第381話 ある意味最良です⑧
「というわけで、旧国派の連中は大半排除できたよ」
ラファエルが解毒剤の時間に遅れること2時間。
きっと会議は大割れに割れたに違いない。
ラファエルは淡々と結果だけ報告してきたけれど…
何でも無いような顔しているけれど、辛かったのではないのだろうか。
切ることが、ではなく、証拠集めが、だ。
精霊を国中に配置してからというもの、続々と、簡単に悪事の証拠が集まってきていた。
けれどラファエルは然るべき時にと、より確実になる証拠を集めている最中で…
そんなときに私が倒れてしまったものだから、全ての膿を出す前に、確実な証拠を掴んでいる貴族のみの排除に至った。
それにより確実な証拠がない、大小に関わらず悪事を働いていた若干名の摘発が無理になった。
今回のことで、残った者は悪事の証拠を跡形もなく廃棄し、ラファエルに形ばかりででも、忠誠を誓うだろう。
自分が生き残るために。
………私のせいだ。
私はそっと瞳を閉じた。
「ソフィアのせいじゃないよ。むしろソフィアのおかげで大半を処罰の対象に出来たんだから」
………だからラファエルはエスパーなのだろうか…
「顔に出やすいだけだよ」
………ぁぁ、そう…
「学園内の混乱はまだ治まっていないようだよ」
それはそうだろう。
私が学園で倒れてしまったところを見た生徒は、特にショックだろう。
貴族出の幼き彼らは、人が倒れているのを見るのは初めての子が多いと推測できる。
平民なら見る機会もあっただろう。
前のランドルフ国で……
けれどラファエルの改政により、この国は豊かになりつつある。
そんな時倒れた私を見たら、やっぱり平民出身の子もショック受けるかな…
………マーガレットもスティーヴンも、気にしてなければいいのだけれど…
「だけど、特に家督を継ぐ者達には慣れてもらわなければ困る」
ラファエルの言葉に視線をずらす。
言うことは分かるけれど、彼らにそれが出来るだろうか…?
「自分が治める領地の者達が何故倒れていくのか見届け、正しい政を行ってもらわなければね」
コクンと頷き同意する。
それに目を反らして盤面の上でのみの理想を語っても、誰も付いてこない。
今回私が倒れて、自分の保身に走った者達は家督を継ぐ資格はない。
何故そうなってしまったか、を考えられるものは今後期待できる。
「………さて、どれだけ育つか」
考え込むラファエルを眺める。
私は精霊達がどういう報告をしているのかは知らない。
精霊達にラファエルに協力して欲しいとお願いしただけで、どういう指示を出しているのかは知らない。
将来有望な生徒、あるいは危険な生徒にも、精霊を付けているのかもしれない。
あの後の学園のことを知っているのも、精霊の報告もあるのだろう。
「何人か見繕ったんだけど、ソフィアにも見定めて欲しいんだよね」
………私に?
無理でしょ…
「どうして?」
私に見る目がないのよ…
「そんな事ないよ。誰がどんな地位にいるか分かるでしょ?」
………ラファエルの言っている事が意味不明だ。
………あれか?
騎士じゃないと見破ったことがあるとか。
あれは、動きで判断しているのであって、政治に向いている向いていないの判断ではない。
その人間がどう思ってどう動くかなんて、人の心が読めない限り不可能よ。
「よろしくねソフィア」
………さっきまで私の考えを読んでいたんじゃないのか…
なのに最後は知らぬふりで無茶振りしたよこの王太子…
そんなところだけ腹黒王子しなくていいよ!
「あ、ルイスに怒られる」
え……
一方的に言って放置していく気ですか!?
慌ててラファエルの袖を掴もうとして、逆に手首を掴まれ、唇を塞がれた。
あ、誤魔化す気だ!!
抵抗するも力は敵わず、私を腰砕けにしたラファエルは上機嫌で寝室を出て行った。
私は追いかけることも叶わず、ぐったりとベッドに横になった。
………これもラファエルが私を政治に加える1歩なのかな…
頼られてる、と理解すればそれも悪くないと思える。
慣れないことだけど、これもラファエルの妻となるため!!
………
バフバフと思わず枕に顔をぶつける。
つ、つつつ妻って……私ったら……!!
カァッと顔が赤くなるのが分かる。
自分で思って自爆して、そのまま暫く枕から顔を上げられなくなったのだった。




