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第336話 そんなこと望んでない ―A side―




自分の名前を最後に記入してペンを置いた。

自分の犯した罪の告白文。

この文をエイブラム男爵家に送れば、おそらく男爵家から姫様に連絡が行くだろう。

そんな自分を姫様の元に置いておくな、という風な事を…

私は罪の償いのために姫様の元にいるし、この身を一生かけて償いに当てると決めた。

そしてチップのおかげで姫様から離されることはない。

男爵家が王女の姫様に命令など出来ないけれど。

封をした文を眺める。

追放されてから、正直男爵家のことなど頭になかった。

姫様への復讐しか頭になく、罪を犯し、そしてその償いのために姫様のことしか頭になかった。

………今考えても、ずっと私は姫様のことしか考えてなかったんだなって…改めて思う。

………どんだけ私って姫様好きなのよ…

思わず苦笑してしまう。


「アマリリス~書けたぁ?」

「うん」


文を撫でていると、ちょっと出てくると言っていたジェラルドが帰ってきた。

彼はこんな何にもない、罪人の私を婚約者にした変わり者。

可愛い顔して私よりずっと年上だ。

背が低く私と同じぐらいの身長で、性格も幼くてまるで弟のような感じに思えてしまう。

けれど、その腕は逞しいことを知っている。

私を片腕で抱えられる。

自分の考えだけで生きている彼は、誰の言葉にも耳を貸さない事がある。

流石に姫様の言葉を否定することは……多分無いけど。

自分のどうでもいいことには、本当に頓着しない。

自分のやりたいことなら、他人にどう思われても関係ない。

羨ましい。

………私に強引にキスしてくることだけは止めて欲しいけれど。

そりゃ婚約しているから咎めることじゃないけれど…

抱きしめられたら私の力では抜け出せない。

改めて彼は男なのだと気付かされるけれど。

その後、どうすればいいのか分からないから困る……

嫌われてないことは確かだけれど、政略結婚だからそこまで恋人を演じなくてもいいと思うけどな…


「じゃあコレと一緒に送ってねぇ~」


ドサッと置かれた革袋。

机に置かれたときに、ジャラッという音がして首を傾げる。


「………なに? これ…」

「ん? アマリリスが多分男爵家から盗んだ分の金額はあると思うよぉ」

「………はぁ!?」


私は慌てて革袋の中を覗き込んだ。

目眩がするほどの金額が入っており、実際にくらっと目眩がした。

なんでこんな大金をこんな質素な革袋に入れてるの!!

そ、それにこの量!!

私が盗んでしまった金額の倍以上あるし!!


「こ、ここここっ!?」

「ん? さっさと清算した方が良いんでしょ? これで清算したらいいよ」

「ばっ!? ばっかじゃないの!? 私が盗んだのは私の罪!! 私が償わなきゃいけないことなのよ! なんでジェラルドが私の罪を肩代わりするの!?」


ガタンと椅子から立ち上がって、急いで革袋の口を塞ぐ。

ここで盗まれることなどないとは思うけれど、見たこともない大金に心臓が煩い。

人様からお金を盗んだ前科者の目の前に、こんな大金無造作に置かないでよ!!


「だってつがいだし」

つがいって言っても別人よ!!」

「運命共同体でしょ?」


そういう言葉は知ってるのね!!


「こんな事をして欲しくて私は婚約を受け入れた訳じゃない!!」

「知ってるよ? ソフィア様の為でしょ?」

「そうよ!! だから!」

「だからこそ、煩わしい事はさっさと清算した方が良いでしょ」

「え……」

「アマリリスがソフィア様大好きなの知ってるから。だからアマリリスがソフィア様の事だけを考えられるように、他の余計なことがおれで解決できるなら利用したらいいよ」


ジェラルドが革袋を突いて、私を見る。

いつもの陽気な顔は何処に置いてきたの…

目の前にいる男は……誰……


「どうせ俺、金なんか持ってても使うアテないんだよね。兵士になって……騎士になって給金貰っても何にも使うことがないから、貯まってく一方だし」

「………」

「公爵家とは関係ないよ。これは俺が稼いだ金だし、どうせ結婚したら2人の金になるでしょ。俺使わないからアマリリスが使ってくれたら減るでしょ」

「でも……」

「ん~……じゃあこの金でアマリリス買うね」

「………は!?」

「だから一生俺のモノでいるって約束ね」


ジッと見つめられ、私は息を飲んだ。

ドキッと心臓が跳ねる。

………え、嘘……

わ、私……今までジェラルド相手にときめいたことなんてないのに……

………うわぁ……

ど、どうしよう…

ジェラルドが格好良く見える……

弟のようにしか思えなかった彼相手に……


「………こんなにいらない……」

「ん?」

「………盗んだお金……この半分にも満たないから……」

「え? そんなに安かったの? あの呪具」


………ジェラルドは本当に金銭感覚無いのか……

思わず苦笑してしまう。

仕方がないか。

公爵家と男爵家なんて天と地の差がある。

王家ほどではないけれど。


「………私、姫様の為だけじゃなく、貴方のためにもちゃんと生きなきゃね……」

「そうだね。子供は3人以上ね」

「いきなり何言い出すの!?」


カァッと真っ赤になってしまう。

まだ結婚もしてないのに!!

そ、そそそれに子供って!!


「? 仲良くしてたら出来るんでしょ?」


キョトンと首を傾げるジェラルドは、いつもの彼に戻っていて……

………こ、これは……まさか……子供を作る行為を知らない……!?

嘘でしょ!?


「アマリリス?」

「………こ、今度オーフェスかヒューバートに教えてもらいなさい!!」

「へ?」


不思議がっているジェラルドを尻目に、私は有り難く必要な分のお金を分けてもらい、ちゃんとした袋に入れ直して文と共に置いた。

残りはジェラルドに返した。


「それだけでいいの?」

「いいの。後はジェラルドがそのまま管理してて」

「でもこれはもうアマリリスのお金だよ」

「将来の生活のために貯めてて。私も給金入ったら渡すから」

「分かった。2人のお金だね」


2人の、と自然にジェラルドが言うものだから、ふっと笑みが自然と出た。

ジェラルドに感謝してもしきれない、大きな借りが出来てしまった。

彼が私との結婚と、それ以降を望むのならそれを叶えよう。

そう決意しながら、私はジェラルドに文とお金を男爵家に持っていってもらえるように頼んだ。

文だけだったのなら王宮の人に頼んだけれど、お金があるから。

………それにジェラルドの事だ。

行かせたらおそらく婚約していると告げるだろう。

………この世界の本当の両親に、結婚の報告が出来たら少しは親孝行、償いになるだろうか……と甘い考えをしてしまう罪人の自分に、呆れてしまった。


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