第358話 複雑です
サンチェス国でのラファエルの滞在期間が切れる日になった。
私も共に行くために手続きをした。
馬車で国境まで向かう。
………お父様に言われたことは、まだラファエルに言えてない。
どう言ったら良いんだろ…とずっと考えてるんだけど…
ガラガラと順調に走っていた馬車がゆっくりとした速度に変わる。
窓の外を見ると丁度考えていた国境だった。
ずらりと並んでいる人達が見える。
暫く見ていたけれど、一向に動く気配がない。
国境のシステム変更に伴い、そして前の私の事件のせいで、かなり入出国のチェックが厳しくなっている。
そのせいで動きが遅い。
「………早く国境を変えなきゃ…民も国も困るね…」
無意識に呟いた言葉だった。
自分が考えたわけじゃない言葉。
「変えるよ」
「………ぇ」
「すぐにでも」
ラファエルはふわりと笑って、何かを手にしていた。
「………それ、カード?」
「国境カード。俺とソフィア、あと一緒に行動することの多い侍女と護衛の分は作ってあるよ」
「いつの間に…」
ラファエルがカードを私の手に乗せる。
「後は国境の工事と罪人の登録なんだよね…」
「工事も登録も時間がかかりそうだよね……まだまだこの国境は今のままなのよね…」
思わずお父様の顔を思い浮かべ、ため息をついてしまう。
「急ぐの? 何かあった?」
「あ……私、今回攫われて、知らない間に国境越えさせられたじゃない?」
言った瞬間、ぶわっと馬車内が殺気で覆われた。
………って、怖い怖い!!
「おおお落ち着いてラファエル!!」
「………それで?」
「え……あ、うん。そういうのも出来なくなるでしょ? 新しい国境だったら……」
「よし、帰ったら速攻で国境作り替える」
「ぇえ!? そ、そんなにすぐに出来るものじゃないでしょ?」
真顔でキッパリ言うラファエルが怖い…
殺気もそのままだ。
「するよ。ソフィアの身が1番大事だからね」
「………いえ、その場合、王太子であるラファエルの身が1番……」
私の言葉には耳を貸してはくれなくなり、ラファエルはブツブツ言いながら真っ白な紙を取り出して、ペンを走らせていた。
………け、結果的にお父様の命令を遂行できた、ってことでいいのかな…
「ねぇソフィア」
「………え、あ、なに?」
「サンチェス国では聞けなかったんだけど」
ゆっくりとした速度で走ってた馬車が止まる。
そこは貴族用の国境の入り口で、顔パスで国境を通過した。
………やっぱり王族だからって顔パスってよくないと思うね。
「あいつに何されたの」
スッと視線を向けられ、何を聞かれたのか最初は分からなかった。
「………ぇ……」
「攫われた時とは違うドレスだったよね」
「………」
ハッとし、私は視線を反らしてしまった。
ロードに…ラファエル以外の男に肌を見られたのは間違いない。
世間にはふしだらな行為に分類される。
………それを言えば…
「怒らないよ。ソフィアが悪いわけじゃないんだから」
「ラファエル……」
「何されたの?」
「………ドレスを着替えさせられて……隙を見て逃げて……森の中で転んだから追いつかれて…頬殴られて首絞められた。それだけ…」
「………そう。じゃあソフィアの肌を……全て見られたってことだね」
「っ……」
私は怖くなって俯いてしまった。
「………殴り込みに行くか」
「ダメだよ!? ラファエルが罪人になっちゃう!!」
「チッ」
だから本気の舌打ちしないで…
「………徹底的にやってやる。猛スピードで完成させてやる!」
………ラファエルが物凄いスピードで何かを書き始めた。
責められなくて、軽蔑されなくて良かったんだけど…
なんか複雑な気分だった。




