第37話 流石王家と最早感心です
「出来たってさ」
「何が」
「甘味店」
「………」
何言ってんだこいつ、みたいな目をしてしまった。
ごめんねお兄ちゃん。
「いやぁ、父が物凄い勢いで指示してると思えば、15日間で作ってしまうなんてねぇ」
「………」
確かに手紙を受け取ってからここに来るまで約一週間。
で、謁見済ませてパーティの準備に約10日間。
決まってから17日しか経ってないんですが。
もう権力凄すぎるよね。
………いや、ゲーム設定なの?
現実だと分かっていても言いたくなる。
「………で、ラファエルが朝早くに走って出て行った、と」
「うん。凄い勢いで」
むぅっと頬を膨らませてしまう。
「置いて行かれて寂しいのは分かるけど、そういう顔は愛しい婚約者の前でだけにしたら?」
「ちょっ!? 寂しくないし! 怒ってるんだし!」
「………愛しい婚約者には突っ込まないんだ?」
「そっちに突っ込んだら終わる気がする!!」
レオポルドのからかいで。
面白がってるの顔で分かるし!
「店兼宿に出来るようにしてるから、職人と一緒にあっちでもう作業してるんじゃないかなぁ?」
「ラファエルったら、なんで私を連れて行かないのよ! 何か手伝うことあるかもしれないのに!」
「ないな」
「即答!?」
「不器用なお前連れて行って何の役に立つんだよ。菓子屋で刺繍すんの?」
「ぐっ……」
流石兄。
私の得意分野をよく分かっている。
「それとも謎の物体の食い物でも出すのか?」
ケラケラ笑うな腹黒王子!!
「………開店はいつ…」
「2・3日中にはってさ。だから帰ってこないんじゃね?」
「………そう、ね」
「それが軌道に乗れば、王も許すんじゃね?」
「………へ?」
「俺も食わせてもらったがホントに美味だったよ。ソフィアを奪ったアイツが作ったって言われなきゃ、もっと評価したいぐらいだ」
………シスコンいい加減にしろ、とは言えない。
むしろ今までシスコンとは思ってなかったし。
「貴族令嬢に受け入れられるだろうし、庶民もな。多分、当たる。逆に職人の手が足りない。うちの民使いたくなきゃ、ランドルフ国からもっと連れてくる算段した方が良いぞ」
「………そんなに?」
私は食べた瞬間、いけるかもしれないと思った。
でも、前世の時の記憶があるから、借金の足しになるかもしれない、という程度の物だった。
今回連れてきているパティシエは、10名。
それが足りない…なんて。
「俺の推測だと………そうだな。半年もあれば借金チャラに出来るんじゃねぇか?」
「うそ!?」
「ほんと」
思わずガタンとソファーから立ち上がってしまうほどに、動揺した。
レオポルドは優雅に紅茶を飲んでいる。
なんだこの温度差…
「ただ、難問あり」
「………ぇ?」
「それほどまでに繁盛すると俺の計算上は出ている」
「うん」
「だが、それを稼ぐだけの品物を維持できるか。品物を作るのには元材料がいる。今の手持ちで用意できるのか?」
「………ぁ…」
「更にその食材は、この国で量を買い付けられるのか?」
「………」
「それを継続的に出来るのか? 生産量は?」
レオポルドの言葉に私は力を抜き、ソファーに座った。
「………分からない。材料も何もかもラファエルが管理してるから……私には話してくれないし…」
そうだった。
どんな物でも元になる材料が必要で。
それを揃えるのにはお金が必要で。
更に希少な食材があれば入手困難。
………提案した私がそれを考えていない――思いつかないとは……
「………お兄様」
「ん?」
「お兄様は……王子だったのですね」
ズルッとレオポルドがソファーから滑り落ちそうになった。
「元からだけど!?」
「でも、性格悪い王子とばかり思っていたから、仕事できる優秀王子って評価だけひとりでに広まっているのかと」
「全部実力だから!!」
「でないと王の名代として他国に交渉行けないよね」
「そうだよ。そういうのはきっちり教わってるよ。もうすぐそういう時期だし」
レオポルドは今年で22。
あと3年で世代交代を視野に入れなければならない年齢だ。
レオナルドがいなくなった今、王太子になれるのはレオポルドしかいない。
………いや、そもそもレオナルドは王太子になれるなど誰も思っていなかったんだけどね……
「流石だね。私は具体的な政務のことなど分からないし。商売のノウハウも分からない」
前世でも仕組みは同じだったはずだけど…
私はそんなこと気にもとめてなかった。
こういう所も、やっぱり私は支えになれてないんだなぁと思う。
思いついたアイデアだけ渡して、後はラファエルに丸投げ。
何が手伝えることがある、だ。
私は難問を投げつけてるだけ。
自分に失笑し、紅茶のカップに口を付けた。
 




