第330話 開発しちゃったのね…
「………何? これ……」
「作ってみました」
私は目の前に用意された物を見て、唖然とした。
他の者は首を傾げて、ラファエルは精密構造したソレを前後横と覗き込むようにして見ている。
コレはラファエルが作った物ではない。
ラファエルが知らずに興味津々に覗き込んでいるということは、ランドルフ国製ではない。
私に褒めてもらえると思っているのだろう。
アマリリスは胸を張って、ドヤ顔をしている……
「………凄いね。良くここまで…」
「私気がついたんですけど、1度目にした事は忘れないようなんです」
「………」
「食事もですけど、こういうのも覚えていたんです。だからそうかなと」
「そ、そう…」
凄いな…私もそういう能力欲しかった…
「費用はどれぐらいかかったの? ちゃんとそれは出すよ。私が使うんだから」
「いりません」
首を横に振るアマリリスに、私は眉を潜める。
「いやいや…アマリリスの給金は微々たるものでしょ。材料費もかかってるでしょう?」
「大丈夫です」
「アマリリス」
睨むけれど、アマリリスは口を開かなかった。
「それより耐久性も確認したんですけど、一応確認のために今使ってもらえませんか。姫様が使用するのに、途中で壊れたら姫様が怪我をします」
「………はぁ」
私は額に手を当てた。
私のために作ったのなら、私がお金を出すのが筋だ。
侍女見習いの少ない給金以上の費用が、絶対にかかっているはずなのに。
困ってラファエルを見るけれど、ラファエルは目の前の物に目を奪われて、私の視線には気付かない。
「姫様」
「………分かった」
「ラファエル様、よろしいですか」
「あ、ごめん」
ラファエルが場所を空け、ベッドの横にソレが横付けされる。
私は身体をずらしてソレに座った。
アマリリスが作ってくれたのは、車イスだった。
電動ではなく手動だったけれど。
現代式の物を忠実に再現していたため、私は問題なく操作が可能だった。
タイヤはスムーズに動くし、方向転換にも引っかかりなく楽に出来る。
「………問題ないよ」
「よかったです」
「………よくないわよ…本当にいくらかかったの!」
「では私は姫様の昼食を作ってきます」
「あ、こら!」
アマリリスは逃げるように去って行った。
「もう! 誰か手伝った人はいないの!?」
聞くけれど、全員が首を横に振る。
………アマリリスは1人で車イスを作ったのか…
なんという…
料理人でも技術者でもアマリリスはやっていけるではないか。
………それだけに惜しい。
アマリリスが罪人になってしまったことが。
一生私の命令に従わなければならないことが。
一生許されない罪を犯したことが。
私から解放されることがないことは、彼女にとって良いこととは思えないけれど…
これが王族に手を出したことの報い。
「ソフィア、ソレ何ていう物?」
「コレは車イス。足の不自由な人が移動手段に使用する物よ。これでラファエルに抱き上げられなくても動けるようになるから――」
「チッ」
………ラファエルさん、本気の舌打ちしないで…
抱き上げられて移動するの、結構恥ずかしいので私的には良かったのですが…
「ソフィアに堂々と触れられる口実が、無くなっちゃったじゃないか」
「………」
恋人だから、口実無くても触れられると思うんですが……
………
………………って、違う違う!!
自分で思ってカァッと顔が赤くなった。
べ、別に積極的に触って欲しいとか、思っているわけじゃないし!!
「どうしたのソフィア。顔が赤いよ。怪我が熱持った?」
「う、ううん。何でも無い…」
「何でも無いわけ無いでしょ。医者呼んでくるよ」
ラファエルが部屋を出て行った。
………だから、王太子が自ら呼びに行かないで…
「………オーフェス」
「はい」
オーフェスに指示して、走ってラファエルの後を追いかけさせた。
「姫様自分で思ったことに恥ずかしくなっただけじゃないの~」
「そうですね。何か墓穴を掘るようなことを」
………私の従者が徐々に私の心を完璧に読むようになっている……
そんなに私って分かりやすいのかな…
思わず私は頭を抱えてしまった。
取りあえずラファエルが戻ってくるまで、私は車イスの練習として部屋の中を回った。
そして呼ばれてきた医者が、私より先に目を付けたのはやはり車イスで。
コレはどうやって作ったのだ、この物質はなんだ、これはどう接続されているのだ、などなど。
私の診察はそっちのけで、医師はラファエルと同じように車イスに魅入られ、何時間も居座っていたのだった――




