第384話 なんか来ました
ポリッと行儀悪くベッドの上で、アマリリス特製クッキーを頬張っているときだった。
「………」
スッと天井に顔を向けた。
………なんか一瞬の間に増えた。
なにがって?
気配が、だよ。
っていうか今更なんだけど、なんで私普通のモブ王女なのに、影の気配分かるのだろうか。
幼いころから付いてたから………慣れ?
………って誰に言ってるんだろ…
様子を伺っていると突然天井から、ドンパチする音が聞こえてきた。
………侵入者かしら。
私は心の中で究極精霊とソフィーを呼んだ。
ライトとカゲロウだけでは対応できなかった場合、ラファエルの影にも手伝ってもらわなきゃいけないから。
騎士?
天井裏に行けるなら今すぐ行かせてるよ。
寝室の扉が開いたと思ったら、足音無く素早く私の周りが固められた。
ソフィーはちゃんと騎士を寄越してくれた。
今頃精霊を通じてラファエルの元にも伝令が行ってるはずだ。
狙いが私なら、下手に寝室から動けば被害が広がる。
動かない方が良いだろ。
アマリリスとフィーアが給仕をしてくれていたけれど、手を振って離れているように指示する。
この場合2人にはやることがない、むしろ足手まといになる為、退出させる。
………さて、一体どんな命知らず――
バキィッと天井が壊れ、天井板の残骸と、2人の人が降ってきた。
ドサッと床に叩きつけられたのは、敵――
じゃない!!
ライトとカゲロウだった。
嘘でしょ…?
一気に寝室が殺気で溢れた。
騎士が全員剣を抜き、天井を睨みつけている。
………ヤバい。
これ以上私に何かあったら強制送還――
バッと天井から瞬く間に寝室の扉の前に黒ずくめの影が並んだ。
………あ、あれ?
何故並ぶ?
私を攻撃しに来たのでは…
私は勿論騎士達も唖然と見ていると、洗礼された礼を同時に行う人達。
………ぁ、あれはサンチェス国の礼だ…
ということは…
監視役、増えたって事か…
ライトとカゲロウをノしたのは、挨拶って事ね…
私はベッドサイドに置いてあった小型タブレット(ラファエルに作ってもらいました)を取り、記入していく。
【………どちら様かしら?】
「突然の無作法お許し下さい。レオポルド様の命令でしたので」
あ、お兄様の方だったのか…
お父様だと思ってた。
【そう。その意図は?】
「ただ単にソフィア様をお守りできなかった罰かと」
………ありえる…
だってお兄様だから…
【それが理由なら、わたくしには擁護できる言葉はございませんね。それで、貴方達は何をしに? 伝言なら1人で充分でしょう?】
並んでいるのは5人。
伝言だけにしては多すぎる。
「この度ソフィア様の専属影になるよう王命で来ました。宜しくお願い致します」
本当の意味で増えちゃったよ!?
要らないよ!!
「我ら5人、この時よりソフィア様に忠誠を誓わせていただきます」
止めて!?
思わず逃げ腰になり、後ずさりたいけれどベッドの上で逃げ場がない。
嫌がっていても、身体が思い通りに動かない私の足を容赦なく取られ、足の甲に口づけされた。
ひぃ!?
私ここ数日ソフィー達に身体を拭いてもらうだけで、お風呂に入ってないのにぃ!!
『そこが問題なのではないのでは?』
ソフィーに心の中で突っ込まれる。
あ、今は様子を見るために心読んでいるのね…
足に口づけって事は、問答無用で絶対忠誠誓われちゃったじゃん!!
忠犬の如く主人の足に躊躇なく口づけられる=絶対服従
主人の為なら何でもできる、という意味だ。
現在の主から別の相手に変える場合、これが必要になる。
でなければ、新たな主人に認められないから。
………ぁ。
イヴとダークが私の影じゃないって事を、これでも判断できたんだった。
今更だけど…
って今はそんな場合じゃないっ!
でもさ、お兄様の影だったんだから、もうちょっと来たくないと粘りなさいよ!
王命だからってあっさり忠誠相手変えないでよぉ!!
影要らないよぉ!!
増えたら増えた分だけ私の本性バレるでしょう!?
『レオポルド様の影は全員姫様のお転婆ぶりは知っていると思いますが』
そういう問題じゃないよソフィー!?
それに全員男じゃないのよぉ!!
ラファエルが不機嫌になるでしょう!?
『………ぁ、そこですか』
そこでもあるんですよソフィーさん!!
【取り消して!!】
「無理です」
無表情で拒否された。
私が王命に逆らう事なんて出来ないけどっ!
いーやーだー!!
「名は捨ててきましたので、ソフィア様が新たに付けて下さい。宜しくお願い致します」
綺麗に揃った礼をまたされ、そして一瞬にして消えた。
言い逃げ…
私はガックリと肩を落とし、ラファエルが駆けつけてくるまで、ベッドに蹲って唸っていたのだった。
騎士達の同情の視線が痛かったです…




