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第324話 嬉しい言葉




「ソフィアー入るよー」

「………もう入ってるじゃないですか」


ラファエルがソファーに座り、私はラファエルの首元にしがみついて離れなかった。

その体勢だと私は部屋の扉の方に顔を向けている状態になり、ノックもせず入ってくるお兄様をそのままの体勢で半目で見る。


「ちょっとラファエル殿借りれる?」

「無理です」


ギュウッとしがみつく力を強め、お兄様を睨みつけてしまう。

自分のことだからよく分かる。

今ラファエルと離されたら、またさっきまでの状態になってしまう。

もう少し、時間が欲しい。


「そうか。お転婆姫も相当ダメージ受けてるね」

「………どういう意味ですか」

「ソフィアも普通の女の子だねって事」


失礼な!!

私は元からか弱い女の子よ!!


「いや、ソフィアはか弱いとは言えない」


………今、私声に出したっけ?


「失礼だねレオポルド殿」

「ラファ――」

「いくらお転婆でも女の子なんだから、あんな事されたら怯えるのは当たり前でしょ」


………何でだろう。

言葉通りに受け取れないのは…

抗議してくれるだろうと思って期待した私の喜びを返して…


「可愛いソフィアを奪われて、俺も頭にきてるんだから。早く葬りたいよ」

「気持ちは分かるけど、本当にしないでね。ラファエル殿を牢に入れなきゃいけないから」

「それでもいいよ」

「ラファエル!!」

「ソフィアと獄中生活出来るんでしょ? 仕事も何もかも放り投げて。ソフィアの事を毎日ずっと抱きしめて、好きなときに口づけして寝て。王太子から解放されて、気ままに好きな女と一緒に過ごせるわけだ。最低限の衣食住は保証されるし」

「ぇ……」


くすくす笑うラファエルに、冗談だと分かるけれども…

ラファエルの冗談は本当にやってしまいそうで怖い…

国民を見捨てられるほど、ラファエルはランドルフ国を愛していないわけじゃない。

そんな事を口に出させてしまった私…

事前に防げたわけじゃないけれど、こんな事になってしまって、ラファエルの足枷になっている自分が隣にいていいのか不安になる。


「冗談はさておき、ロードのいた場所から色々出てきてね」


ビクッと身体が反応してしまった。

あの男の名前が出ただけでこれだ。

………情けないと思う。

グッと唇と噛みしめていると、ソッと優しい温もりが私の頭を撫でる。

それだけで私の震えが止まるから、本当に単純だよね…


「見覚えある呪具やら色々出てきている。けど薬品の方はうちではお手上げなんだよ。ラファエル殿の方で調べられないかな」


お兄様が向かい側のソファーに座りながらラファエルに話す。

私の様子には深く聞いてこないお兄様。

………正直助かる…


「………まぁ、精霊達が協力してくれたら出来ると思うけど…」

「協力してくれそう?」

「ちょっと待って」


ラファエルが口を閉じ、おそらく精霊に協力してくれるか聞いているのだろう、目を閉じている。

………お兄様が私に言ってこないって事は、私がこんな状態だからだろう…

………早くいつも通りにならなきゃ…

そっとラファエルの首から腕を外そうとすると、ラファエルが私の身体に回していた腕に力が入った。

え……っとラファエルを見上げようとしたけれど、もう一方の手でまた頭を撫でられる。


「大丈夫だって。薬はランドルフ国へ運ばせるよ」

「助かる」

「念の為、この国の精霊にも輸送の護衛を頼んで欲しいのだけど。周りは騎士で固めるし、ランドルフ国の精霊達にも頼むけどさ」

「分かった。親父に話して協力してもらえるか聞くよ」


お兄様はついてきた影に何かの合図をし、影が頭を下げて2人出て行った。

お父様のところへ行ったのだろうか。

………もう影には精霊のことを隠さなくなってるよね……いいのだろうか……


「今薬は何処に?」

「あの建物内だよ。兵士を見張りに派遣してる。下手に動かして割れたらいけないからね」

「そう。こっちの技術班を呼び寄せようか。彼らの方がその手のものの扱いが上手いだろう。手先が器用で慎重だからね」

「頼んだよ。こっちのはどうも少し手つきが乱暴だからね。農業の国ならではだけど」


冗談めかして笑い合う2人の会話を、私はラファエルに頭を撫でられながら聞いていた。


「………うちの王族血筋が迷惑をかけた。お詫び申し上げる」


急にお兄様が表情を変え、ラファエルに向かって頭を下げた。


「俺に頭を下げられても困る。実際に被害をこうむったのはソフィアだ」

「分かっている。けれど、レオナルドしかり、ロードしかり、ソフィア捜索にしてもラファエル殿と騎士の力を借りた」

「レオナルドは廃嫡されているし、ロードは王族の血が流れていようとも王子ではなく公爵家の者だ。公爵家から頭を下げられることはあっても、レオポルド殿に謝罪される事ではない。それにソフィアは俺の婚約者であり、将来の伴侶だ。俺が探さないで誰が探す」


