第396話 有効活用は最大限に
ラファエルに報告した翌日、私はソフィーを中心に、侍女の様子を伺ってもらった。
こういう時に使わせてもらいますよ。
私は究極精霊に頼んで、侍女1人1人に精霊をつけてもらった。
そしてみんなの目を通して、侍女の動きを部屋で確認している。
うん、これ疲れるんだけど、防犯カメラ映像みたいでちょっと懐かしい感じ。
これ、サンチェス国でも出来たなら、もっと選定がスムーズに出来たかもね。
やっぱり便利だし、ラファエルに監視カメラ作れないか聞いてみようかな。
いつも精霊に頼んでばかりでは……
『ちょっと! 早くやりなさいよ! 次に行けないじゃない!!』
『す、すみません!』
………うん、やっぱりまだいいや。
監視カメラ作れたとしても、声までは拾えないだろうから。
茶髪のつり目の女が、彼女より濃い……栗色? の髪の気が弱そうな女を怒鳴りつけていた。
茶髪の方はソファーに座り何もせず、おそらく後輩侍女だろう彼女だけに掃除をさせている。
やっぱりいるよね。
粛清されたとはいえ、新国派と中立派の親を持っていても、子もその派閥とは言えない。
そして、必ずしも性格がいいと言えない。
今起こっている事で、それがよく分かる。
『何をしてるんです!』
『! ひ、筆頭侍女…』
あ、ランが来た。
さて、どういう対応するのかな。
『ここでは貴族階級は関係なく接していますが、『先輩や後輩の概念も捨てて、皆が平等に仕事をすること』と規律で決まっているでしょう! 早く貴女も職務に戻りなさい!』
『………すみませんでした』
………ふぅん。
やはりランは仕事はきちんと真面目に出来る人だ。
けれども…
『………ふん。前任や先輩達が一斉にいなくなったから、必然的に筆頭侍女になっただけなのに偉そうに』
ランが立ち去ってから、悪態をつく女。
………正論だけを言い、後のフォローは出来ない、か。
さて…次は……
『毎日何故洗濯物がシーツだけなのかしら』
『ラファエル様の衣類はあるわよ』
『そうだけど……あの王女の衣類はないじゃない』
『なに? そんなにあの王女の衣類の洗濯したいの?』
………うん、あの王女呼ばわり止めようか?
今度は洗濯場の映像らしい。
『だって、王宮侍女になってからろくに外に出られないから。今流行がどういう物か知りたいじゃない』
『そうね。でもそれならやっぱりテイラー国王女の方がその辺よく考えていそうじゃない? あの王女はそういうのに疎そうだし。流行遅れでも平気な顔してそう』
『きゃはっ! それ言い過ぎじゃない? 仮にも王女で女なんだから、他国王族に見せられない服装はさすがにしないでしょ』
『どうかなぁ? ラファエル様に可愛く見られるより、民のために~って走り回る方が好きでしょあの王女』
『ぷっ。まぁ、美人でも可愛くもないことは自覚しているようだからね。着飾っても、ねぇ?』
クスクス笑っているのは構わないけれどね?
私もそこまで女捨ててないし、民は大事だけれど、ラファエルにも可愛いって思われたい気持ちは充分あるんですがね。
流行は王女ですから調べるし、それ相応にドレスをカスタマイズしますよ。
購入はよほどのことがない限り、しないけれども。
お金大事だから。
稼いだお金は優先的に国のために使う。
あまりに余裕があれば、何着かラファエルに頼んで作ってもらうかもね。
………そもそも…
『だいぶおしゃべりが過ぎるようですね』
………あれ?
なんでソフィーがそこにいるのだろう。
手には……あ、洗濯物。
いつも通りソフィーが私の衣類の洗濯をしてくれるみたいだ。
………ってわざわざそこに行かなくても、いつも侍女待機室で力使ってやってなかった…?
