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第337話 これで地盤は確保




ゆっくりとソフィーの煎れたお茶を、お兄様が作った庭にて飲んでいた。

ラファエルとゆっくりする時間は貴重で、のんびりしながらも私は充実していると思う。


「姫様」

「ん?」


呼ばれて振り向くと、アマリリスが立っていた。


「………文は?」

「したためてジェラルドに持っていってもらっております」

「ジェラルドに?」


別に文ぐらいならこの王宮の使用人でもお使いできるはずなのに。


「………その……私の盗んだお金を、ジェラルドが肩代わりしてくれまして…」

「………そう。ジェラルドにも頭が上がらなくなったわね」


ジェラルドにそんな知恵が回るとは思わなかった。

現金があるのなら、他人には怖くて預けられないわよね…

私でもそうするわ。


「はい。………彼、変わってます」

「そうね。でも自分が囲うと思った人間は、絶対に裏切らないから。守ろうとするから。だから安心していいよ」

「それは……そういう人だと分かってきましたが……その……」


言い淀むアマリリスに、首を傾げる。

何かを心配している?


「………ん? ジェラルドを行かせたら男爵家に貴女との関係を告げるかもって?」

「………はい」

「言わないと思うけどね」

「え……」


私はお茶をまた飲む。


「アマリリスはもう男爵家の人間ではなく、ただの平民。貴女の保護者――管理者は私。私の許可は必要でも、男爵家には必要ない」

「あ……」

「その辺は、公爵家の人間として心得ている――はずよ」

「………姫様……最後のでまた不安になりました」


………うん、私も言ってて不安になってしまった。

確信しているわけではないから…


「まぁ、男爵家が私か公爵家に何かを言ってくることはほぼ無いわ」

「何故ですか?」

「自分の家の階級故」

「………ぁ……」

「下位の者が抗議しても、公爵家、そして王女わたしが許可した以上、覆ることがないから」


そう言えば、アマリリスは明らかにホッとした顔を見せた。

………へぇ?


「ジェラルドの事、好いちゃった?」

「………へ!?」


途端にカァッと顔を赤くするアマリリスに、私どころかラファエルまでもがニヤついてしまった。


「ジェラルドも上手い落とし方したんだねぇ。弱っている女の子に救いの手を差し出すのは1番の定石だね」


今まで黙って見ていたラファエルがくすくすと笑って話に入ってきた。


「楽しそうだねラファエル」

「ソフィアも顔ニヤついてるよ」

「だって、アマリリスが可愛い反応してくれるから」

「ひ、姫様もラファエル様もからかわないで下さい!!」


アマリリスが真っ赤な顔のまま抗議するけれど、それも可愛いとしか思えなかった。

元々可愛い顔しているから尚更。


「罪の意識を常に持って仕事をするのは結構だけれどね」

「姫様…?」

「人は、それだけで生きていくのは無理よ」

「………」

「辛いことばかりだと思って生きていれば、衰弱してしまう。食事も喉を通らなくなるからね。だけどその中に少しでも幸せだと思う瞬間があれば、生きていられるのよ」


空になったカップに、ソフィーにお茶を煎れ直してもらいながら、アマリリスを諭す。


「自分が罪人だと自覚しているのは昔の貴女と比べて上々だけれど、私だけのために生きるということはこれからの長い人生、私の死ぬ瞬間までアマリリスが生きていられると思えないから。ジェラルドがいてくれて良かった」

「………影は、姫様だけを思っています」

「彼らが罪を犯して、罪悪感を持って私に仕えてる?」

「っ……」

「………アマリリス、自分が恋愛してはいけないと思わないでね。罪人だって、少しの息をつく場所があっていいものだから」


アマリリスは瞳を潤ませ、ゆっくりと頭を下げた。

………これでアマリリスは生涯私に仕えられるだろう。

ジェラルド、いい仕事してくれたわね。

私は頭を下げ続けるアマリリスの向こうに、こちらへ歩いてくるジェラルドの姿が見え、ゆっくりと口角を上げた。

これでまた決して裏切らない生涯の臣下が出来た。

チップのおかげで裏切れないけれど、生涯仕えてくれる人材は貴重だ。

特に私みたいに最重要視されない王女という立場の人間には、優秀な人材を宛がわれることはめったにないから。

私は本心を押し隠しながらお茶に口をつけた。


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