第354話 買い物なのですが…
「………これがいいかな…」
ラファエルは私への贈り物を選ぶのに夢中になっていた。
本来の目的から逸れているよと言っても、ラファエルには聞こえていないようだった。
そんなラファエルと別れて、私は本来の目的の物を物色していた。
けれど、思うような装飾品は見つけられず、今は小ぶりの宝石を見ていた。
「すみません」
「はい」
私は店員を呼んで、ショーケースの中にある宝石を指差した。
「アクアマリンを2つ。シトリンクォーツ4つ。ローズクォーツ2つ。エメラルド2つ。ルビー2つ。ラピスラズリ1つ。………アメジスト2つ包んでもらえる?」
「畏まりました」
店員が鍵を開けて中の宝石類を取り出していく。
待っている間に私はラファエルの元へ向か――おうとして、唯一の入り口から人が入ってきたのでそちらを見る。
「オーナー!」
………捕まりました。
「………もうオーナーじゃないんだけどな…」
「何を仰ってるんですか! ここのオーナーはずっとオーナーです」
真面目な顔で言い切られてしまった。
これはあれだ。
絶対に譲らないってやつ…
「………お久しぶりねオリヴィア」
「お久しぶりでございます。今日はお買い物ですか?」
「そう。宝石を買わせてもらって――」
「とんでもございません。オーナーに料金を頂くなどありえません」
………ぇ…
いやいや。
自分の店の物でもタダで手に入れる人なんていないでしょ!?
「ちょっ…!?」
私が止める前にさっさと先程の店員に話しかけに行く店長のオリヴィア。
店員が目を見開いて私を見てくる。
………だよね。
ありえないよね。
しかも私が伝えたのは小ぶりでも良い状態の宝石だ。
決して安いものではない。
「オリヴィア――」
「はい。包み終えましたよ」
問答無用で渡されてしまった。
………マジか…
これ、絶対ダメなやつ…
でもオリヴィアがここにいる限り、お金を受け取ることなど無いと分かる。
ニコニコと笑っているオリヴィアの後ろから、コソッとラファエルが店員に話しかけて、何かを渡した。
そしてラファエルは私の方を見て微笑んだ。
………もしかして、代わりに支払ってくれたのだろうか…
店員が頭を下げる。
………ぁ、やっぱり?
じゃあ、問題ないか…
「じゃあ、ありがたく…」
私は包みを抱え直した。
その時、また入り口付近に人影を見た。
「店長!」
店員がオリヴィアを呼びに来たようだった。
「今行くわ。オーナー、またお会い出来るのを楽しみにしております」
オリヴィアが頭を下げて階段の方へ向かった。
………ホッとしてしまう。
「ごめんなさいラファエル。いくらだった?」
「構わないよ」
「ダメよ。コレはラファエルからの贈り物じゃなくて、私個人の買い物なんだから」
「俺の稼ぎはソフィアのアイデアの稼ぎでもあるんだよ。だから、2人のお金」
「でも…」
「あ、これ可愛い」
………こっちもある意味譲らなかった…
もう私の言葉無視でショーケースを覗き込んでいる。
「………ありがと…」
「うん」
お礼にはすぐさま返事が返された。
私は買ってもらった宝石を大事に抱え、ラファエルの買い物が終わるまで待っていたのだった。




