第370話 続編って何ですか②
「2のヒロインは、異世界人で聖女と呼ばれていまして、魔術国であるマジュ国へ召喚されます」
アマリリスの言葉に、思わずジト目になる。
何故ここで魔術?
1では魔術のまの字も出なかったのに。
精霊のことだって出てなかったのに。
………あれか。
流行りに乗っかるのは何処の業界も同じか…
しかも国名の適当感は相変わらずね…
なんだマジュ国って…
手を抜きすぎだろう…
そもそも魔術って何?
精霊の力とはまた違うの?
召喚って事は……魔法陣とかいるのよね…?
ううん……??
「各国に起こっている奇怪現象を解決できる唯一の聖女として、従者と共に旅に出ます。各国の王子を旅の間に集め、旅の間に親睦を深めるという」
………ぁぁ、うん。
そもそも奇怪現象が起きる理由も現象も分からない。
この世界に何が起きている設定なのだろうか…?
精霊がいるなら、精霊と協力して解決できないのだろうか?
………異世界の人間が持つ特別な力とか?
そしてラファエルはいつ出てくるのだろうか。
まぁ…国が大事なラファエルは奇怪現象解決できるならと、一緒に行くだろうね。
「王子には当然婚約者がいる立場ですが」
「………ぁぁ、ここで“略奪愛”が出てくるのね…」
ゲームのタイトルを思い出して、遠い目になってしまう。
「はい。ラファエル様は1ではテイラー国王女と冷め切った夫婦生活を送ると番外編で出てきましたが、2ではカイヨウ国の王女と婚約を」
「意味が分からない。何故設定を変える!?」
「………そういう所が三流ゲームなのかと…ぁぁ、でも1とはまた違ったストーリーなので、最初から攻略、と言ってもいいかもしれません。1の攻略キャラにラファエル様達を加えた新たな物語」
「なるほど……続編、というより新ゲーム設定って事ね…」
「はい」
はぁ…と思わずため息をつく。
………ってかラファエル達って……ラファエル以外に新キャラがいるのね。
ちょっと気になるわ。
「で、ユーリア・カイヨウがラファエルの婚約者として、2のヒロインにどう関わってくるの?」
王子だけがヒロインについていくなら、接点ないよね…?
ヒロインと絆を深めるだけなら、婚約者の存在は要らないし。
「親密になった相手と相手の国に帰ったときに一悶着あります。まぁ、いわゆる悪役令嬢役として」
「………へぇ…」
「ヒロインが滞在中に嫌がらせなどを行い、婚約者にバレて破棄されるという」
「王道の道筋という事ね…」
ってかそもそも婚約者との間には政略があるはず。
なのに恋愛を取るって、男にも問題があると思うけど。
召喚ということは、いわゆる異世界の者でヒロインは何も知らない女の子。
その子を選ぶということは、国より女を取る無能――
国が大事って心を無くしちゃうなんて…!!
ガックリと私はまたその場に崩れ落ちてしまった。
「姫様!?」
「………嫌だ…」
「え…?」
「ラファエルがそんな恋愛バカになったところを見るのなんて…!!」
そんなおバカなラファエルなんてありえない!
ラファエルは格好よくて、何でも出来るイケメン王子だもの!!
イメージを崩さないで!!
「………何をどう考えたんですか姫様……そもそも、今のラファエル様も相当な姫様バカになっていると思いますが…」
「うっ……!?」
何気にアマリリスの言葉にダメージを受けてしまった。
カァッと頬が赤くなっていくのを感じる。
「で、でも、ラファエルはちゃんと仕事もしてるし、国を放り出してないもん!」
「はい。ですからヒロインと幸せに過ごしますよ」
「え!? ラファエルが私以外と幸せに暮らすの!?」
ギョッとしてアマリリスを凝視してしまう。
ら、ラファエルが別の人と……
「いやぁぁあ!!」
私は叫んでしまい、ドタドタと隣の部屋で護衛達の足音がする。
隣まで響いちゃった!?
慌てて口を押さえる。
だけど、瞳が潤んでしまう。
「落ち着いて下さい。ゲームと現実の区別をつけなさいと私に言ったのは姫様ですよ。ゲームのヒロインと比べてどうするんですか」
「だ、だだだだって!! ユーリア・カイヨウが出てきたって事は、2のヒロインもいるかもって事でしょ!?」
「………ですね。そもそもそういう話をしようとしてたんでした」
「いやぁぁああ!!」
再び叫んでしまい、今度こそ護衛達が寝室の扉を開いた。
けれど、私の視界にはアマリリスだけが映っている。
嘘だと言って!!
2をやりたいと思った先程の自分を消し去りたい!!
そもそも乙女ゲームでラファエルが攻略対象なら、そういう事になるって気づけよ私!!
画面上のヒロインになってラファエルと恋愛したい♡
って前世の私が思うなら普通だけれども、現在婚約者の私がそれ言っちゃったらダメでしょ!!
………ぁ…♡マーク付けちゃった……
私のキャラじゃないって…
………そうじゃなくて!!
さっきまでの私爆発しちゃえ!!
無意識に自分以外と親密になるラファエルを知りたいと思ってしまうなんて!!
違うよ!?
内容が気になっただけで、決してラファエルと他の人の恋愛を見たいと、知りたいと思ったわけじゃないから!!
「ですから落ち着いて下さい! 大丈夫ですよ! 姫様以外の女にラファエル様は目移りなさいません!」
「ヒロインとユーリア・カイヨウがラファエルに言い寄るのが嫌なの!!」
「それは……」
ないとは言い切れないのだろう。
アマリリスは困った顔をしている。
「ぅぅ……ラファエルがまたモテ期に入るよぉ……勉強できない私がユーリア・カイヨウに勝てるわけないじゃない……試験で2位だった彼女と、58位の私じゃ勝負にならないよぉ…どうしよう! 試験でまた勝ったらラファエル寄越せとか言われたら! せめてランドルフ国の為になる勝負を!! それなら勝てる自信が!!」
「はい、ちょっと落ち着こうかソフィア」
座り込んでいた私の両脇に後ろから腕が差し込まれ、ヒョイッと持ち上げられた。
「………へ!?」
慌てて後ろを見ると、そこにはラファエルがいて……
いつ入ってきたのだろうか…
私は暫く固まっていたのだった。




