第343話 失敗しました
「~~~~~!!」
「~~~~」
「!? ~~~~~~!!」
フィーアとアルバートが退出してから暫くは平和だった。
けれど、数分して隣が騒がしくなってきた…
私の部屋の隣は侍女待機室で、あまり使われたことないから分からなかったけど…
隣の声がここまで届くものだったんだ…
そりゃ聞こえなきゃ私が呼んでも来られないわよね…
「白熱しているようだね」
「………またアルバートが何かフィーアの逆鱗に触れたんじゃないの…?」
「まぁ、無茶な注文をしていると思うよ。実際アルバートとフィーアの接点なんて無かったんだよね?」
「無かったね。仕事上の付き合いしかしてないだろうし、話してるところも見たことないし」
私は普段を思い浮かべてハッとする。
そしてその事に触れないようにしてソッとカップに口を付けた。
「何?」
「え……」
「なんか思い至ったの?」
………よく見ていらっしゃる……
いや、前からラファエルは私の顔を見て多くのことに気付くけれど…
………それでも私が口に出さないことで、ラファエルは傷ついていたんだよね…
「………?」
ジッと見つめると、ラファエルが首を傾げた。
………ぁぁ、格好いい…
ラファエルぐらいのイケメンには、仕事は勿論、恋愛面でも悩みなんてないと思っていたのに…
実際は私が気持ちを口に出せないことで、凄く悩ませて…でも私のために色々変えてくれて…好きにさせてくれてくれようとしてくれてたんだよね…
あの時のことは全面的に私が悪いのに、ラファエルは私のせいにせず、全部自分のせいにしていた。
こうして普通に話せるのが、凄く幸せなことなのだと気付かされたあの時の事は、苦い思い出と共にいい思い出とも思う。
お互いにお互いの思いを口に出さなかったせいだと、教訓になった。
まだ回数的には多くないけれど、好きだと言えばラファエルが嬉しそうに笑ってくれる。
私を今までと同じように――いや、もっと甘い顔で見てくれる。
私だけに向けてくれるラファエルの表情は、本当に愛おしくて……
………もぉ、大好きだ!!
「ソフィア?」
ハッとして慌てて視線を反らした。
顔が赤くなっている自信がある。
い、今はフィーアとアルバートの事を考えていなくちゃダメなのに!!
何であの時のことを思い出して浸っているの!?
恋愛事でゴタゴタしてるから!?
ぅぅ……ラファエルがイケメンなせいだ…
ラファエルが優しいせいだ…
ラファエルが私のことを考えてくれるせいだ…
ラファエルの顔に慣れてきたと思っていたのに、ふとした瞬間に思ってしまう。
こんなイケメンが私を好きになってくれたのは、奇跡以外の何ものでもないっ!!
そんなイケメンに嫉妬されて、愛を囁かれて、何故私は口を噤んでいたのだろうか!!
むしろ私の方が口説く勢いで、好きと言い続けなければならなかったのに!
昔の私爆発しろ!
「………」
「………はっ!!」
そういえばラファエルからの問いに答えてなかった!!
慌てて顔を元に戻すと、周りが静かすぎることに私は気付いた。
そして何故か顔を反らしているラファエルと、護衛達。
ソフィーからは何故か生暖かい目で見られていた。
………え……なに……
「………ぁぁ……不意打ちでそれはキツいなソフィア…」
「………へ?」
何故ラファエルは真っ赤になっているのだろうか。
手で顔を隠しても全部は隠せてないよ。
バッチリ見えてます。
「わ、私……何か……」
………言ったんだね?
言っちゃってたんだね?
久々に心の声が漏れてたんですね!?
「ソフィー! 私何言ってた!?」
「『こんなイケメンが私を好きになってくれたのは、奇跡――』」
「わーー!! 言わないで!!」
「………」
あ、ソフィーが半目になっちゃった。
ごめんなさいすみません!!
私から聞いておいて何を言ってるんだ、って顔ですね!!
でも恥ずかしすぎる!!
「こほっ………で? 口説いてくれるの?」
「く…!?」
ラファエルがその長い足を組んで、ソファーの背もたれに肘をつき、手の甲に頬を乗せこっちに流し目を向けてくる。
その口元に笑みを浮かべて。
………あ、死んだ……
なんですかそのモデルのような格好は。
今私、頭から湯気が出てると思います。
こう…ぷしゅーっ、と…
「ソフィア顔真っ赤」
自覚しています。
頼みますからその格好どうにかして下さい止めて下さい私死にます婚約者が格好良すぎてその視線の先にいるのが自分だと自覚したら最後溶けます。
「ソフィア自身に向けてるんだから自覚して欲しいけど? 溶けられたら困るけど」
空いてる手で私の顎に触れるの止めて下さい普段のラファエルさんに戻って下さいお願いします。
「俺は変わってないけど?」
いいえ変わってます普段のラファエルさんはもっとこう――
「情けない男に見えてるって? 当然でしょう? ソフィアの事になると俺はなりふり構ってないんだから」
「………あれ…?」
何故か会話が成立して…
「ソフィアは作っている…格好つけている俺に愛を囁かれてもなびかないでしょ?」
………いえ、イチコロだと思いますが……
「それよりもソフィアは自分が手を差し伸べないと、って思う相手に弱い」
「………へ?」
「だって手助けが必要ない完璧を演じている俺がソフィアがいないと生きていけないって言ったら、信じた?」
「信じられない」
あ、今私思わずスンッとした顔をしちゃった…
しかも即答しちゃった!!
「でしょ?」
………でもねラファエルさん。
言ってることとやってることが違うんですけど……
どうしてモデル体勢から表情まで変えないんですか…
「ソフィアが久しぶりに俺に見惚れて、顔を赤くしてくれてるから」
「ぐっ……」
ひ、卑怯だと思います!!
「で? どうやって俺を口説いてくれるの?」
「ひぇ!? そ、それまだ続いて…」
「続くよ? だってソフィアがどう俺を口説いてくれるのか興味あるし、この格好はソフィアの好みだと分かったし」
ええ!!
好みですけれども何か!?
でもいきなりハードルMaxにしなくていいと思う!!
「い、今はフィーアとアルバートの事が優先で!!」
「………へぇ?」
あ、あれ……何故ラファエルさんは笑みを深くしてるのでしょうか……
「焦らせる作戦?」
「ち、ちが…!!」
「妬けるね。俺のお姫様は従者の恋愛に夢中らしい。俺を見ないなら…俺で頭をいっぱいにしないなら……何処かに閉じ込めて、俺以外のことを考えないようにしようか…?」
パタリと私はラファエルの胸元に倒れ込んでしまった。
………反則にも程があるでしょう!?
私を引き寄せて、耳元でソッと甘い声で囁くなんて!!
こんな事されたのって滅多にないから、私免疫無いからね!?
クツクツとラファエルが笑っているのが、身体が揺れていることで分かっちゃうからね!?
ああもう悔しい格好いい、そんなラファエルも好きですけれど!!
わ、私が口説かれてるようなんですけど!!
「もうちょっと俺を構おうかソフィア」
………ぁぁもう……
いつものラファエルに戻ったところで、私は唇を奪われた。




