第361話 想像以上でした
ガヤガヤとしている場所を、人々に見つからない場所から泥棒のようにコソコソと覗く。
………そんなラファエルの背中を見ながら、これが王太子…と少し遠い目になってしまいそうだった。
分かりやすく貴族と平民が分かれて、土産物屋を覗いていたり、温泉の建物に入って行ったり。
民達の笑っている顔を見ると、自然と笑みが零れてしまう。
「すみません、そちらはもう在庫がございません」
「えー…」
「申し訳ございません、こちら品切れです」
「この商品は完売ですー」
次々と各店からそんな言葉が聞こえてくる。
私はラファエルを見上げる。
「どのぐらい在庫用意してたの?」
「今後も継続する商品は貴族用500。平民用5000。限定品は希少価値を出すために貴族用50。平民用100」
「継続商品も次々と完売してるみたいだね」
「いい予測の裏切りだね」
嬉しそうに笑うラファエルに、私も微笑み返す。
店の商品が売り切れた所の店から閉店していく。
観察していくと、意外と雑貨関係が早く売れて、食べ物類は温泉から出た人など、帰宅する際に買っていく人が多い。
「雑貨は翌日分を多めに作製しなきゃね」
「逆に食べ物は当日に後追いで作って詰めても、時間的余裕は比較的にある、か…」
ラファエルが顎に手を当てて、温泉街に視線を向ける。
考えるラファエルも格好良い。
………くそぉ……イケメンめ…!!
早く薬草で化粧品開発してもらって、私も肌ツルツルにしたい。
それだけでも結構見栄えが良くなる――はず!!
「従業員もっと増やした方が良いだろうね…接客も大変そう…」
「うん。募集をかけてもいいかも。今日の夜に温泉街の責任者に中の様子とか、問題点とか上げてもらう予定だから、何かあったら報告するよ」
「分かった」
「………ぁ~……早くソフィアも一緒に会議出られるようにしたいなぁ…」
不意にギュッと抱きしめられ、不意打ち故に焦ってしまう。
だから外で抱きしめないでぇ!!
「ははうぇ~!」
ビクッと飛び跳ねてしまう。
近くで子どもの声が聞こえ、ラファエルの胸を思わず押してしまった。
ムッとした顔のラファエルが視界に入って、罪悪感が出るけれど、人に見られたら恥ずかしいし…
「これおいちぃ!」
「良かったわね。王女様が作ってくれた物だそうよ」
「おうじょたま、すごぉい!」
へ…? と首を傾げて私は影からソッと視線を向けた。
王女って…私のことよね?
子どもが瓶を傾けて口を付けている。
「あれ、ギュウニュウだね」
「あ、ホントだ。って、私が作ったんじゃないんだけどね…」
何故みんな私が作った、と表現するのだろうか。
アイデア出すとか、見つけるとかで、作ってませんから…
「ぼく、おおきくなったら、おうじょたまのきちになりたい! ちかくで、いっぱいおいちぃものみりゅ!」
「騎士様になる前に、ちゃんとお部屋お片付けできるようにならなきゃね」
「やるもん!」
親子は話しながら去って行った。
私は冷や汗をかいていた。
隣からなんだか不穏な空気が。
「………ふぅん。俺のソフィアの騎士に、ね…」
………心狭いよラファエル!!
子供の夢に対して!!
「騎士になるためには相当な努力がいるし、すぐに来るわけじゃないし」
私は不機嫌になってしまったラファエルの機嫌をとることに集中した。
まさか子供にまで嫉妬してしまうとは。
将来が不安だ。
私の子供にまで嫉妬されたらどうしよう――
………って!!
自分で思って真っ赤になってしまう。
ま、まだ結婚してないし、子供なんてまだまだ先だし!!
そ、それにそういう事を、ラファエルとすること自体、想像も出来ないし…
はっ!?
わ、私も何考えてるの!?
「ソフィア、どうしたの?」
ラファエルに真っ赤な顔を見られ、両頬に手を添えられる。
ひぃゃぁあああぁ!?
顔近づけないでぇ!!
私はラファエルからどう逃げるかを必死で考えていた。
助けてくれる人は当然おらず、最終的には可愛いと言われラファエルに口づけされたのだった。
………私がラファエルを誤魔化せたかどうかは……聞かないで欲しい…
って、私は誰に言ってるのだろうか…
腰が砕けた私はラファエルに姫抱きで王宮に連れて帰られたのだった。




