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第339話 非常識が増えました




「助けてくれソフィア様!!」


バンッと部屋の扉を蹴破るような勢いで入ってきたのはアルバート。

ポカンと間抜けな顔を晒してしまった。

騎士――元兵士だったけれど、訓練はちゃんとしているはずだ。

そんなアルバートが血相を変え、あまつさえ息切れしている。

一体どうした…


「何?」

「匿ってくれ!!」

「………は?」


返事をしていないのに、アルバートはその巨体をあろう事か、私の寝室にあるベッドの下に入れようとしている。

………いや、色々あり得ないから。

ソフィーが掃除のために寝室の扉を開けっぱなしで、換気していたのだけれど。


「………アルバート、流石にそれは無いわ」

「無いですね」


仮にも主人の、しかも女の寝室に勝手に入って寝具に近づくことさえ非常識なのに、更にベッドの下に入るなどと…

ソフィーもハタキを持ったまま、呆れかえっていた。


「しーーー!!」


アルバートは口に指を当てて、静かにしてくれと意思表示するが……

………そんな大きな声で…それもないわ……


「失礼致しますソフィア様」

「………どなたかしら」


私は急にまた人が部屋に入ってきたことに眉を潜める。

侍女服ではなく、立派な貴族令嬢のドレスを着込んだ女性が、私の部屋に入ってきた。

………貴族令嬢まで私を軽んじる。

これはサンチェス国学園では慣れていたけれど、さすがに王宮の部屋でされるとは思わなかった。

そしてドア前に立っている警備兵は何をしていた。

と扉を見ると、固まっていた。

………なるほど……止める間もなく、アルバートが勢いよく開け放った扉から入って来ちゃったのね……

まったく……私の周りには非常識人間が集まるのかしら……

人格判断が速やかに出来ていいけれども…

流石に引くよ…


「突然の無作法をお許し下さいませ」


完璧な動作で礼をする令嬢を見ても、私の目は和らがない。


「本当ですね。ここがサンチェス国王女の自室だと、知っているのでしょうか」

「はい」


悪びれもなくそう言った令嬢に、私は表情を変えず、内心で舌打ちしそうになった。


「………」

「………」


私が喋らなくなり、令嬢まで口を噤んだ。

………成る程。

一応礼儀は分かっていると見える。

けれどその礼儀を無視するほどに、急用があったのだろうか。


「とにかくご用がお有りでしたら、人を通して下さる? お引き取りを」

「お待ち下さいませ。わたくしは――」

「無作法な方とこれ以上話す事はありません。お引き取り下さい」


手を上げると、今まで壁際でいつでも動けるように構えて様子を見ていたオーフェスとヒューバートが即動き、令嬢を部屋から叩き出した。

しっかり扉を閉めてもらい、鍵も閉めてもらった。


「………で? アルバート、あれは誰」

「………な、なんのこと、だ……」


嘘下手すぎだろ。

部屋にいた人間の心は1つになっただろう。

冷や汗をかいて、目をキョロキョロさせて、挙動不審なアルバート。


「アルバートが駆け込んできて、続いて失礼な令嬢が入ってきた。関係ないわけ無いでしょ」

「………あ、あれは………」

「あれは?」

「………………親が用意した見合い相手」


シンッと周りに音1つ無くなった。


「「「「「「見合い相手!?」」」」」」


そして1拍後には、全員の驚きの声が一致した。


「お、俺は嫌だって言ったんだ!! なのに非番もらえたから家に顔見せに行ったら、何処から情報が行ってたのか知らねぇが見合いの設置されてたんだよ!」

「で、逃げてきたら」

「追いかけて来ちゃったんだ」


………ん?

知った声が聞こえて振り返ったら、ラファエルがいつの間にかいた。

………あれ……?

鍵かけたよね?


「ラファエルいつの間に……」

「鍵がかかる直前に」

「………ぁ、そう……」


そういえば驚いて全員の声が重なったときに、なんか人数多いなぁと思ったっけ……


「………で?」

「え…?」

「何時までアルバートはソフィアのベッドの下にいるわけ?」

「………ぁ……」


ラファエルの鋭い視線に、その巨体からは想像できないほど、俊敏な動きでアルバートがベッドから離れた。


「まったく…油断も隙も無いよね。ソフィアのベッドに触れていいのは俺と、ベッドを整える侍女だけだよ」

「す、すまねぇ……必死で……」


………サラッとラファエルは言うけれど……

婚姻するまで相手のベッドに触れるのは、本来はダメだよラファエル……

一緒に寝るとかもありえないんだけどね…


「………で? 何処のお嬢さん?」

「あ……聞いてねぇ……」

「………聞いてないの……?」


仮にも見合い相手でしょう…?

名前も知らないってどういう事……?


「男爵家の――の部分でトンズラした…」

「………ふぅん……」


男爵家、ねぇ……

仮にも貴族令嬢があの常識が無い行動をするかね…

何処まで王女わたしは低く見られてるんだか…


「でも、アルバートはもうランドルフ国籍の騎士でしょ? サンチェス国の男爵令嬢を見合い相手に選ぶって、私に断りなく思い切ったことしたね」

「………それが……」


アルバートの言葉に、私は勿論ラファエルも、そして私の臣下達も呆れかえってしまったのだった。


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