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第38話 彼は私など不要でした




二週間。

私が王宮から抜け出せずにいた期間だ。

ラファエルに会えない日も同日。

そして、ラファエルの甘味店が開店して12日間。

私は漸く抜け出せ、甘味店へと平民服で視察と称してお忍びでやってきた。


「………なに、これ……」


店の前にはずらりと並ぶ貴族の使用人と平民。

ちゃんと入り口は別になっている。

貴族用と平民用で。

だから列は必然的に分かれるのだが……

両列の最後尾は目で見られる距離になかった。

何処までも続く列。

しかも――


「………動くの、早……」


店に入ってものの数分で出てくる。

だから長蛇の列も動くのが早い。

どうやって捌いているのだろうか……

平民服であるため、列に割り込んで覗き込むわけにもいかないし…


「一体…なに…が……」


理解できなかった。

こんなに沢山のお客に渡るような量など、材料が何かは知らないが揃えられるはずがないのに。

それに材料の生産量は…

レオポルドに言われた言葉を思い出していた。

ラファエルは、一体どんな裏技を使ったのだろうか。

この分なら本当にレオポルドが言っていたとおりになるのではないか。

借金完済……

遠い話だと思っていた。

一年の期間で目処が立つはずもないのに……

自然と私の頬に一筋の雫が零れた。


「おーおー繁盛してるね~」


いきなり後ろから声が聞こえてビクッと飛び跳ねてしまった。


「お、お兄様……」

「なんだソフィア。泣いてるのか?」

「な、泣いてない!!」


慌てて頬を拭う。


「下手な嘘つくなよ」

「そ、それよりなんで……」

「俺はパトロンだから」

「………はい?」

「ソフィアと話した後、ラファエル殿の所に行って同じ事話したわけ。そしたらアイツなんて言ったと思う?」

「………ぇ……」


何だか嫌な予感しかしない……


「『じゃあ慈善投資で金出して下さい』だぜ?」

「………」


ラファエル……何やってるの……

レオポルドも何故許したの…

貴方達、仲悪かったんじゃ…


「嫌だって言ったら、『じゃあ王家には売らないようにします』なんて言いやがった。俺が父と母に殺されるじゃねぇか」

「………」


ラファエル…なに脅してるの……

私は思わず頭を抱えてしまった。


「だから、借金って形で金貸してやった」

「え……」

「で、その借金、もう返して来やがったから、どうなってるか見に来たってわけ」

「嘘!?」

「ほんと」


私は店に視線を向けた。

未だに列が続き、お客の出入りが激しい。


「わ、わずか12日で、ってこと、よね……?」

「アイツどんな手使ったんだよ。こんなこと前代未聞だぞ。………材料費で渡した金額をわずかな期間で返し、更に残った利益で材料を揃えられてこの長蛇の列。………貴族側の甘味の金額はぼったくってる可能性あるな」

「それはないよ」

「何故?」

「私が前にそれ言って、ラファエルに注意されたから。だからラファエルはそうならないようにギリギリの上限で売ってるはず」

「へぇ…」


暫く私とレオポルドはお客の列を眺め、その場を後にした。


「ラファエルは、私なんかいなくても商売の才能はあったんだね! この分だと国を立て直すのにそんなに時間がかからないね! よかったぁ!」

「空元気止めろ。お前らしくない」

「失礼ね!?」

「元々お前は王女だ。政治や国の金のことに首突っ込める立場じゃねぇだろ」


グサッと刺さった。

思いっきり胸に。

レオポルドの言葉が。

………そんな事分かっていた。

王女だから政治関係の教育などなかった。

ダンスや刺繍などの教養だけ。

朝議にも出たことなどない。

母と同じで部屋にいるだけ。

――何をうぬぼれていたのだろうか。

日本の記憶が役に立つ?

………何に?

仕組みなど何も知らないで。

こういうものがあった、だけの知識で私は国のことに首を突っ込めると思っていたのだ。


………最悪……


スッと横を通り過ぎていく兄。

私は兄の背を追えなかった。

真っ直ぐに背を伸ばして歩いて行く背中は遠くて――


「ラファエルがいても、多分同じように背中は遠く感じるだろうな……」


自分の無力が、凄く苦しい。

学びたい。

この世界のことを。

私は、ラファエルのパートナーだ。

彼をサポート……出来る…かな……

自分に自信がなくなった。

ブンブンと首を振り、私は走った。

兄の背を追うように。

ちょっとでも距離をつめたくて。


「ああ、ソフィア」


クルッとレオポルドが振り返る。


「帰ったらお茶するか」


私の気持ちを落としたのはレオポルドなのに…

私が落ち込んでいると気づくと昔から同じ台詞と笑顔を向けてくる。

怒りたいのに、その顔を見ていると私は何も言えなかった。

コクンと頷いて、差し出してくるレオポルドの手に捕まる。


――ぁ


今まで家族の…他人の手は冷たかった。

でも今触れたレオポルドの手は温かかった。

ラファエル以外で温かいと思ったのは初めてだった。

………どうしてだか分からない。

でも、凄くホッとした。

家族の温かさを思い出せたように、心が温かかった――


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