第323話 単純な私
………頭がガンガンする…
体も怠いし、血を流したからかな…
この世界に輸血なんてものはないし…
精霊に体調を維持してもらうのには枷を外してもらわなきゃだし…
………って、また精霊に頼っちゃってる…
婚約する前は、当たり前だったのにね…
そんな事を思っていると、部屋の外が騒がしくなってきた。
何だろう、と思って目を開こうとしたけれど、開かなかった。
………え……どう、して……?
必死に開けようとするけれど、開かない。
「姫…? 姫!」
「……ラ…イト……」
様子が可笑しいことに気付いてくれたらしい。
けれど私がさっき怯えたから、近づいては来ない。
「お気を確かに!」
「……ん…わか、って……る……」
あ……これ、意識無くなるやつだ……
まだ恐怖が残っているのに、ここで意識を無くすのは嫌だ。
何かあったら、私自身立っていられるか分からない。
人前に出るのが怖い王女だなんて、冗談じゃ……
バタンッと大きな音が響いた。
………部屋の扉が勢いよく開けられた…?
「ソフィア!!」
「……ラファ……エ、ル…?」
足音が近づいてくる。
けれど聞き慣れたラファエルの足音には、恐怖心は出なかった。
………私……単純だな…
ソッと優しく身体に触れられ、温かいものに包まれた。
ラファエルに上半身を抱き上げられたみたい。
「ごめんソフィア! 1人にして! 護衛がいるから大丈夫だと思って!」
「………私、も……引き留め、なかった……から……」
「いや、俺のせいだよ。俺は残ってソフィアの騎士を行かせるべきだった」
「………そんなこと……」
「気が急いて…ソフィアの為にと動いて、ソフィア自身を蔑ろにしたのは事実だよ」
次の瞬間、ガシャンと何か重たいものが落ちる音がした。
それがあと3回続いた。
ふと軽くなる身体。
「………ぇ……」
辛うじて目を開けるぐらいの事は出来るようになり、私は目を開いた。
床に重そうな鉄枷が…
………あれ、私が付けられていた枷……?
枷の内側に読めない文字が刻み込まれている。
あれが精霊の力を抑え込む……術式? みたいなものだろうか…?
………って!
「は、外れ…た……?」
「コレを探しに行ってたんだ。探したらすぐにソフィアの所に戻るつもりだった」
ラファエルの手に、鍵が握られていた。
私の枷の鍵みたいだった。
複雑に作られている鍵に、顔をしかめてしまう。
どんなにピッキングが上手い人でも開けられないだろうと推測できる。
………この世界にピッキングできる人がいるかは分からないけれど…
「………ラファエル…」
「ソフィアを繋げられるのは俺だけなのに、こんな物他の男に付けられないでよ」
………もしもしラファエルさん…
私の感動しかけた心を砕くのは止めて下さい…
「冗談だよ」
いや、今目が本気だったよ…
「とにかく俺以外がソフィアを束縛しているのを許すわけないでしょ」
「………」
「ベッドに移動させるよ?」
ラファエルが私を抱き上げようとしたとき、咄嗟に私は軽くなった手でラファエルのシャツを掴んでしまった。
「………ぁ……」
「………」
咄嗟に掴んでしまって、私は慌てる。
ラファエルはジッと私を見ていたけれど、突然私を抱き上げた。
「ひゃぁ!?」
「そっか。ソフィアは甘えたい時なんだね」
「………へ?」
私を抱き上げたまま、ラファエルはソファーに座った。
「はい、ソフィア。存分に甘えていいよ」
ニッコリ笑って言うラファエルは楽しそうだ。
………そっか。
私がこれ以上辛い思いをしないようにあえて茶化してるんだね…
そんな気遣いをしてくれるラファエルに私は苦笑して、こてんとラファエルの肩に頭を預けた。
単純すぎるとまた思う。
震えていた身体がすっかり落ち着いている。
怠さはまだ残っているけれど、頭痛も治まっている。
「………ぁ…ラファエル?」
「ん?」
「どうして…あそこだと分かったの…?」
「分かってたわけじゃないよ。でもあの辺りにソフィアがいる気がして」
「え……」
「周りを見ていたらソフィアの悲鳴が聞こえて、駆けつけたらソフィアの貞操の危機だったから」
「……っ!!」
ビクッと身体が跳ねた。
そ、そうだ…!!
わ、私下着をラファエルに見られたんだった!!
さらに周りに騎士や兵士がいたって事は……!!
かぁっと顔が赤くなっていく。
「どうしたの?」
「な、何でもない…」
「そう?」
「わ、私、ロードにレオナルドと同じ様な薬を飲まされてたみたいなんだけど…」
「………そういえば、ソフィアの悲鳴が聞こえるまで、俺も精霊もソフィアを探し出せなかったんだよね…」
やっぱり…
私の考えは間違ってなかったみたいだ…
「ゾッとするよ。あのままソフィアを一生失うことになってたら…」
「ラファエル…私もヤダ…」
「でも、ちゃんと見つけ出せたんだから、良しとしよう。あの男はどうせ処刑だし」
その瞬間、ラファエルの顔が怒りに変わる。
私に対して安心させるように柔らかかった表情が一瞬で変わった。
ラファエルが怒っているのを見て、私は嬉しくなる。
私を大切にしてくれてるのが分かるから。
まだ他の男の人はダメだろうけれど、ラファエルだけは大丈夫。
怒っているラファエルに抱きつき、私は安心して目を閉じた。
………そんな私の癒しの時間は、突然バタンと開いた扉に終わりを告げられた。




