第348話 私には関係ないよね…?
「ソフィア様ぁぁぁあああああ!!」
バタンッと勢いよく扉が開けられた。
今日からリハビリとして室内の短い時間なら歩いていいと許可が出て、私は「よしっ!」と気合いを入れて立ち上がろうとしたときだった。
ビックリしすぎて手を滑らせて体勢を崩してしまい、床に接触する前にオーフェスに抱き止められた。
………オーフェスがヒーローみたいに、タイミング良かったのが少し悲しかった。
現実にそんな事はないと思っていたのに…
どうせならラファエルが良かった……とオーフェスに失礼なことを考えてしまった。
「大丈夫ですかソフィア様!?」
「だ、大丈夫……」
ビックリして早まったドキドキする心臓が痛い。
そのままオーフェスが車イスに座り直させてくれて、はぁ……っと息をつく。
「アルバート!!」
「す、すまねぇ!!」
オーフェスが怒鳴り込んできたアルバートに注意する。
「怪我はなかったからいいよ…」
「ソフィア様、咎めることをしていただきませんと困ります」
「そうだけど……さっきの様子からして、アルバートの話の内容の方に、咎めが行きそうな気がしてならないんだけど」
私の言葉にオーフェスはアルバートを見た。
うっ……と言葉を詰まらせるアルバートの様子に、私は自分の予想が当たりそうでため息をつきたくなる。
「………で? 何」
「いや……その……」
「今更よ。早く言いなさい」
「………………デートって何すればいいんだ!?」
アルバートの言葉に私は勿論、オーフェスも部屋の隅にいるソフィーも沈黙した。
因みに今日はジェラルドとアルバートが非番。
ヒューバートには食事を持ってくるアマリリスの護衛として行かせた。
ラファエルは今日のおやつ用の甘味を私がおねだりしたから、嬉しそうに作りに行っている。
「………何も」
「何も!?」
私の答えにアルバートが詰め寄ってくる。
………近い…
「デートっていうのは男女が2人で出掛けることで、決まった行動っていうのはないのよ」
「………は?」
「だから、男が行きたいところを行動予定にしてもいいし、女でもいいし、2人が話し合って決めてもいい」
「………」
アルバートが固まってしまった。
っていうか、何故いきなりそんな事を……
「アルバート、いきなり何故デート定義を聞きに来たんだ」
「どうやって仲良くなって、どうやって過ごしていたのか話せってしつけーんだよ!」
………どうやら非番の今日も実家に行っていたらしい。
根掘り葉掘り聞いてくる両親の攻めに対して、アルバートは白旗を振って戻ってきたようだ。
「また今度話すっつって逃げてきたんだよ! 頼むソフィア様! 策考えてくれ!!」
「嫌」
即答するとアルバートが固まった。
私がすぐに教えてくれると思っていたのだろう。
「なんでだ!?」
「こっちはラファエルとデート出来ないっていうのに、なんで他人のデート案考えなきゃいけないの?」
頬杖ついて半目で見ると、ポカンとした顔をするアルバート。
そんな事をして私に何のメリットがあるの。
ラファエルとのデートをさせてくれるのかしら。
足が治らなきゃ無理だけど。
出かけられなくてただでさえストレス溜まっているのに、何故他のカップルの面倒まで見なくちゃいけないの。
先日まで積極的だったじゃないか、なんて突っ込みいらないから。
歩いてもいいと許可が出た時点で、私は歩けるようになったらラファエルと出かけたい欲求が出てきたのだ。
一刻も早く治す為には、今他人に構ってられないのよ!!
………なんて事は口には出せないけれど…
「大体、そういう事はパートナーと相談することであって、私の手からは最早離れているのよ」
「パートナー?」
本気で首を傾げるアルバートに、私は勿論部屋にいる全員がため息をついた。
「貴方の婚約者と相談しろって言ってるのよ」
「いっ!?」
心底驚きの顔をするアルバートに対して、呆れ以外何の感情も芽生えなかった。
「当たり前でしょう。貴方は私の婚約者ではないのだから、私にその手の対策を頼むのはお門違いでしょうに」
「え? アルバートは俺のソフィアを奪おうっていうの? 絞めるよ?」
突如アルバートの背後から声が聞こえ、びくぅっと大きな図体が飛び上がった。
「ラファエル様! そ、そんなことあるわけないじゃないか!」
「アルバート」
私にはともかく、ラファエルにまでタメ口のアルバートに注意をする。
「あ……あるわけない、じゃないです、か…」
「そう。ならいいけど」
ラファエルは片手に甘味が乗っているトレイを持っていて、ソフィーにそれを渡した後にアルバートを見る。
「ソフィアの言うとおり、男なら自分でデート計画立てるんだね。情けない男になるんじゃない」
そう言ってラファエルがアルバートを追い出してしまった。
ソフィーが扉を閉め、ラファエルは私の近くに来る。
「何処から聞いてたの?」
「アルバートがソフィアの名前を叫びながら部屋に入っていくところから」
「………最初からなのね…」
「面白そうだったから」
クスクス笑いながらラファエルが私に手を差し出した。
その手に捕まりながら、私はリハビリを開始したのだった。




