第328話 諫めることもしましょう
「ごちそうさまでしたぁ…」
全て完食した私は、箸を置いて手を合わせた。
そしてほぅ…と余韻に酔いしれた。
日本食、堪能させていただきました!
「アマリリス、毎日朝は和食で」
「畏まりました」
お互い目を合わせ、周りの侍女に分からないように微笑みあった。
「早いわねぇソフィア」
みんなナイフとフォークで食べずらそうだからね。
私は箸で慣れている和食だったから。
「身体が受けつけない、と前に言ってたことは確かみたいね」
「え……」
「食べ慣れない味だけれど、サッパリしていて食べやすい。身体に自然と吸収されるようだわ」
お母様は卵焼きを口にして、微笑む。
「それ以前にお母様。ご懐妊なさっておられるのならお酒は控えて下さいませ」
「分かっているわ」
………ニッコリと笑っておられるけれども…
「………その手のものはなんですか」
私はお母様の手の中にあるグラスを半目で見る。
中身は果実酒。
「あらやだいつの間に」
「いや、自分で頼んでましたよね…妊婦にお酒が厳禁だと未成人も知っていることを、王宮の使用人は知らないんですから、ご自分で管理して下さい」
その瞬間、お母様にお酒を持ってきた侍女達が、私に鋭い視線を向けてきたのが見なくても分かる。
知っていてもお母様の言うとおりに運んできたというなら、尚更悪い。
主人に完全従順なのが、いい臣下だと言わない。
間違った選択を正しい選択へ。
主人に告げることが出来るのが、本当の臣下。
本当に使えない侍女は困るわね…
早めに入れ替えを申請しようかしら。
私相手以外にも色々ボロが出てきたらヤバイし…
っていうかその視線、バレないようにしなよ。
全員気づいているかもだけど…
「アリーヤ」
「………ごめんなさい、あなた…」
お母様はお父様に言われたら、あっさりとグラスを机に置いた。
私はソフィーに合図する。
ソフィーがグラスを回収した。
「じゃあソフィア、代わりにアマリリスをちょうだいな」
「無理ですね」
何が代わりに、よ……
それにお母様もアマリリスに腹を立てていたじゃないの…
「アマリリスはわたくしの侍女見習い。そして、わたくしを決して裏切れない制約を結んでおります。アマリリスをお母様に差し出すことは出来ません」
「………そう……残念ね。残しておいてくれれば、身体にいい食事がずっと摂れるのに…」
「作り方をアマリリスに記載させます。それを料理長等が作るかどうかは別として。それでご了承下さい」
「仕方ないわ。頑張って作ってもらうしかないわね」
私はアマリリスに視線を向けた。
アマリリスは小さく首を縦に振った。
「ソフィー、お茶をくれる?」
「はい。ただいま」
私がソフィーに話しかけたときは、既にソフィーがお茶を煎れ、こちらへ持ってこようとしていた。
さすが私の侍女。
その頃にはお母様以外は食べ終わっており、彼らには他の侍女がお茶を用意するところだった。
「あ、私はいい。ソフィー、私にも」
「はい」
ラファエルが侍女に向かって手で制止した後、ソフィーのお茶を所望する。
侍女達がソフィーを睨む。
………ぁぁ、ラファエルに煎れたかったよねぇ。
でも、ラファエルにお茶を願われる程、貴女達への信頼はないよ。
………皆無と言っていいほどに、ね。
「下げてくれ」
お父様の言葉に、食べ終わった私達の食器類が下げられていく。
お母様も食べ終え、机の上が綺麗になった後、お父様は使用人を全て退出させた。
ここには私達とソフィーとアマリリス、私の騎士とラファエルの騎士、そして多分天井裏に全員の影がいる。
「ロードの件だが、まだ聴取が終わっていない。が、おそらく無期限投獄になるだろう」
「そうですか」
ラファエルはすました顔で返した。
………心の中はドス黒いだろうけれど
「レオナルドの方もロードの罪の証言者になるからまだ生かす」
「………それは、曲がりなりにも血を分けた息子だから、生かしておきたいという甘い考えはありませんよね」
「あるわけがないだろう」
お父様とラファエルが睨み合う。
………お父様の表情はいつも通りで、身内に情けをかけるようには見えない。
本当に証人としての価値としか見てないのだろう。
「………信用しましょう」
「我とて、ソフィアを攫ったことを許すつもりはない」
お父様に見られ、私は息を飲む。
「ソフィアは唯一無二の存在だ」
普通だったらここで嬉しく思わないといけない。
けれど私には副音声が聞こえた…
ソフィア(のアイデア出し能力)は唯一無二だ、と。
私は笑顔を作って、会話を聞いていることしか出来なかった。




