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第376話 ある意味最良です③ ―? side―




ラファエル様が王女を抱えて去って行った。

教師が教室へ促し、生徒達が移動していく。

スッと私の横をすり抜けていく方の腕を掴む。


「ど、どういうこと、ですか……」

「………離して下さらない?」


ここに私とこの方しかいないのを確認して、見上げる。


「あ、あれに……毒が……入っていたのですか?」


震える唇から何とか声を絞り出す。

聞いていない。

私は聞いていなかった。

だって、ちょっと調子に乗っている王女を困らせてやるだけだと、渡された甘味だったのに。


「わたくしは知らないわ。わたくしは渡しただけですもの。毒を勝手に盛ったのは貴女でしょう?」


冷ややかな顔で見下ろされ、血の気が引いていく。

違う……

違う違う!!

私は何も…!!


「私は何もしておりません…っ!」

「痛いわね。離しなさい!」


ドンッと突き飛ばされ、雨で泥濘んだ地面に倒れ込んでしまう。


「わたくしは貴女に甘味を渡しただけですわ。貴女が勝手に毒を盛って王女に投げつけたのでしょう? 関係ないわたくしを巻き込まないで。迷惑だわ」


私はこの時になって漸く、利用されていたのだと気付いた。

私はラファエル様を敬愛していた。

素敵な王女様と……美人で優秀な王女様と素敵な結婚をなさるのだろうと、疑っていなかった。

それなのにいきなりサンチェス国王女が……大して綺麗でも、可愛くもない王女がラファエル様の隣に当たり前のようにいた。

敬愛していたラファエル様が、そんな女と一緒にいないといけないのかと、哀れんだ。

ちょっとした嫌がらせのつもりだった。

王女に対して貴族の私がそんな事をすれば、罰を受けることは分かっていた。

それでも、ラファエル様を助けようと…


「ああ嫌だ。貴女みたいなたかだか子爵家の令嬢が、ラファエル様を助けるなんておこがましいにも程があるわ」


まるで汚物を見るかのような、そんな顔で見下ろされる。


「身の程を知りなさい」


この人にとっては、私は道ばたの雑草。

人として見てもらえない。

最初から、そうだったのだ。

それにも気付かず、私はラファエル様を助ける正義の女なのだと、思い込んでいたのだ。

先程のラファエル様の言葉に青ざめると共に、ラファエル様は王女がとても大事なのだと気付いた。

政略だろうとも、国を守ろうと王女との婚約に嫌々でも縋るしかなかったのだと。

王女はサンチェス国と繋がり、そしてこの国の行商にも繋がっていた。

食がなくなれば人は生きていけない。

結果的に私が投げた甘味が、敬愛するラファエル様を苦しめる原因を作った。


「ぁ……ぁぁ……!!」


泥だらけになるのも気にならず、私は地面に蹲った。

立つ気力も無かった。


「………見苦しい。わたくしからラファエル様に告発しておきますわ。貴女が王女に毒を投げつけたとね。毒を飲み込んだのは王女の意思であることも伝えるわ。少しは罪が軽くなるのではなくて?」


クスクスと笑われ、私は自分の愚かさに改めて嫌悪した。

ラファエル様に伝えられれば最後、私は敬愛するラファエル様から蔑み以外の視線を向けられることは永遠になくなる。

よく自分で考えもせず、言葉巧みに操られた私のせいだ。


「げほっ!」


自分の罪の重さに耐えられず、その場で嘔吐してしまう。


「やだわ汚い。やっぱり貴女は汚らわしい人間ですわね。安心なさい。ラファエル様はわたくしが必ず幸せにしますわ。雑草の貴女と、泥棒猫のソフィア・サンチェスからお救いして、ね」


もうこの方に言い返す気力も無い。

虚しさだけが残っている。


「――さて、それはどうだかな」

「!? だ、誰!? うっ――!!」


第三者の声と、誰かが倒れる音。

ゆっくりと顔を上げると、全身黒ずくめの人達が、私とあの方を囲むように何人も立っていた。


「我が主を毒に犯した上に侮辱した罪。決して許されると思うなよ」

「………っていうか、なんで主が“泥棒猫”? 横取りしようとした女はこいつだよね?」


あの方が黒ずくめの1人に足蹴にされようが、何も感じなかった。


「女は自分の妄想に取り憑かれ、現実逃避する生き物なんですよ」

「ふぅん。要するにバカなんだね。主攻撃されて俺達が動かないはずないのに。死ぬまで追いかける」


私と倒れたあの方を取り囲む向こうには、私と同じく甘味を王女に投げつけた女生徒2人が拘束されている。

………ぁぁ……最初から私達は監視されていたのだと気付く。

そりゃそうよね。

王女に護衛がついていないこと、ないものね…

近づいてくる足音にも反応できず、私は顔を俯けた。


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