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第345話 私は構いませんが




「たいっっっっっっへん申し訳ございませんでした!!」


ゴンッと床に額を打ち付けながら、目の前で大の大人が土下座するのを私は冷ややかに見つめた。

フィーアがアルバートの婚約者として、アルバートの家にアルバートと共に赴いた翌日。

私に謁見希望が2家程出され、1度に済ませたかった私は2家同時に会うと許可。

現在の謁見室に、サンチェス国王と王太子、ランドルフ国王太子に私。

当事者のアルバートとフィーアが私達4人の後ろに立ち、各護衛達が壁際に立っている。

目の前に2家の当主とその奥方。

そして私に無礼を働いた令嬢がいる。


「まさかソフィア様の侍女と交際しているとは知らず!!」

「しかも私の娘がソフィア様の自室に入り込んだとは! 大変なご無礼を!!」


………だからね?

この世界に土下座の風習はないんだけれども…

何故こんな事に…


「婚約の件は本人とそちらの家の連絡が滞っていたせいだろう。直接的にが王家に関わりが無い。双方がどうするか考えることであり、われが関わるのは婚約の承諾と婚姻の承諾のみ」

「でも、私の妹の自室に許可もなく入ったのは問題になるよね」


お父様はいつもの威厳ある顔で、お兄様はにこやかに笑っているけれど目が笑っていない。

2人の王族に睨みつけられるように見られ、両家の者は震え上がる。

令嬢に関しては涙目になっている。


「ど、どうしてですか……? わ、わたくしはただ…アルバート様と……」


………男爵令嬢が平民の男に様付け…ね…


「恋心はどうしようもないし、君の気持ちだから自由だよ? けれど、無断で王宮に入ったあげくに、更に無断で自国王女の自室に入ったことが問題じゃないと思っているの?」

「アルバート様とお話しすることが悪いことなのですか!?」

「そんな話してないよね?」


お兄様にまるで噛みつくように話す令嬢に、私は呆れ果てた。

私はともかく、お兄様にまでその態度はどうかと…


「やめなさいアイリーン!」

「どうしてですのお父様! わたくしのお気持ちを汲んで、アルバート様との婚約を結んでくれると仰ったではないですか!!」

「それは過去のことだ! きちんとした婚約が結ばれている以上、他者が婚約できるはずもないだろう!」

「横から入ってきたのはあの女の方ですわ!! あんな人、アルバート様に相応しくないです!!」


………フィーアが公爵の名を出したはずなのだけど…

男爵令嬢が公爵令嬢に対してしていい態度と言動ではない。

チラッとアルバートを見ると、顔を真っ青にしている。

………あの男爵令嬢がトラウマに重なっているのだろうか。


「アルバート」

「は、はい!!」


私が声をかけると、ハッとしたように私を見るアルバート。


「貴方はどちらと婚約していたいですか」

「フィーアに決まってます」


あの時オドオドしていたアルバートが、キッパリと即答した。

内心感心しながら、私は頷く。


「では、彼女との婚約を希望しない理由を聞いても?」


………さて、ここまで打ち合わせしているかしら?

少し試すような意味もあった。


「俺――私は元々フィーアと愛し合って婚約しましたし、フィーアはその者のように他者を蔑む言動はしない」

「え……」


アルバートの言葉に男爵令嬢が固まり、唖然とアルバートを見た。


「私の趣味でもあり生きがいの訓練を優先させてくれますし、出かけても私を想って高い物を強請ることもしませんし、良い物であれば例え平民が作った装飾品でも、贈ると嬉しそうに笑ってくれます。ソフィア様のように優しく、守りたいと思う存在です。そんなフィーアを差し置いて、他の女と婚約しようなど思うはずがありません」


そう言いながらアルバートがフィーアの腰に手を回し、引き寄せた。

おそらく私の護衛達も、内心「おぉ…!」と感心しているだろう。

フィーアも演技だろうが恥ずかしそうに頬を染め、顔が若干俯き加減だ。


「アルバート……良い方との縁が出来たんだな…」


アルバートの両親が涙目になり、嬉しそうに笑う。


「すまない親父、お袋。今まで黙っていて…」

「いいんだ。うちにはまだお前の弟も妹もいる。サンチェス国での婚姻はまだ望める。お前はしっかりフィーア様との縁を深めて、ランドルフ国公爵家の方にご迷惑おかけするんじゃないぞ」

「分かってる」

「フィーア様、アルバートの事、宜しくお願いします」

「はい」


お互いに頭を下げ、アルバート家の方は片付いたようだ。

男爵家の方はといえば…


「あ、アルバート様……」


………男爵令嬢がボロボロと涙を流していた。

………そんなに好きか…この筋肉バ――アルバートが……


「ひ、酷いです!!」


………何が…?


「幼い頃、悪漢に追われていたわたくしを助けてくれて、その時に結婚して下さいと申し上げたら、“大きくなったらな”と仰ったのに!!」


男爵令嬢の言葉に、全員の視線がアルバートの方に向かった。


「………は?」


当の本人は、ポカンとしていますが…

全員の視線を受けてアルバートは必死な顔で考え込み、暫くしてハッと顔を上げた。


「………ぁぁ、そういえば昔ソフィア様捜索しているときに、そんな事が…」


確かにあの時はよくアルバートが探しに来てた――

って、その時この子いくつよ……

まだ10にもなっていなかったんじゃ……

アルバートは25歳。

フィーアが私と同じだからまだ釣り合いは取れるけど…

………この令嬢、来年12よね?

社交デビューすれば正式に婚約できるけれども…

先走ってのお見合いで口約束の婚約するつもりだったのかしら…


「………彼女と約束したのですか?」

「いや、“大きくなってそれでも俺がいいなら、俺が独り身なら考えてやってもいいぞ”と…」


………成る程……

約束とは言えない言葉を、彼女が本気にしていた、と…


「けれどその前にアルバートが生涯守りたい人を見つけ、一緒にいます。わたくしも許可しましたし、そしてサンチェス国とランドルフ国、それぞれの許可が出て正式に婚約が成り立っております」


急いで用意した婚約契約書を机に出す。

婚約成立日付は不正させてもらいましたけれども。

今この国にラファエルもいてくれて助かった。

お父様も事情を聞いて快諾してくれたし。

両国の王にしか押せない印もしっかり押されている正式書類だ。

それを見て男爵令嬢は力なく座り込んでしまった。


「アルバートとフィーアの婚約を覆すことは致しません。ご了承を」

「も、勿論です!!」


男爵が頭を下げる。


「じゃあ、ソフィアの従者の件はそれで良しとしても、男爵令嬢にはそれ相応の罰を下さしてもらうよ。ソフィア達はもういいから下がって」


お兄様の言葉に私は礼をして、ソフィーに合図して車イスを押してもらい退出した。

ラファエルと騎士達が続けて部屋を出た。

そのまま私の部屋に戻るまで誰も声を発しなかった。


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