第350話 やっぱりお仕置きしたい
私の自室にてんこ盛りにされた食べ物に、私はため息をついた。
ジェラルドがフィーアから受け取った袋の中身を出してみると、同じ食べ物が各3~5つずつ。
「………種類が豊富で美味しそうねぇ…」
呆れた声がそのまま出て、つぃっと床に正座をしているアルバートを冷ややかに見つめる。
大きな巨体を縮込ませ、居心地悪そうにしている。
アルバートの周囲は、オーフェスとジェラルドに固めてもらっている。
「………フィーア」
「………はい」
「一応聞くけど、拒否、したのよね?」
「しましたが……食べないと力が出ないとか言って無理矢理…」
思わず頭を抱えてしまう。
「………アルバート、俺でもこれは引くぞ。ソフィアも各1個も全て食べられない。半分で充分だ」
ラファエルが果物飴を手に取りながら呆れる。
リンゴ飴改め、カンキなどこちらの果物を飴に閉じ込めた代物だ。
これはラファエルの甘味店で試作として作られたものだ。
子ども達に人気が出ているらしい。
この間のお兄様との打ち合わせはこの件。
ランドルフ国が手がける甘味屋台の試作品。
「お前の給金、昔から食べ物に全部消えてたな…」
「俺も見ただけで吐きそうだよぉ~」
オーフェスとジェラルドも呆れている。
その量を女に食べさせようとするな…
しかもカロリーを気にしない屋台の食べ物など、女にとっての天敵と言わざるをえない…
「………フィーアが結婚するときになったら、激太りしてドレスが入らないなんて事嫌なんだけど…」
「私も嫌ですよ!!」
ぶんぶんと勢いよく首を横に振るフィーア。
ここにもアルバートの迷惑行為が潜んでいた…
「って、給金全部使ってたわけ!?」
「………公爵家に入って欲しくない案件がここに…」
フィーアが絶望的な顔をして顔を覆ってしまった。
「い、いくら俺でも公爵家の財に手を出さねぇよ!!」
アルバートが真っ青な顔をして首を振った。
………いや、信用できない…
「ランドルフ国に帰ったらアルバートの給金を全てフィーア行きにして、フィーア管理にしておこう」
「そうして下さいませ…」
「お、おい!? そりゃねぇよ!!」
「出かけるときにお小遣いもらいなさい」
まるで小さな子どもに言い聞かせるようにアルバートに言った。
独り身の男のどうしようもなさは、この世界でも一緒らしい。
勿論全ての男が、とは思っていないけれど…
「………取りあえずコレ、消化しないと…」
「腐っちゃうしね…」
「………腐る……冷蔵庫とか冷凍庫とか欲しいわね…」
スッと目の前に紙とペンが差し出された。
………ん?
そぉっと隣を見ると、ニッコリ笑ったラファエルがいらっしゃいました。
………ぁ……はい……
私はソレを受け取って、設計図を書いたのだった。
てんこ盛りの食べ物はみんなで手分けして消化させて頂きました。
「………吐きそう」
「バケツ持ってこさせる?」
「………いえ、いいです…」
口を押さえてソファーにグッタリと横たわった私の額に、ラファエルが手を置き心配そうな顔をする。
美味しいけれども…
昔の祭りを楽しむ私を思い出しましたけれども…
自分が食べれる量と、選ぶ楽しさがない祭り屋台の食べ物は、苦痛以外の何ものでもないのだと思い知らされた。
男性陣はさすがに倒れるほどの量ではなかったらしい。
食べ終わる頃には、顔色が悪くうんざりしていたけれど…
棒についている果物飴を口に入れながら、私を覗き込むラファエルは可愛いね…
「………次に女に買い与えるなら、重くない食べ物を所望するわ…」
なにせ粉物が多いから、お腹に溜まるのが早い…
「姫様、胃薬です!!」
アマリリスが慌てて部屋に入ってきた。
ジェラルドが言いに行ってくれたらしい。
お礼を言って、嫌な臭いを放つ液体薬を、口の中に一気に流し込んだ。
吐き出さないように口を押さえて飲み込む。
その後はソフィーにお茶を用意してもらって、胃と薬と戦ったのだった。
………やっぱり、アルバートをシメようと思います…




