第357話 いりませんから
「さて…」
ラファエルの説得は私がすることとなり、その件は終了。
次にお父様が書類を出した。
「ソフィア」
「はい?」
「この中から選べ」
「え……」
バサッと書類が机に置かれる。
首を傾げながら私は書類を手に取った。
ソコには、ズラリと人の名前が書かれている。
「これは?」
「ランドルフ国に送る侍女候補だ」
「………は…?」
お父様の言葉に、一瞬自分の思考が途絶えた。
「アリーヤに侍女長から打診があったそうだ。現在王宮にいる侍女達のリストだ。選べ」
「いらないです」
スパッとお父様の言葉を切ってしまった。
………あ、マズい…
と思っても、出た言葉はもう消えない。
「アリーヤに20人以上の専属侍女を宛がっている」
………知ってるよ。
過保護なお父様がそうしているぐらい。
「だがお前に専属の侍女などいない」
「3名おります」
「王命で付いているものは1人もいないだろ」
「………はい」
実際、今までサンチェス国で暮らしていて、専属侍女などいなかった。
そういうポジションだったし。
「………私に専属を付ける意味は何ですか」
「既にランドルフ国の借金は消えている。それどころか、我がサンチェス国はランドルフ国に色々と恩がある」
「そうですね」
「もうランドルフ国に返さないといけない借りは作りたくはない」
それは当然だろう。
同盟国である以上、その関係は対等でなければならない。
前はランドルフ国が、今はサンチェス国が同盟国である相手国に頭が上がらない状態になっている。
国王として、それは放っておけない事態だ。
「それと侍女を宛がうことの関係性は何ですか?」
「ランドルフ国にこれ以上負担をかけるわけにはいかないだろう。向こうでランドルフ国の人間をこれ以上煩わせない為だ。ソフィアの身の回りはサンチェス国の人間が固める」
「お断りします」
「ソフィア」
お父様――サンチェス国にも矜持があるしね。
言い分は分かる。
分かるけれども…
「この王宮には使えない侍女がたくさんいます」
私は何の躊躇もなく、リストを突っ返した。
「ランドルフ国に連れて行って、何かやらかしたらそれこそ問題になりますよ」
「使える侍女の見分けは1番お前が得意だろう」
「だからですよ」
リストの中には確かに仕事が出来る優秀な人材がいた。
でも、その人数は圧倒的に少ない。
今私が引き抜いていったとしたら、使えない侍女が王宮に蔓延ることになる。
その問題児を優秀な侍女が抑え込んでくれなきゃいけないのだ。
………特に、私がいなくなった後は影の選定者がいなくなってしまう。
お父様に事情を話し、諦めてもらう。
リストは無言でお父様にしまわれた。
「暫くはソフィー達だけで事足ります。お気遣いは有り難いですけれど、こちらの王宮の秩序を下げることはしたくないのです」
「………分かった」
お父様は頷き、私の言い分を受け入れてくれた。
内心私はホッとした。
これ以上私の本性を知る人間を増やしたくない、という本音は叶えられたのだ。
私の正体も最小限の人間だけが知っていれば良い。
そんな本音は言えるはずもなく、私は顔を取り繕った。




