第355話 難しいです
「う~ん…」
城下から王宮に戻ってきて数時間。
私は机に向かって頭を悩ませていた。
一向に出ないアイデアに、頭をかきむしりたくなる。
でも壁側には騎士達。
ソフィーもフィーアも待機している。
そんな事出来るわけがなかった。
「………どうしようかな…」
コンコンとペンで紙を叩く。
宝石を手に入れたまでは良かったけれど、肝心な事を全く考えていなかった。
「姫様、何をお悩みなのですか?」
「ん~、内緒」
私はソフィーの言葉に人差し指を唇に付けた。
「………そうですか…」
「心を読むのもダメよ」
「分かっております」
ソフィーに念押しし、私はまた紙に向かった。
ソフィーが話しかけてくれたおかげか、案が決まった。
私は紙にペンを滑らせた。
大まかな物から、細部まで。
何度も思考を凝らしながら、また数時間後にソレは完成した。
うん、満足だ。
ソッとソレを折りたたみ、国紋が刻まれているケースへと収めた。
因みに、国紋が刻まれたケースは王家の血筋のみが使用できる。
国王が使用するケースは赤。
お兄様が使用するケースは青。
私のは紫。
各自が使用する物を色で分け、その者しか使用することがない。
勿論触れるのもタブーだ。
連絡用に使用されるのは紅色。
前にお兄様から送られてきたケースも紅色だった。
紅色は指名された者も触れることが許される。
つまりこの国紋入りの紫のケースは私のみ触れられる物なのだ。
ラファエルにも勝手に触れないようにと伝えている。
ただのケースなのだから、見えないところで触れても分からないじゃないか、と思うだろう。
けれども、触れたら分かる仕掛けになっている――らしい。
そんな事が起こったことがないから分からないけれど。
それも精霊の力が働いているのかもしれない。
ポンッとケースを軽く叩き、私は立ち上がった。
「ソフィー、フィーア、湯浴みしたいのだけれど」
声をかけると2人はすぐさま動いた。
フィーアは浴室へ。
ソフィーは私の方へ来て、羽織っていたカーデガンを脱がしてくれる。
その時ノックがして、入室を許可すると宰相が入ってきた。
渋めのおじ様で、もちろん顔は整っている。
昔はモテただろうなぁ…
奥様は昔苦労したと聞いた事がある。
「失礼致しますソフィア様」
「珍しいわね宰相。何かご用かしら?」
「国王様からの伝言をお持ちしました」
スッと差し出されたのはトレイに乗った手紙。
思わずパチクリと瞬きする。
………宰相をパシリにするとは……
「ありがとう」
手紙を受け取り開く。
『アリーヤに贈り物をしたいが、何が良いだろうか』
………いや、知らないよ。
思わず心の中で突っ込んでしまった。
しかも宰相をパシリにする必要はないだろう文章。
と、思ってしまうが、手紙の下の方に数字の羅列が記入されている。
呆れた風な顔のまま、その数字を読み1つ頷く。
「お父様に、伝言確かに承りました、とお伝え下さる?」
「畏まりました」
宰相は空のトレイを持ったまま出て行った。
お父様の手紙をケースに入れ、私は浴室へ向かったのだった。




