第331話 プチ喧嘩かも
静かに滑っていく車イスのタイヤ。
凄いねコレ。
手でタイヤを操作して、王宮内を移動する。
護衛はヒューバートとジェラルド。
私の後をゆっくりついてきている。
「………自由に動けるとなったらコレですか…」
「王太子様怒っちゃうねぇ~」
………何か後ろで言われている…
気にしないけど。
「街に出てないからいいじゃない」
「そ――」
「そういう問題じゃないんだよソフィア」
「………ぁ……」
目の前に物凄い笑顔のラファエルさんが立っておりました…
………ぁ、ぁれぇ……?
「まだ足治ってないでしょ」
「で、でも痛みは精霊が抑えてくれてるし、車イスあるし…」
「そのクルマイスっていうのは確かに凄いと思うよ? 早速設計図をアマリリスに書いてもらってランドルフ国へ送って、量産するように言ったよ?」
………言ったんだ。
早くない?
「コレでまた定期販売する品が出来て国に金が入るよ? でもね、それでソフィアが徘徊していいって言った覚えはないよ」
………は、徘徊って…
「俺と一緒に散歩するならいいけどね」
「ぇ……」
私の前にしゃがんで、見上げてくるラファエル。
………ああもう……可愛いなぁ……
「ラファエル……寂しかったのね」
「寂しいんですね」
「寂しいんだぁ」
「………」
全員がラファエルを子供を見る目で見てしまっていた。
「容赦ないなぁ3人とも…そうだよ。ソフィアに置いて行かれた俺の気持ちをちょっとは分かってよ」
「でもお兄様と打ち合わせしていたんじゃないの?」
「そうだけどね…」
ラファエルは苦笑して、立ち上がった。
「俺、押していい?」
「いいよ」
ラファエルが私の後ろに回って、車イスの取っ手を握って押し始める。
私は自分で運転する必要がなくなって、楽させてもらう。
「今回は時間があるからね。打ち合わせはゆっくりやるよ」
「何日?」
「滞在は10日間。あと8日かな」
8日後にランドルフ国に帰るのか…
「………また私は、勉強遅れるわね…」
「そう言うと思って、何冊か本を持ってくるようにお願いした」
「え……」
ラファエルを見上げると、ニッコリ微笑まれた。
あ……これは…
「みっちり仕込んであげるから。帰っても授業遅れないように」
「………療養中に勉強ですか…」
「その療養中に徘徊しているのは何処の誰?」
怒っていらっしゃる!!
治るまで我慢するんだった!!
「打ち合わせの半分は今日の時点で終わったし」
「早っ!?」
「ソフィアのアイデアのおかげでしょ。屋台の料理は、サンチェス国が軽食、ランドルフ国が甘味を担当することになったから」
「そっか」
「ソフィアの軽食のメニューのアイデアが欲しいって。食材は揃えるからって」
………メニューか…
そう呼べるほど種類はないんだけどね。
それに…
「ねぇラファエル」
「ん?」
「メニューを教えるのはいいけれど、必要な道具が足りない」
「え?」
屋台だから、専門の調理器具が必要になる。
ソレを作るのはランドルフ国が1番だ。
「引き返して」
「え? 散歩するんでしょ?」
「ラファエルがアイデア出せって言ったんでしょ! 設計図書くから引き返して!」
車輪を操る部分を手で握る。
ラファエルが押していたのと、止める私の力が反発し合って、ガックンと…急ブレーキみたいな感じになった。
「あ、ごめん。今すぐってわけじゃないから。散歩行こ?」
「そんな気分じゃなくなった」
「ソフィア…」
「もういいよ。ヒューバート、ラファエルと変わって」
「え、あ…はい」
ラファエルと変わって、ヒューバートが押してくれる。
部屋に引き返し、私は設計図と言えるかどうか分からない必要な道具を、紙に書き出していった。