グッとラファエルに両腕で抱きしめられる。

その安心できる腕に強く抱きしめられて、私はドキドキする。

本当にこの腕の中に戻ってこられて嬉しい。

………あの時――最悪の場合、もう2度とラファエルに会えなくなって……そんな事になってしまったら…と恐怖でしかなかった。

そこでふと、私は気付いた。

………私が怖かったのはロードではなく……

その考えが胸にストンと落ちてきて……私の身体から力が抜けた。

………ぁぁ、そうだったんだ……と。


「………では言い直そう。サンチェス国民がラファエル殿とランドルフ国に迷惑をかけた。賠償金など、そちらの要求を全て呑むつもりだと、サンチェス国王から伝言を預かっている」

「………ソフィアの恐怖を……図りきれないソフィアの心傷を……金で解決しようというのか?」


ぁ……

ラファエルの全身から怒気を感じた。

ハッとして顔を上げると、さきに見たマジギレ状態のラファエルの顔と同じだった。

表現しきれないほどの怒りに支配された表情に、私は慌ててお兄様の方を見た。

お兄様はそのラファエルの怒りに触れることを分かっていたのか、頭を下げたまま全てを受け止めるかのように目を閉じていた。


「俺が今1番望んでいることは、ロード・ディエルゴをこの手で殺すことだ。俺のソフィアに触れておいて、攫っておいて、俺の宝物ソフィアを傷物にしようとしたクズを、あっさり首をはねて一瞬で死なせるなど言語道断。この世の苦痛を全て与え、死なせてくれと言われても殺さず、一生苦痛を与え続ける」


ゾッとする。

ラファエルの目は本気で、誰にも止められないだろうと悟ってしまう。


「それを無理矢理実行しないのは共通規約があるからだ。俺にはソフィアは勿論、ランドルフ国民がいる。俺が国を守らず誰がこくみんを守ってくれる。俺がいなくなるわけにはいかないからやらないだけだ」

「………」

「サンチェス国王に伝えろ。何でもかんでも金で解決できると思うな。ソフィアは物ではなく人だ! か弱い女の子なんだ! ちょっとした事で傷ついて泣いてしまう1人の女の子! 王女という人形として、俺の婚約者という人形として扱うな! 国も大事だが、娘も大切にしろ! 国交より大事なことだろうが!」


ラファエルの腕にいっそう力が入り、少し息苦しくなるけれど、私は嬉しくてそんな些細なことはどうでもよかった。

思わずまたラファエルの首元にしがみついてしまった。

そんな私をラファエルは咎めることはない。

むしろそのままでいいという風に背を撫でられる。


「………ソフィアがちゃんと傷を癒やせてから、その話は進めてもいいけれど、今の俺の要求は、ロード・ディエルゴのきちんとした処罰とソフィアのランドルフ国への“帰国”」


ハッキリとラファエルは、私をランドルフ国へ帰国させろと言った。

………帰国、ということは私はランドルフ国民だと言っている。

じわりと視界が揺れる。


「俺のいないところにソフィアを置いていけない。俺は今緊急でこの国にいるからソフィアが見つかった以上、もう帰国しないといけないしね。前も緊急で入国したから今度の手続きは厳しくなって1度帰国しないといけなくなる。だろ?」

「それは俺が何とかする。ここにいられるようにする」

「それは遠慮していいかな。ソフィアをこの国に置いておくこと自体、心を癒すのに時間がかかるだろうからね」

「ら、ラファエル」


私はクイッとラファエルの服を引いた。

ラファエルはお兄様から私に視線を移したけれど、私を見る目に怒気は感じない。

むしろ柔らかい笑顔を向けられた。


「何?」

「私はもう大丈夫」

「強がらなくていいよ」

「強がっているように見える?」


少し首を傾げると、ラファエルはジッと私を見つめてくる。

………ぁ、これはダメだ…

さっき自覚した気持ちが恥ずかしくて、顔が赤くなってしまう。


「………見えないね…」


少し目を見開いてラファエルに見られ、ますます恥ずかしくなる。


「ラファエルがいれば、私大丈夫……ラファエルさえ……」


傍にいれば、と最後まで言えなかった。

恥ずかしすぎて顔を背けてしまったけれど、ラファエルには通じたようで再びきつく抱きしめられる。


「もうソフィアは俺のモノだ。誰であろうとも、その身を奪うことは決して許さない。例え、それがレオポルド殿やサンチェス国王でも。ソフィアはずっと俺の傍にいればいいよ」


耳元でソッと囁かれ、スリッとラファエルの首筋にすり寄った。

さっき私を物扱いするな、と言った口で自分のモノだと言うラファエルに苦笑してしまいそうになったけれど、その意味の違いを知っているから私は安心してラファエルの腕の中で目を閉じた。

そのまま私は意識を手放してしまったらしく、その後の2人の会話を聞くことは出来なかった。


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