第368話 また絡まれました
「ソフィア、ちょっと待っててくれる? 教師との打ち合わせがあるんだ」
「はい」
ラファエルを見送り、私は席に座ったまま帰ってくるのを待つことにした。
あ、図書室で待つって言えば良かった。
「ソフィア、次の休みに予定あります?」
「ないよ。どうしたの?」
「お買い物に付き合って欲しいのだけれど…」
ローズが買いに行きたい物。
想像できてしまうから、笑ってしまう。
「失礼。今お時間ありますわよね。ラファエル様をお待ちなんですもの」
視界に縦ロールが入ってくる。
………またか。
「………失礼ですが、サンチェス国王女だとお分かりの上、共通規約を無視する行為であることは、お分かりなのですか?」
「ええ。ローズ・ギュンター嬢には用はありませんの。わたくしはソフィア様に用がありますのよ」
ローズに注意されても、彼女は引かなかった。
共通規約を無視しても、許されると思っているのだろうか。
というか、ローズはこっちでサンチェスで通しているはずなんだけど、ギュンターを出してきたか…
知識はある令嬢なんだろうけれど…
「改めて名乗らせていただきますわ。わたくしはユーリア・カイヨウと申します」
胸元に手の平を当て、優雅に微笑む令嬢。
まさかのカイヨウ国の王女でした。
なんで…というかいつランドルフ国に、しかも学園にいるの…?
ラファエルからもルイスからも聞いてないんだけど…
「………カイヨウ国の王女でしたか。失礼致しました」
私は立ち上がり、礼をする。
「カイヨウ国から編入しているとは夢にも思いませんでしたわ」
「もう編入して随分経ちますが、自己紹介させていたただいたのに、お2人は覚えていらっしゃらないのね。サンチェス国の方は少しご理解に時間がかかるようですわね」
クスリと馬鹿にしたように笑われる。
周りのクラスメイトはハラハラしながらこちらを見ているようだ。
「失礼ですが、わたくしが学園に登校しているときには、ユーリア様は自己紹介などされてはいませんね」
「………なんですって?」
「わたくしも聞き覚えがございません。わたくしたち2人がいない時に編入し、自己紹介されても、覚えることが出来ませんわ。そんな能力はありませんもの。申し訳ございません」
ニッコリ笑って言うと、カッとユーリアの顔が赤くなった。
自信満々に言うのはいいけれど、私達がいたかどうか、貴女も覚えておいて欲しいものです。
「ユーリア様はわたくしの成績をご存じでしたし、お褒めいただきました」
嫌みだろうけれど。
「ユーリア様もさぞかし素晴らしい成績を残されたのでしょうね」
両手を合わせて微笑むと、ふふんっと得意げな顔をした。
「わたくしは2位ですわ!」
得意げに言われた言葉を頭で繰り返し、ギョッとする。
………ラファエルの、次……
少なくともマーガレットとスティーヴンが思っていた、私がなるだろうと予想された順位だ。
「ラファエル様に相応しいのはわたくしだと思いません?」
ボソッと耳元で囁かれ、私の顔色は悪くなっているだろう。
………ぁぁ、この人もラファエル目当てだったのか、とすぐに分かった。
彼女も王女だ。
ラファエルと婚姻できる地位にいる。
そして試験は私よりずっと上。
私より後に編入して、その成績は評価されるだろう。
旧国派の人達には、もってこいかもしれない。
改国していく私のアイデアを受け入れられない人達は、成績を理由に私をラファエルから引き離そうとするかもしれない。
「仲良くしてくださいませ。同じ王女ですもの」
ユーリアはチラリと教室の扉を見て、微笑む。
ラファエルが教室に入ってくるところで、多分条件反射だろうけれど、ラファエルもユーリアに微笑み返していた。
ズキッと胸が痛むけれど、表情には出せない。
そっとローズに肩に触れられ、それによって私は持ちこたえられた。
「では、失礼致しますわ」
ユーリアが教室から立ち去るまで、私は呼吸が出来なくなっていたことに後から気付いたのだった。




