第313話 試作品が出来ました
『こら、何黙って帰ってんだ』
一行だけの手紙を無言でイヴに差し出された私は苦笑いする。
謝る手紙をイヴに託し、お兄様のところへ持っていってもらった。
………私って、夢遊病だったのかしら…
確かに眠る前にラファエルに会いたいと思っていたけれど…
よく火精霊から落ちなかったものね…
風精霊が何とかしてくれたのかしら…
「ソフィア、今日学園行く?」
「あ…うん、行く」
食事を終え、まだ朝日が上がる前だったからいつもの日課を終えたとき、ラファエルに聞かれ私は頷いた。
また休んでいたから授業に遅れちゃったな…
自業自得だから仕方がないけれど。
「店の方は私が動いても仕方がないし、究極精霊に任せるよ」
「そうだね。こっちの国では見つけられないし、他の国での見つかるのを期待するしかない」
「フィーアの方も影も成果無しだし、私服騎士も同じくだし」
「そうだね」
1度制服に着替えるために別れる。
………それに私のせいで影達は捜索打ち切りになっちゃったしね…
不注意な――不用意かな…自分に呆れちゃうわ。
権限もらえたからこれからは大丈夫だけれど…
まだまだ私の習得すべき事はありすぎる。
頑張らないと。
「………案外学園とかで情報手に入れられるかもだし、落胆するのはまだ早いよね」
「だね」
「ひぃや!? ちょ、ラファエル! まだ着替えてる途中なんだけど!?」
「………チッ」
「舌打ちしないでくれる!?」
良かった。
シャツとスカートを着た後で。
ラッキー的なこと狙わないで欲しいんだけど!
見ても良いとこ1つもないからね!?
キュッは頑張れば出来るけど、ボンは期待しないで!!
「でも、ソフィアの赤い顔を見れただけでいいか…」
………ぁ、顔赤くなってるんだ…
って、そうじゃないよ!!
「ちゃんとノックして!!」
「したけど気付かなかったソフィアが悪い」
「ぇえ!?」
考え事してて気付かなかったのか…
「あ、ソフィア。手出して。左手」
「左手?」
腕をラファエルに差し出すと、ラファエルが私の手首に何かを巻き付けた。
「………え!?」
500円玉ぐらいの大きさの腕時計が私の手首にあった。
ちゃんと長針短針、秒針まで作られており、秒針が一秒毎に動いているようだった。
「こ、これ……」
「ちょっと試作品。使ってみてくれる? ちゃんとソフィアの希望通りになっているか」
「あ、ありがとう」
お礼を言うと、ラファエルが微笑む。
ラファエルの腕にも時計が付けられており、ベルトの色はシンプルな黒だ。
ちゃんと狂わずに動いてくれれば、時間が正確に分かるようになる。
これでだいぶ楽になるはずだ。
無事に出来上がればデジタル時計も夢ではないだろう。
嬉しくてラファエルの腕にしがみつけば、ラファエルは嬉しそうに私の頭を撫でた。
「実験成功すればいいね」
「うん。出来上がったら貴族から販売開始するよ。やっぱり調整が難しいから」
「高価になっちゃうよね」
作る時間もかかっているし…
細かい作業だし…
「それに、カケドケイとウデドケイ、部品を作るのが容易じゃなくてね」
「そうだよね…ありがとう。我が儘聞いてくれて」
「俺が作りたいって思ったものだから、ソフィアが気にすることじゃないよ」
ラファエルって、好奇心旺盛だよね。
自分が作りたいと思った私のアイデアは全て作ってしまう。
嬉しいけれど、これからはラファエルの仕事を増やさないように小出しにしないと…
って、これ毎回思ってても出来てないんだけれど…
「あ、そうだ。ラファエル、お父様とお兄様が、私が言ってたお祭り用の食物を作ってくれるって」
「ああ、楽しむ祭りの?」
「そう。で、食べ物系はサンチェス国の人間が、遊びなどの娯楽系はランドルフ国の人間がするっていうのはどうか、って」
「………ふぅん。いいんじゃない?」
………あ、あれ…
ラファエル的にはあんまり良くない…?
「………ダメだった?」
「ああ、食べ物系全て、と言っても甘味屋台も作るでしょ? 甘味はこっちにしてもらった方が美味しいと思うんだよね」
「ぁ……」
そっか。
甘味はこちらの方が作り慣れているし、サンチェス国の人間に一切甘味店の技術を流してないものね…
「俺からサンチェス国王に交渉するよ」
「ぁ、うん。ごめんなさい」
「ソフィアのせいじゃないよ。食物が手に入るようにしてくれただけで助かるよ。ソフィアの言う楽しむ祭りが出来るなら、客寄せも出来て温泉街も盛り上がるだろうしね」
ラファエルの言葉にコクンと頷く。
「行こうか」
笑ってラファエルに促され、私達は学園へと向かった。




