第378話 ある意味最良です⑤
バタバタと走り回る足音。
私が毒に倒れた日から、王宮内はピリピリしていた。
ラファエルの時は内密にされていたけれど、私の場合は学園での出来事だったから、かなりの速度でランドルフ国中を情報が駆け巡ってしまった。
新国派と中立派の貴族達が次々と王宮を訪れている。
私の見舞いの品もだけれど、ラファエルに面会願いが後を絶たないらしい。
新国派と中立派は危惧していた。
私が害されたことで、しかも食によって倒れてしまったために、サンチェス国王の怒りを買うのではないか、と。
無表情で私に向かって報告するライトは相変わらずで…
全て報告し終えたライトは姿を消す。
………仕事に忠実でなによりです。
それより私は、現在頭を悩ませていた。
新国派と中立派の貴族達から贈られてきた見舞いの品が、寝室の空きスペースに山盛りにされていたから。
………どうするの……あれ……
さすがに食で倒れたから、なまものはないらしいけれど…
装飾品や宝石など、煌びやかな物ばかり。
ドレスを贈ってくる非常識はいなかったけれど、上質な布を贈ってきている人もいる。
………あの、さ……
貧困してたんだから、豪華な贈り物なんてしてないで、民に還元して欲しいんだけど…
そうは言っても貴族の見栄も分かるから、突き返したり出来ないのだけれど…
でも、ラファエルの機嫌は悪くなる一方なんだよね…
私がラファエルから高級な贈り物を受け取らないのに、貴族のは受け取っているから…
理由が理由だけに、直接私に何かを言ってくることはないのだけれど…
「姫様。こちらの布はクローゼットでよろしいでしょうか?」
ソフィーの言葉にコクンと頷く。
「宝石は宝石の引き出しに入れておきますね」
フィーアの言葉にコクンと頷く。
「装飾品も装飾品の所へしまっておきますね」
アマリリスの言葉にコクンと頷く。
毒の副作用か、私は現在言葉を発することが出来なくなっていた。
医者には毒が抜けきる頃には、声も出せるようになるだろうと言われているから、取りあえず一安心している。
それにしてもラファエルに負担をかけている。
面会する貴族達の相手。
私に毒を飲ませた者達の尋問。
サンチェス国にどう報告するかの協議。
私のせいで、要らない負担をかけているのが辛い…
ランドルフ国に広まっている今回のことは、どうやっても隠し通すことが出来ない。
下手な噂でお父様とお兄様の耳に入るより、ラファエルから丁寧に事のあらましを伝えた方がいい。
一刻も早くとラファエルはサンチェス国へと詳細を送ったらしい。
尋問は途中で、全ての事が明らかになったわけではないけれど。
私も一筆書かせてもらって(ソフィーの代筆で)一緒に送ってもらった。
それでかもしれないけれど、お父様からは『静観する』との返事だったらしい。
………ラファエルを脅す言葉もあったようだと、カゲロウから報告を聞いている。
有耶無耶にされたら、多分私の身柄は容赦なくサンチェス国へと送られ、2度とこの国に来ることは出来ないだろう。
早く解決して欲しいな…
私はそっと目を閉じた。
その瞬間、ガラガラと何かが崩れたような音がした。
「あいてっ!?」
「何やってるんですか!」
「す、すまん…」
「アルバート、手伝ってるんですか邪魔してるんですか」
「て、手伝ってるんだよ!」
「だったら早く片付けて下さい」
………護衛達は今日もいつも通りでなによりです。
最初に目を覚ましたときは、心配して涙する人もいたけれど、翌日からは通常運転になって、いつも通りに接してくれるから楽だ。
まぁ、ラファエルみたいに動き回ったりしていないからかもしれないけれど。
大人しくベッドに寝てますよ。
体力回復のためか、しょっちゅう眠くなる。
起きてるときは、ぼーっと本を眺め読みしている。
頭には入っていないのだけれど、何かしていないと思考がどんどん暗くなっていくから。
「ソフィア起きてる?」
またウトウトしているとラファエルが入ってくる。
ハッとして目を開き、自力で上半身を起こす。
「寝てなよ」
飲んだらね。
解毒剤を飲む時間になるとラファエルが絶対にやってくる。
起き上がれなかったら口移しで飲まされるから、私は何が何でも起き上がらなければいけない。
恥ずかしすぎるから。
残念そうなラファエルを見なかったことにして、私は解毒剤を飲んで、今度こそ私は眠りについたのだった。




