第379話 ある意味最良です⑥ ―R side―
俺は今、最高に不機嫌だ。
定期会議はやらなければならず、ソフィアの薬の時間に部屋に戻れないことが1つ。
新たな議題はあるかとルイスが言った途端に、問題勃発なのが1つ。
「どうするのだ! サンチェス国王女に毒を盛った責任はその者の家にも及ぶだろ!」
「家は関係ない! 勝手にやったのだろう!」
先程からこの調子だ。
新国派と中立派、そして旧国派の領主達が言い争いを始め、俺はそれを冷ややかな目で眺めていた。
首謀者は侯爵家令嬢、実行犯は伯爵家と子爵家の令嬢だった。
その者達はやはり旧国派の貴族家で、その者達の領主が旧国派でも孤立しつつある。
だがやはり旧国派はソフィアの改国をよく思っていないため、擁護はしないが敵対には躊躇がある。
「1ついいか」
ふと、部屋に静かに響く声があった。
声はそんなに大きくないのに、不思議と全員の耳に入り、しんとするほど。
ガルシア公爵だった。
「責任の有無は首謀者と実行犯にあるのは勿論、そしてその家にまで及ぶかどうかは、ラファエル様の采配。我々がどうこう言うことではない」
その言葉に俺は口角を上げた。
「我々が今把握せねばならないことは、ソフィア様の容態。そして、サンチェス国の動き。国民の動揺がどれ程なのか」
そう。
議題にするのはいいが、俺もルイスも何も発言していない。
なのに勝手に盛り上がってくれるから、静観していたのだ。
誰がどんな発言をするのか。
それを止める発言をするのは誰か。
公爵家の人間は言い争いに参加せず、俺の言葉を待って口を噤んでいたのだが、流石に我慢の限界だったらしい。
ガルシア公爵の言葉に、誰も言葉を発することはなくなった。
「………ようやくか」
俺の言葉が静かに響き、先程まで言い争っていた人間は肩を揺らした。
さすがにマズいと思ったのか、旧国派の連中も視線を反らす。
「ソフィアの容態は芳しくない。が、解毒剤のある毒で幸いだった。まだ起き上がることも出来ず、毒のせいか声が出ない状態だ」
「ラファエル様。ソフィア様のお声は戻るのでしょうか?」
「ああ。毒が完全に体内から無くなれば、戻るだろうと言われている」
公爵達を含め、新国派と中立派がホッと息を吐くのが映る。
「使われたのは神経毒の一種。急激に身体能力を低下させ、体温が下がる毒だった。あと少し治療するのが遅ければ、命を落としていたとの診断だ」
吐いた息がそのまま飲み込まれるのを見る。
………そうなっていれば、同盟は勿論、俺は全てを無に返してソフィアの後を追ったかもしれない。
「サンチェス国王は、ソフィアの意思を汲み、今は静観するという事だった」
それにもホッとする者達がいるが、安心してもらっては困る。
「………が、ソフィアの容態が悪化、もしくはこの隙に更にソフィアを傷つけようとする者が現れた場合、そしてソフィアを傷つけた者の処分がサンチェス国王の望む物ではなかった場合、サンチェス国との同盟は終わる」
ザワッと一気に動揺が広がった。
それが落ち着くまで俺は口を噤んだ。
再び静かになった時、俺はルイスに合図をする。
「サンチェス国王は同盟を終わらせた場合、どのような対応をするか書面で送ってくれている」
「私が読み上げます。
1・ソフィア様の即帰国。
2・ソフィア様が提供した全ての改国案で生み出された商品の凍結。
ソフィア様が亡くなられていた場合は、全権はサンチェス国へ移る。
今後一切ランドルフ国での生産は許されない。
3・サンチェス国から定期輸出していた食物の打ち切り。
4・サンチェス国の他国同盟国への通告。
5・サンチェス国への国境閉鎖。一切の入出国を認めず。
以上です」
これには旧国派も一斉に顔色を変え、真っ青になっていく。
「ソフィア様が提案した物はもうランドルフ国の物では!?」
「ソフィアが出した案は全ての権限がソフィアにある。その書面も我が国とサンチェス国それぞれ1部ずつ保管している」
暗にそれを奪って燃やしても無駄だと知らしめる。
甘味、ミシン、指紋認証、ランドルフ国の地を流れる源泉、温泉、装飾品、筆記具、時計、ミルンクやコッコの育成、ラクノウ…だったか、ギュウニュウやタマゴも摂れなくなる等々。
生産がなくなれば、ランドルフ国は終わる。
「定期食物が無くなるのですか!?」
「当然だろう。同盟の条件だ。同盟が終わればそれも終わる」
それぐらい、考えなくても分かるだろう。
「他国への通告とは!?」
「サンチェス国と懇意にしているサンチェス国の同盟国に、我が国がしでかしたことが通知されるのは当然だろう。自国王女がされたことを他国に対して行われれば、サンチェス国も信用を失う」
他国からの行商人も来なくなる。
民は勿論貴族も死ぬな。
「一切の入出国を認めないなど、横暴なのでは!?」
「当然だろう。国民を傷つけられても困る。自国王女まで傷つけるランドルフ国民は、信用できないだろう」
ギリギリと歯を食いしばる者達が何人もいる。
………どうしてこう頭の悪い連中ばかりが貴族を名乗っているのか。
「………さて、これだけの事態を引き起こす罪を犯した犯人は勿論、そんな者を生み出した家になんの咎がないとは言えないな」
俺の言葉にサッと顔色が変わる者がいた。
「………捕らえろ」
周りに立っていた騎士達が一斉に侯爵1名、伯爵2名、子爵1名を捕らえた。
「お、お待ちをラファエル様!!」
「彼らを推薦した貴族家も要らぬ。捕らえろ」
俺は容赦なく貴族達を捕らえさせた。
先程の者達に続いて、侯爵2名と伯爵1名を捕らえさせる。
実行犯の侯爵令嬢の親である領主を推薦したのはアンドリュー公爵だが、彼は無能では無いし、その侯爵をそそのかしていたのはロペス元侯爵だと分かっているため、アンドリュー公爵は対象ではない。
その後も悪事の証拠を掴んだ者達には捕らえさせてもらった。
もうこれ以上、勝手にはさせない。
捕らえられた者達が次々と悪態をついて引っ張られていくのを、無表情で見つめた。




