたから…というか任せられる人がいなかったから、かなり大変だっただろう。
もっと早く手伝ってくれる人がいれば、ラファエルもルイスも楽になっただろうに。
「ごめん、私が思いつくのが遅かったから」
「ううん。ソフィアのせいじゃないよ。逆にソフィアのおかげでこれからかなり楽になるから感謝してるよ」
ラファエルが嬉しそうに笑うから、私も微笑む。
「ということで、仕事がかなり楽になってね。聞いてソフィア! 執務室の書類が机に乗るだけまでに減ったんだよ!」
私はラファエルの執務室の状態を思い出して、思わず苦笑した。
それが本当は普通なんだけれども…
と思いながら、ラファエルとの夕食を早くも楽しみに、私は朝食を食べ終わったのだった。




