第322話 過大評価していました
ラファエルに助けられた私。
急いでサンチェス国王宮に運び込まれ、頬と足の怪我を治療された。
足の裏の傷と足首の捻挫が治るまで、私は歩くなと言われてしまった。
………またか……
私って、つくづく運がないなぁ…
ラファエルは私の治療が終わった後に、すぐに部屋を出て行った。
あのロードがいた建物の捜索に加わるのだろう。
………もう少し、一緒にいて欲しかった…
「姫様…お茶を飲まれますか…?」
「………今はいい」
「………失礼しました」
ソフィーに声をかけられたけれど、私は首を横に振った。
サンチェス国は暖かいけれど、少し寒気がする。
あの時恐怖を感じるより、ラファエルかお兄様と合流できることだけ考えていたから走れていた。
………でも、あの時押し倒された恐怖が今頃になって襲ってきたみたい…
手が震えている。
それがバレないように私はいつも通りの表情を心がけた。
お茶なんて出されたら、手が震えていることなんてすぐにバレちゃうし。
「………」
「姫様…?」
「………お願いがあるんだけど」
私は騎士達にそう声をかけた。
「ダメだ」
「ダメですね」
「だ~め~」
「お断りします」
「………全員一致で拒絶するの止めてくれない? まだ何も言ってない…」
全員に拒否されて、私はため息をつく。
「ライト、カゲロウ。騎士達が使いものにならないから、貴方達が行って」
『………どちらへ』
「ラファエルの所。捜索に行くのは勝手だけれど、恐怖に怯えている婚約者を1人にするなと言って引きずってきて」
「「「「………!!」」」」
ハッとした顔で騎士達が見てくるけれど、私は無視した。
『………失礼ですが、怯えているようには見えませんが』
「………バカなの? 私の臣下に、そんな状態見せられるわけないでしょうが」
『それを言っては台無しでは?』
「仕方ないでしょ。騎士が使い物にならない、と言ったはずよ」
「ソフィア様…」
オーフェスが近づこうとしてきたけれど、手で制する。
「騎士はいらない。部屋から出てって。部屋の扉の前で警護して。ソフィーも今は必要ない」
「姫様!」
「全員いらない! 出て行って!!」
ガンッと机を力一杯叩いてしまった。
………ダメだ。
感情がコントロール出来なくなってきている。
「………お願い」
手で顔を覆ってそう言うと、全員静かに部屋を出て行った。
天井から気配も1つ消える。
「………ごめん……」
呟いた言葉は震えていた。
………情けない…
私は自分で思っているよりずっと弱かったんだ…
カツンと手枷が机に当たる。
私の両手足の枷は未だに付けられていた。
ラファエルの精霊の力でも、物理的力でも、壊すことが出来なかった。
鍵は……見つかるだろうか…
精霊の力に頼り切っているつもりはなかったけれど、いざ使えなくなると、ありがたみが分かる。
頼っていたんだな…
段々手の震えが全身に回ってきたようだ。
ガクガクと震える身体を治めることが出来ない…
じわりと歪む視界。
……邪魔してごめん…
でも、傍にいて………ラファエル……
抱きしめて……
震えが止まるまで、傍にいて…
机に肘をついて、額を手で支えた状態から、動けなかった。
もうベッドに行く気力もなく、自分1人では横になれない。
ポタポタと机に落ちる涙を、何処か他人事のように眺める。
「………重い……」
グラッと身体が崩れ落ちるのを、止められなかった。
椅子から落ち、そのまま床に倒れ込んでしまった。
「姫!!」
それを見ていたのだろうライトが飛び降りてくる。
慌てて手を伸ばしてくる。
その手がおぞましいものに見え、私は反射的に怯えた表情を見せたのだろう。
バッとライトが手を引っ込める。
余計に震える身体は、やっぱり止められない。
「………ごめ………ごめんっ……ライト……」
流れる涙の量が増えていく。
「いえ、私も配慮が足りませんでした。カゲロウが今、ラファエル様を呼びに行っております。………この距離でいるのは大丈夫ですか?」
「………ん。ありがと……大丈夫……」
「では、こちらで待機します」
一定の距離を開けて、私を怯えさせないように床に座り、こちらを見るライト。
上から見下ろす形にならないようにしてくれるライトにホッとする。
思っていた以上に、精神的ダメージが大きかったようだ。
「申し訳ございません。姫のお心を図り損ねました…ラファエル様をお引き留めするべきでした」
「………大丈夫……私も、自分がこんなになるなんて思ってなかったから……行かないでって……言えば良かった……」
私は流れる涙をそのままに、ソッと瞳を閉じた。




