第320話 全ての元凶
「ひっ…!」
私は出口だと思った扉を開いた。
そこにあった物を見て、悲鳴が出そうになるのを手で口を塞ぐことで耐えた。
ズッシリと重い枷は、今気にしている場合じゃなかった。
『じょ、うだん…じゃ、ないわ…よ…』
あったのは、人1人は入れる大きさのガラスケース。
それが無数に置かれていて、中には何かの液体。
そしてその中に精霊が入れられていた。
鎖で身体を拘束され、動けなくさせられている。
おそらく私が付けられている枷と同じ効果があるのだろう。
グッと唇を噛みしめる。
………成る程。
多分、ロードは精霊が見える人間だった。
そして精霊を捉えてここに繋いだ。
実験に利用したかったから。
精霊を拘束できる道具、人に気付かれなくなる薬。
アマリリスが使用していた呪具も、もしかしたらロードの作った物かもしれない。
「ふ、ざけ……んなっ……!!」
早くお父様とお兄様に伝えないと!
こんな事、誰にも――ましてや王家の血筋がしていいことではない!
これでサンチェス国王であるお父様が精霊に見放されたら、サンチェス国の農産業での国益が取れなくなる!
国は衰退の一途を辿り、国自体がなくなってしまう!!
冗談じゃない!
民に害が及んでしまう!!
私は踵を返して出口を探そうと走った。
ごめんね精霊達、もう少し待ってて!
私は急いで出口を探し、外へ出た。
「………ここ、どこ……」
建物を出ると、そこには聳え立つ木々で、方向も何も分からなかった。
木々は私が囚われていた建物を覆い隠すようになっており、どうやら私がいた部屋は地下だったらしい。
建物は平屋ぐらいの高さ。
走ってきた距離と、あの実験室の広さを考えると、見えている範囲を目算し一人暮らしできる平屋では足りないと分かるから。
普通の木の高さでも、平屋に見えるそこは覆い隠してくれる…
『主様! ここは覚えがあります!』
『!! 本当!?』
『はい。ランドルフ国は勿論、サンチェス国にも主様は行かれていますので、2国に生えている木々の性質やクセで場所はすぐ分かります!!』
流石ね木精霊!
木の精霊の準長だけはある!!
『ここはサンチェス国とランドルフ国の国境付近! ランドルフ国西国境の近くのサンチェス国の森です!! 王宮へ行かれるならサンチェス国の王宮の方が早いかもしれません。国境を今すぐ越えることは難しいかと』
国境付近の店、と言っていたレオナルドの言葉と一致する。
やはり薬を作っているのはロード、と確信する材料がまた増える。
『分かった! 王宮への道案内してくれる?』
『はい!!』
木精霊の言葉通りに森の中を走る。
靴を取り上げられたから、土に混じる異物で足の裏が傷ついて血が出ようとも、私は足を止めなかった。
一刻も早く保護を求めなきゃいけない。
走っている途中、何匹かの動物とすれ違うも、彼らは何の反応もしなかった。
「………」
私はその可能性を考え、血の気が引く。
………まさか私も気付かれない薬を、知らないうちに飲まされたのだろうか。
『可能性はありますね…』
精霊の相づちに私は頷く。
そうすると私は王宮へ行っても誰にも気付かれないかもしれない。
王宮に着く前に、何か手を考えなければいけない…
「~~~~~なんて事をするのよっ!!」
幸いと言っていいのか分からないけれど、レオナルドはどんなに探していても見つからなかったけれど、アマリリスが姿を見せればレオナルドの姿が全員に見えた。
1度認識してしまえば、レオナルドを見失うことがなかった。
レオナルドが考えていたのはアマリリスの事。
だからアマリリスに会ったから、薬の効果が切れたのかもしれない。
それか、レオナルドの目的だったアマリリスが、レオナルドの事を考えていて、双方が相手を見つけたがっていたから切れたのかもしれない。
正解かどうか分からないけれど、試してみる価値はある。
私は走りながらお兄様の事を考えた。
お兄様なら見つけてくれるかもしれない。
ダメなら、乗合馬車か何かに紛れ込んでランドルフ国へ行けばいい。
不法入国になってしまうけれど…
攫われた時はランドルフ国だったから、今のこの状態も不法になっているけれど…
ラファエルに会えれば何とかしてくれると思う。
もし双方のことを思っていなければならないなら、ラファエルと私は常に――は無理だとしても、ちゃんとラファエルは私を見つけてくれると信じてる。
ロードは私を問題なく見ていた。
直前に私はロードの事を思い浮かべていたからだろうか?
多分、私が思っていればいいだけだと思うけれど、一応色々考えていなきゃ。
考え事をしていて足もとを疎かにしていた。
ザクッと何かで足を切り、私はその場に転倒した。
「いったぁ……」
『主!!』
「大丈夫――じゃないな、これ…」
私が足を見れば、付き続けた傷から出ていた血と、今石でザックリ切ってしまった大きな傷のせいで、ドクドクと地面に血が流れ出ている。
来た道には点々と血液の道しるべが付いている。
ロードがあそこから出てきて追いかけようとしたら簡単に私の居場所が分かってしまうだろう。
『主様!!』
緊迫した声が聞こえ、自分の身体に影が落ちた。
ハッと私は身体を強張らせ、ドクドクと高鳴る心臓をそのままに、恐る恐る顔を上げた。




