第364話 認められませんか?
クルリとペンを回す。
ランドルフ国学園に復帰して数日。
ラファエルに勉強を教えてもらって、問題なく授業についていけている自分にホッとする。
このまま上手くいけば、今のクラスから下がることはないんじゃないかな…
いや、下がるかな…
クラスの中で自分の実力がどれぐらいか分からないもの…
試験とか、大丈夫なのだろうか…
何を隠そう、今、現在、試験の真っ最中だった。
しかもこれが最後の科目の試験なんだけれども…
そしてこの学園も例外ではなく、順位が通路に貼り出されるのよね…
クラス順ではなく、同学年同一問題だから点数順で。
………私の名前なかったらどうしようかしらね…
フッと遠い目をしてしまう。
何とか回答欄は全科目埋めたのだけれど…
「はいそこまで」
教師の言葉で、自動的に答案用紙が回収されていく。
………自動回収機っていう機械が答案を回収していく様は毎回慣れない…
箱形で下にローラーが付いている自動ロボットが、箱の上の方に開けられている穴に、機械の手が答案を入れていく。
机の間を滑るように走って行く。
………アマリリスが作った車イスのタイヤを応用して付けたらしい。
それまでは教師がそのロボットを持って教室内を回っていたらしいと聞き、想像してしまった…
「試験は全て終了です。明日の登校時には結果が判明します」
………早いな…
もしかして、自動採点ロボットもいるのだろうか…
「ソフィア、帰ろうか」
「あ、はい」
教師が出て行き、生徒達が動き出す。
ラファエルも例外ではなく、荷物を持って私の席に近づいてくる。
私も席から立って、ラファエルの隣に並ぶ。
「ソフィア様」
「マーガレット嬢、スティーヴン殿。いかがなさいましたか?」
「初めての試験です。緊張されていたのではないかと…」
「そうですわね…」
試験開始から全科目の試験は、休憩無しで通しでされる。
途中で教科書を開くことは許されないのだ。
予習は前日まで。
夜のうちに全生徒の机にロックがかかり、図書室も施錠され、一切の情報がない状態で行われる。
通しで行われるために、本日の学園滞在時間は凄く短い。
その方がラファエル的には有り難いのだけれどね。
仕事があるし。
休憩が無い故に、他の生徒との会話はなかった。
当日は学園に足を踏み入れたら最後、会話をすることも禁じられている。
特殊な機械で、会話してないかどうか監視しているらしい。
………どれだけ優秀な学園のシステムなのだろうか…
荷物も門の所でチェックされ、必要最低限の物しか持ち込めないし。
でもこれで不正なく、公平な判断をしてくれるから、生徒達にはいいんだろうね。
「ですが慣れませんといけませんし、サンチェス国の試験も似たようなものですしね」
さすがにサンチェス国では休憩時間があったけれど。
休憩時間がないと言っても、飲食は自分のペースで行ってもいいことになっているから、集中力を維持するために甘い物など口にした。
「そうでしたか」
「ソフィア様は適応力ある方ですもの。きっとラファエル様とお名前を並べられますわ」
………え…
マーガレットの言葉に私は頬を引きつらせてしまった。
なんだ、その過大評価は…
私は下から何番目になるのかドキドキしているのに、まさかの上位になると思われているとは…
期待には応えられませんよ!?
サンチェス国ではローズよりずっと成績悪くて、中位を彷徨っていた私ですが!?
こ、これ……ラファエルと名前が上下に並ばないと、批難されるパターンですか!?
ど、どうしよう…
それで認められないとか言われたら…
いや、きっと言うよね!?
マーガレットとスティーヴンが言わなくても、周りが言うよね!?
さぁっと血の気が引くのが、分かった。
手が冷たい…
「ごめん、2人とも。これから俺仕事があるから、ソフィアと早く帰らなきゃなんだ」
「あ、お引き留めして申し訳ございません」
「失礼します」
マーガレットとスティーヴンが離れていき、いつの間にか止めていた呼吸が再開されるのが、何処か他人事のように思えた。
「ソフィア、行くよ」
半ば無理矢理、ラファエルに腕を引かれ、私は学園から出たのだった。
ドクドクと早まった心臓は、暫く治まりそうになかった。




