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第392話 これでも主なんです




夕食をラファエルと共に取った後、またラファエルは仕事へ。

そして私の元へラファエルと入れ違いでランが入室してきた。

チラッとラファエルに視線を向けられ、慌てて壁により頭を下げた。

あ、ごめん。

ノックの音がして入室許可出した時にラファエルが丁度出ようとしてたから。


「………何?」

「し、失礼致しました」

「そんな言葉を聞いたんじゃないよね?」


あ、ラファエルが王太子モードに。

無慈悲な王族になってるよ。


「ラファエル様」


私が声をかけると、ラファエルが私を見てくる。


「わたくしがお呼びしたのですよ」

「………何のために?」

「勿論、わたくしの仕事をするためですわ。これから毎日朝晩報告をいただけるよう、侍女に願ったのですよ」

「………ふぅん……そんな事は呼ばれなくても侍女が気付くべき事だと思うけどね」


………あ、あのぉ…ラファエルさん?

聞こえないように言ったつもりでしょうが、こっちまで聞こえてますよ…

ランが固まっちゃってるから…

今まで気付かなかった私達が言えた義理はないのだけれど、そんな事を気付かせてはいけないしね…

王族の威厳…というより矜持かな…が崩れちゃうから…

ごめんねラン…

心の中だけでしか謝れない私を許して…


「わたくしの仕事ですから、こちらからお声がけするのが当然ですよ」

「サンチェス国ではそうしてたの? 侍女は主人の意思を読み、先回りして行動する者だと思っていたけれど。ソフィー達が例外なのかな?」

「………いえ、それは…」

「………そう。ランドルフ国の侍女はそんな事も出来ない、という事だね」


ちょ、ちょっとー!?

ラファエルそんなところまで突っ込まないでよ!?

思わず言い淀んでしまった。


「ごめんねソフィア。不甲斐ない侍女や使用人ばかりで。今まで気づかなかったよ。不自由かけたね」

「………いえ…ソフィー達がいますので、わたくしの身の回りは問題ありません。それよりもラファエル様が不自由していたのでは…」


私はそう返す以外の言葉がなかった。


「俺は大丈夫だよ。1人で全部出来るし」


それが1番問題なのでは!?

思わず叫んでしまいそうになり、すぐさま唇を固く閉じた。

私よりラファエルの方が優先なのに…

ラファエルがランに視線を戻す。


「………しっかり仕事しろ」


ラファエルはランに言い、出て行った。

フルフルとランの身体が震えている気がする。

………まだ若いし、粛清されて人がいなくなって、おそらく1番の古株に必然的になってしまったランが、筆頭侍女にならざるを得なかったのだろう。

なのに先代達が放置した問題を、訳の分からぬまま背負わされて、辛いだろうな…


「タイミングを悪くしてごめんなさいね」


侍女の仕事に関しては謝れないけれど、ラファエルと鉢合わせしてしまったのは私のせいでもあるだろう。

不意にいきなり叱られることとなってしまった。

そこだけ詫びた。

私もラファエルも元々身の回りの事は1人で出来る。

けれど、それでは王宮が機能しない。

使用人は必要不可欠故に、全員の意識向上が必要で…

職務怠慢に関しては許容出来るはずもない。

甘んじて叱られて下さい。

………もう少し早く私も気づいていれば、少しは違ったのだろうけれど…


「い、いえ。わたくしも考えが及びませんで、申し訳ございません」

「持ってきてくれたのかしら?」

「は、はい」


ランの手にある分厚い束に視線を向け、私はランを近くへと呼んだ。


「こちらが現在残っている侍女のリストです。それとこちらが侍女の仕事リストです」


机に並べられ、私はそれを捲らず眺めた。


「………」

「………ソフィア、様?」


後で見るから、とかではなく…

ただ単純に、落胆してしまっただけだ。

私の必要としている資料が、明らかに…大幅に不足していた。

やはりランは筆頭侍女になって、間がない…

ソフィー達がそんな失態を犯すはずもない事を知っている故に、残念でならない。

自分がもっと早く……いや、もうそれを言っても仕方がない。


「ラン」

「はい」

「貴女は、きちんと朝晩と欠かさず申し送りはなさってますか?」

「は、はい」

「そうですか」


………これは早々に人事入替しなきゃかなぁ…?

常識はあるけれど、侍女の仕事の全てを知らない…いや、要領を知らない彼女にはまだ筆頭侍女など早い。


「………あ、あの……わたくし何か…」

「明日の朝で良いです。王宮の使用人が使用する備品購入リスト、使用人の階級別の資料と、給金の割当リスト、休暇リスト、配属時間リストに、王宮入門リスト、今回解雇された使用人達のリストも欠かさずに。全て筆頭侍女執務室にあるはずです。侍女は全ての使用人に関わりますから、把握が必要ですから、各部署から資料が集まっているでしょう」

「え……」

「………1度では覚えられませんか?」

「い、いえ、あの……」


無表情で見れば、ランが狼狽え視線を彷徨わせた。

………やっぱりまだ早すぎるなぁ…と、ため息をつきたくなる。

デキる侍女だと思ったのだけれど、管理者にはまだ向いてない。

侍女は礼儀や常識だけ知っていればいい、とはいかないんですよ。


「フィーア」

「畏まりました」


呼べばフィーアが歩み寄ってきて、ランを扉へと促す。


「あ、あの!?」

「ソフィア様から貴女と共に行き、必要事項をわたくしからまたご説明するように仰せつかりましたので。共にまいります」


名前を呼んだだけではないか!?

………そう思っていそうだ。

目を見開き、唖然と私を見たままフィーアに連れて行かれた。

扉が閉まったときに、思わず空を仰ぎ見た。


「………私でも分かるのに…」


壁際で待機していたアマリリスの呟いた言葉に、思わず苦笑した。


「アマリリスももう少しで侍女になれるかもねぇ……」

「今のが筆頭侍女と言うのなら、見習いの私でも越えられると思いますよ。給金同じだけ欲しいです」


冗談めかして言うアマリリスに笑ってしまう。


『………サンチェス国で、呑気に影の選定やってたわけじゃないんですよ』


ラファエルは貴族のテコ入れしたんだし、今度は私が侍女――使用人のテコ入れ始めますかね。

最短目標は学園復帰まで。

私は手を伸ばして、ランが持ってきた資料を手にしたのだった。


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