なんでそこ……ぁぁ、偶然を装えるよね。
『そ、ソフィー様!?』
『な、何故ここに…』
『ソフィア様の衣類を洗濯するのに、洗濯場に来るのは当然でしょう』
『そ、そうですね…』
タジタジになっている侍女の横にソフィーは洗濯籠を置いた。
『………色々仰るのはよろしいですが、その話題に上がっているお方が稼がれたお金で、貴女達の給金が支払われていることは当然ご存じですわよね?』
『え……』
『何を驚いているんです?』
『い、いえ……わ、私達の給金は民からの税で納められたところからと…』
『今のランドルフ国の平民税がいくらかご存じなのですか?』
『………それは…』
視線を反らす侍女達にソフィーはそっと息を吐く。
『現在平民税は、国が立て直してきたとはいえ、稼ぎの1割です。温泉街は例外ですがね』
平民税とは、平民が王宮へ納める税の事。
これは平民(各領地民)が領主に支払うお金とは違う。
因みに領主に払う税は領税と言い、日本で言う住民税と同じ。
貴族税は貴族が王宮に納める税の事。
『い、1割!? 何故ですか!? 貴族税は変わりありませんのに!!』
『ちょっと待って! 確かお父様からラファエル様からの命令で、領民の蓄えは何処にもないから、領税を取るなと前王太子と前王子がその……捕らえられた後に通達が来ていて…』
『………ぁ…』
ハッとする侍女達に、私は息を吐く。
………それを知っていたのに、理解はしていない彼女達に呆れてしまう。
それに平民税を1割にしても、支払えない人も当然いる。
身体の自由がきかない人もいるから。
現在平民税を納められなくても、何らお咎めもない。
それを理由にわざと納めない人には、当然仕置きがあるけれども。
『当然でしょう? 前のランドルフ国の王族と貴族がしたことで、平民は餓死者が相次ぎ、仕事も出来ない状態でしたから、稼ぎがない。そんな者達から税を取れるはずもないでしょう』
『………』
『勝手に定期的に税が安定して入ってくると思い込んでいる貴女達には分からないでしょうが、そんな中で王宮使用人の全ての給金が賄えると本気でお思いになられてます?』
ソフィーの言葉に返す言葉も無く、侍女達は黙ってしまう。
『貴女達が仕えるべき人をバカにするのは勝手ですが!! ソフィア様がドレス1着仕立てるのにどれだけの費用がかかるのか分かっておられるのですか!? 貴女達が自家でドレスを1着仕立て上げる費用の何倍もかかるのですよ!?』
『――っ!』
いや、それは大袈裟では?
かかったとしても、公爵令嬢のドレスの倍、くらいかな。
あ………でも彼女たちの家は何処か分からないから、やっぱり何倍も、っていう表現は正しい?
『ソフィア様が改国案を出し、稼ぎを出し、ご自分の欲しいものを我慢することで、貴女達の給金を捻出できているといい加減気付きなさい!!』
ソフィーの言葉にハッと侍女達が顔を上げ、目を見開く。
………まぁ、実際には私が我慢しなくとも、今の使用人の数なら充分に給金は出せますけれども。
国庫に余裕過ぎる程のお金は無いのだけれども。
今すぐどうこうなる問題でもなくなった。
けれど、油断したらすぐに空になる。
だからまだまだラファエルから高級品はもらえませんよ。
『貴女達のために我慢しているソフィア様をこれ以上侮辱してごらんなさい! わたくしは絶対に許しません!! ソフィア様が来られてから今までの間に給金を手にしている時点で、貴女達にソフィア様を侮辱する権利は何処にもありません!!』
………ソフィーが格好良すぎる。
『………申し訳ございませんでした…』
侍女達が頭を下げた。
本当に反省しているようだった。
多分、あまり深く考えずに雑談程度で言ってたのだろう…
褒められたことでは決してないけれど、これを期に変わって欲しい。
これ以上、王宮侍女を減らすわけにはいかないのだから。
『さぁ、休んだ分しっかりと洗濯をしてください。まだまだお仕事は残っておりますよ。給金分はしっかりと働いてください。働いた分だけ、ラファエル様とソフィア様はそれに見合った給金をくださいます。皆さん着飾りたいのでしょう? たっぷり稼いで買いたかったものを買いましょう』
『は、はい!』
ソフィーの笑顔を見て、侍女たちはホッとし、仕事に戻った。
もしソフィーが男だったら絶対にこの侍女たちはときめいてたな。
イケメンだ。
『やめてください』
心の声にソフィーのゲッソリした声で返され、聞いていたのかと苦笑する。
私はその後も各所を見て、そっと精霊との繋がりを切った。




