第36話 私には早いと思います
パーティはあれから無事に終わった。
ラファエルがダンス踊ろうというので、踊って。
婚約者だから2回踊れて、今度こそイケメンとのダンスを堪能出来ました。
あの時とは関係は違うけど、イケメンとのダンスはあの時の気持ちと同じだった。
楽しかった。
緊張はあったけどね。
なにせランドルフ国では民を救うことに気を取られ、ダンスの練習みたいな事はやってなかったから。
ブランクにビクビクしてしまった。
部屋に戻って着替え――ようとした。
のに…
「おいでソフィア」
………目の前に両腕を広げた、満面の笑みのラファエルがいました。
さっきエスコートで部屋に戻ってきたんですけど。
一旦自分に宛がわれた部屋でその窮屈な服は脱がないんですか。
ラファエルはランドルフ国の王家の家紋が入った、正装をしている。
上から下まで純白なその正装の服はラファエルに似合っているんで、目の行き場に困るんだけどね。
その格好で両手を広げて待たれてみて。
恐れ多いから!!
イケメン王子の腕の中に飛び込むって、滅茶苦茶勇気いるから!!
ブンブンと首を横に振ると、ラファエルにムッとされた。
機嫌損ねても無理なものは無理なんです!!
私には早いと思う!!
そう言おうとすれば…
「ひゃぁ!?」
「問答無用」
腕を引っ張られて、ラファエルの腕に包み込まれました。
カァッと顔が赤くなるのが分かる。
「やっとソフィアを抱きしめられた」
「………」
「何だかんだ言っても、抱きしめたのって久しぶりじゃない?」
「………」
「ソフィア?」
む、むむ無理!!
心臓が出る!!
口から出そう!!
息が止まる!!
息苦しい!!
「あ、ごめん」
私の顔を見て状況を察したのか、ラファエルは割とすんなりと離してくれた。
私はソファーの背もたれに手を置き、ぜーはーと息をする。
淑女としてどうなの、とは突っ込まないで!!
私恋愛初心者なの!!
偉そうにラファエルにいつも言ってるけど、こういう事に免疫ないの!!
私には早すぎると思うの!!
キスしといて何言ってるんだ、とも言わなくて良いから!!
私からはしてないし!!
ラファエルがしてくるんだし!
あれも一生慣れる気がしないし!!
「ソフィアは可愛いなぁ…」
「か――!?」
今のこの状態の私を見て可愛いと思えるなんて!
ラファエル絶対に目が悪いよ!!
誰かこの世界に眼科作って!!
ラファエルを眼科に放り込まなきゃ!!
「顔真っ赤にして混乱してる。いい顔見た」
「あ、遊ばないで!!」
ラファエルが私の隣に座ってニッコリ笑ってる。
その顔に悔しく思う。
自分だって可愛い時あるくせに!!
「落ち着いた?」
「………ぇ?」
「帰って来る途中でさえ、顔が怒ってたからさ」
「!」
心の中はモヤモヤしていた。
でも、私は表情に出さないようにしていたはずだ。
アマリリスと対決した後にラファエルとダンス。
だから段々落ち着いてはいたけれど、モヤモヤはくすぶってはいた。
完全になくなってはいなかった。
………気づいてたんだ。
「俺がソフィアの事で気づかないことはないと思うよ」
「逆に怖いよ」
つい言ってしまった。
でも、ラファエルは笑うだけ。
「じゃ、着替えてくるね。お茶しよ」
「うん…」
ラファエルは部屋から出て行った。
………気を使わせてしまっただろうか…
私はドレスに手をかけた。
アマリリスはあのまま引き下がるとは到底思わない。
平民になろうがなんだろうが、社交界に出られるように何かやらかす予感。
そういう事を考えていた。
でも、さっきのラファエルの行動と言動で、アマリリスのことが思考から抜けた。
………うん。
もう考えるのはよそう。
王と王妃が動いたのだ。
恐らく徹底的に処罰されるだろう。
私と会うこともなくなるだろうし。
終わったことだと思って、考えないようにしよう。
何かあれば報告来るだろうし。
ドレスから普段着に着替え(と言っても、簡易ドレスには変わりないけれど)、髪に手を伸ばした。
ラファエルがくれた髪飾りを丁寧に外す。
それを見ても気分が落ち着く。
ラファエルと髪飾りに癒やされ、やっと笑う事が出来た。
ラファエルが戻ってきたらお礼を言おう。
そう思いながら私は引き出しに髪飾りを丁寧にしまった。
侍女を呼ぶ呼び鈴を鳴らし、お茶を持ってきて貰えるように頼む。
さて、どんな話をしようかな~。
甘味店の進捗状況でも聞こうかしら。
甘い空気にはならないのか、とは突っ込まないで。
ラファエルが勝手に甘い空気作るから。
私からはまだ早い!
私からは絶対に無理だから!!
………ぁ…
いつもの私の思考だ。
うん、大丈夫。
ありがとうラファエル。
早く来ないかな、と思いながら私はソファーに座った。




