第353話 もはや知らない場所
カランカランと扉を開けたら音がした。
扉の上を見ると、扉が動くと音が鳴るように呼び鈴に似たものが付けられている。
「「「「「いらっしゃいませー」」」」」
音が鳴ると同時に、中の店員が声を上げた。
中の雰囲気は、私が知るものとはかけ離れていた。
前の店は木製だったために白に塗られていたけれど、木の模様そのままだったし、陳列棚も木製だった。
けれども私の知らない間に増築された店は、かつての面影は何処にもなかった。
しっかりとした石製で、陳列棚も同様で、お金がかけられているのがよく分かる。
そして上階もある。
1階はまさかの被服コーナーだった。
私のリメイク店は何処へ……
ここまで面影がないと、やっぱりここはもう私の店ではないと思い知らされる。
「あ、ここに地図があるよ」
唖然とする私には気づかず、ラファエルは入り口近くにあった地図を視界に入れ、私の手を引いたまま覗き込む。
私とラファエルは話していたとおりに、私の買いたい物を探すためにここへ来た。
過去には囚われないようにしなきゃね…
もうここは私の管理地とは違うのだから。
「1つ上はソフィアが作った鞄とかを置いてるみたいだよ」
「………私が提案した案の物、ね」
ラファエルの言い方だと、まるで私が作っているようじゃないか。
そんな事は出来ません。
「もう1つ上は……装飾品か…ここじゃない?」
「そうね。行ってみよう?」
「うん。お前達はここで待て」
「ですが……」
「ここは大丈夫だよ」
私とラファエルの護衛達を外で待たせて、私達は3階へと向かった。
3階へ到着すれば、煌びやかで目が眩んだ。
………こ、こんなに変わってしまって…
ここは金持ちが来る部屋だと一瞬で分かった。
高価なショーケースが並び、厳重な鍵がついている。
ショーケースの中には高価な宝石類。
宝石を加工された装飾品。
思わず後ずさってしまう。
「ば、場違い……」
「何言ってるの。ソフィアが来るのが1番相応しい場所でしょ王女様」
「………ぁ……」
わ、私王女でした!!
思わず呟いた言葉にラファエルが突っ込みハッとする。
「きょ、興味なかったから……」
「………なんでソフィアってそう慎ましいのかな…」
た、ため息をつかれてしまった。
慎ましい……というより……そういう事に興味が無い…というか畏れ多く思ってしまう平民感情持っている女、って言われた方がしっくりくる……
「ソフィアが気に入るのがあるかなぁ」
「わ、私が気に入るのじゃなくて…」
「………もう俺がソフィアに贈り物するの、解禁して欲しいんだけど?」
トンッと肩を軽く押され、壁に背をつくことになった。
そして顔の横にラファエルの手が――
………あれ?
なんで私ラファエルに壁ドンされているのだろうか…
………壁ドン…?
ソレを理解した瞬間、私の顔がカァッと真っ赤になるのを感じた。
ラファエルの顔が近い。
吐息が顔にかかって――わ、私はどうしたら…!?
ラファエルと何度もキスしているし、この距離慣れているはずなのに…!!
恥ずかしくてたまらないのは何故……!?
「ねぇソフィア? 俺に贈り物させてくれるよね?」
耳元でソッと囁かないで!!
ここお店の中!!
「ソフィア、返事」
「っ………ひ、1つだけなら!!」
早く解放して欲しくて、そう言ってしまった。
ハッとしたときには、ラファエルが満面の笑みで離れていく所で……
………ぁぁ……やってしまった…
願わくば、うんっと豪華な物を贈られませんように…!!
愛する人からの贈り物にヤキモキするのは、私だけかもしれないけれど…
身分はともかく、私の性格に合った…普段の私が身につけられる物を、と切に願いながらラファエルの後を追った。
………って、本来の目的忘れてるよ…!!
気づいて私は慌てて足を動かしたのだった。




