表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
309/740

第309話 家族という名の他人




私が不意に発した言葉に、お父様とお兄様が慌て、すぐにお母様を連れて出て行った。

………不用意な発言は慎もうと思っているのに、私はすぐにやってしまうらしい…

使用人達や侍女達も慌てて出て行ったものだから、この部屋には現在、私とソフィーしかいない。


「………ぁ」


立ち上がろうとして、机の下にお兄様が持っていた懐中時計が落ちていた。

大事な物を落とされていますよ、っと…

拾って一応中を確認。

壊れていたらいけないし。

時計がない世界だったのでは、と突っ込みが入りそうだけれど。

私が知っている時計とは違うのだ。

カチッと蓋を開けてみる。

丸い画面に「参」と表示されている。

この時計は、1~3時までを壱、3~6時を弐、6~9時を参、9~12時を四、と表す。

………アバウトすぎなんだよね…

現在は多分7~8時…19~20時頃だと憶測できるから参なのだ。

………ホント、マジで時計が欲しい…

ラファエルが作成に成功したら、懐中時計も作ってもらおう…

そしてお父様とお兄様にプレゼントするのだ。

ちなみにこの懐中時計、王家直系じゃないと開かないとか。

………どういう作りなんだろうか…

ランドルフ国製かと思っていれば、サンチェス国製らしいし。

得体の知れない技術にちょっと怖くなるけれど…

懐中時計を持ったまま立ち上がる。


「ライト、一応お母様の様子、見てきてもらっていい?」

『はい』


天井からライトの声が聞こえ、気配が消える。


「ソフィー、部屋に戻ろう?」

「デザートはよろしいのですか?」

「みんなそれどころじゃないよ。それに――」

「………姫様?」


急に黙り込んだ私に、ソフィーは首を傾げる。

何でもないと笑って部屋へと向かう。

ソフィーが黙って付いてくる。

………それに、本当に妊娠しているのだとして、女児だったらお母様に似ればいいのに。

心底そう願う。

そうすれば、この王宮で愛されるだろうから。

私のように他国へ行くことになっても、惜しんでくれるような存在に。

誰もが見た目で判断するとは思っていないけれど、少しでも可愛く産まれてくれればいい。

男児なら、レオナルドのようになりませんように。

心底そう願う。


「もし明日までかかりそうなら、誰にも言わずに立ち去ることになるわね」

「誰か残しますか?」

「いいよ別に。誰も困ることはないわ」


それにこれ以上、ラファエルと離れたままにされたくない。

本当は今帰りたいけれど。

あの兵士も今はまとわりついてないし、火精霊ホムラですぐ行けるから。

部屋に戻り、室内にいたオーフェスにお兄様の懐中時計を渡す。


「お兄様に渡してきて」

「レオポルド様の影に渡せば良いのでは?」

「お兄様の影はお兄様の命令しか聞かないわ」

「………そうでしたね。行ってまいります」


オーフェスが出て行き、私はベッドに行く。

ポフッとそのまま横になると、ソフィーが眉を潜めた。

………すみませんでした…

起き上がってソフィーが持ってきた夜着に着替える。


「ねぇソフィー」

「はい」

「………家族、増えたらいいね」

「………」


ソフィーからの返答はなかった。

何か思うところがあるのだろうか?

ソフィーを見ると、ジッと見られていた。

………な、なに……


「姫様、心にもないことを仰るなら、早く眠られた方がよろしいかと。何も考えないように」

「………へ?」

「………お気づきになっておられないなら、大丈夫です」


………い、意味深すぎる…

ソフィーは就寝用のお茶を準備しに行った。

私は待ちながらベッドの上で首を傾げる。


「姫さぁ」

「………アルバート、敬語。ここにいるときぐらい使いなさい」


お兄様の影もいるんだから…


「おっと。俺も心にもないこと言わない方が良いと思いますよ」

「………アルバートまで…一体何?」

「増えたらいいね、と言いつつも難しい顔してりゃ、思ってもないことを言ってるって分かるって。あ、分かりますって…ん?」


………アルバートの敬語が迷子に…


「………そんな顔してた?」

「してたなぁ。………ぁ…」

「………もう敬語はいいって」


アルバートの敬語は諦め、手を振って下がらせる。

………そうか。

私はちっとも嬉しそうな顔をしていなかったのか…

子供が出来ることはいいことだと思う。

………思うけど、私はもうその家族の輪に入っていられないからね。

弟でも、妹でも、私に会っても姉だとは分からないだろうから。

お兄様はこの国でいるからいいけれど。

そんな風に思ったのが、顔に出たのだろう。

私は苦笑し、ソフィーが煎れてくれたお茶を飲み、ベッドに潜り込んだ。

………ぁぁ……ラファエルに会いたいな…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