第352話 内緒のお願い
トントンとつま先で床を軽く叩く。
そしてゆっくりと歩いてみる。
痛みもなくスムーズに歩けた。
足の裏の怪我も捻挫も完治したようだ。
「やっと歩ける!」
「よかったねソフィア」
隣で転ばないように待機していたラファエルが微笑んでくれる。
でもすぐに残念そうな顔になる。
首を傾げると、なんでもないと微笑まれる。
「………どうしたの」
「だからなんでもないよ」
「気になるでしょ」
「う~ん………これでソフィアが自由に羽ばたいて行ってしまうなぁって」
困ったように微笑まれ、私は思わずキョトンとしてしまった。
羽ばたいてって……
「………私、鳥じゃないし、精霊でもないよ?」
「そういうことじゃないよ」
苦笑され、頭を撫でられる。
………そのままの意味じゃない…って事よね…
羽ばたいて行く……飛び出していく……
ということは…
「ラファエルと出かけたいから、王宮抜け出さないよ?」
………って、解釈――返答でいいのかな……?
「ホント?」
「うん」
コクンと頷くと嬉しそうに笑うラファエル。
それによって合っていたことを知る。
………ラファエルにとっては、私は自由に飛び回る鳥って事なんだ…
私の今までの行動のせいだとは思うけれども…
もうちょっと私は態度で示さなきゃいけないようだ。
「ソフィー、お茶くれる?」
「はい。お湯を補充してまいります」
「オーフェス、そろそろアマリリスが昼食用意出来る頃だから」
「行ってまいります」
「ジェラルド、お兄様が手空いてたら呼んで来てくれる?」
「はぁい」
部屋にいた全員を追い出すことが出来た。
私はソファーに座り、ラファエルの服の袖を引く。
「ラファエル、ランドルフ国に帰る前に、買いに行きたい物があるんだけど」
「ん? デートのお誘い?」
「うん。みんなに黙ってて欲しいんだけど――」
天井には影達がいるのは分かっているから、ラファエルの耳元でソッと買いたい物を告げると、ラファエルが口角を上げる。
「成る程ね。いいんじゃない? ソフィアの店なら見つかりそうだね」
「どうかな? 案外見つからないかも」
私も微笑み返す。
ラファエルが隣に座り、全員が戻ってくるのを待つ。
「あ、そう言えばレオポルド殿に何の用?」
「え?」
「ジェラルドに呼びに行かせたでしょ?」
ラファエルの言葉にハッとする。
そして嫌な汗が出てきた。
「………ジェラルド出す口実だった……どうしよう…」
「そっか。俺は話したいことあったから、俺が呼びに行かせたことにしよう」
「ありがとう…」
危ない。
何も用事が無いのに、呼び出したなんてお兄様に怒られるわ…
ラファエルに感謝する。
ホッとしていると、ラファエルにジッと見られていた。
………?
「ソフィアが俺と出かけたいって言ってくれるとは思わなかったよ」
「どうして? 私、ちゃんと言ったよ……?」
「うん、ごめん。嬉しくて実感わかなくて」
………どれだけ私はラファエルを追い詰めていたのだろうか。
ラファエルに思わず抱きつき、自分の行動に恥ずかしくなったけれど、謝罪も込めてぎゅぅっと力を込めた。
するとラファエルも抱き返してくれて、嬉しそうに笑ったのだった。




