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第304話 ハッキリ言っていりません




私は翌日、謹慎が解けたのでお父様の執務室へ向かった。


「お父様はいらっしゃるかしら?」

「いえ、現在はいらっしゃいません」


執務室の前に立っていた兵士に声をかける。

主がいようがいまいが、兵士は立っているから。

不在なのが一目で分からないようにしているそうだ。


「いつ頃お戻りになりますか?」

「申し訳ございません。分かりかねます」

「そう…ありがとう」


私は内心しょんぼりしながら部屋へと戻る。

いつ戻るか分からないなら、聞きたかったことも、ランドルフ国へ帰る報告も出来ない…

勝手に帰ったらやっぱり怒られるよね…

お忍びも行ったら怒られると思うし…

謹慎明けにすぐに行くのは非常識だよね…

考えながら通路を歩いていると、兵士達とすれ違う。


「あ!」

「………」


声が聞こえた方向に目を向ける。

すると、しまった、という顔で手で口を押さえてガン見されている。

………誰?

首を傾げそうになって思い出した。

前回帰国した際に、私に対して色々言ってくれた兵士だ。


「ごきげんよう」


取りあえず挨拶は大切だよね、うん。


「お、おはようございます!!」


兵士は直立不動になって、ガチガチに固まった。

彼と共にいた兵士2人は、兵士の敬礼(拳を握り、腕を直角に曲げた体勢)を取り、普通に挨拶を返してくる。

………そうだ。

兵士訓練所に差し入れでも持っていこうか。

………でも、お兄様に知られたらまた何か言われるかしら。


「ご苦労様」

「あ、ありがとうございます!」


私は彼らの前を通過しようとして、兵士の表情に何かを感じ立ち止まる。


「………何かありまして?」

「え……」

「何か言いたそうな顔をしていますよ」


兵士は私の言葉に視線を彷徨わせ、意を決したように私を見た。


「そ、ソフィア様にお願いがあります!!」

「………なんでしょう?」

「ぼ……わ、私も、連れて行ってはもらえないでしょうか!!」

「………はい?」


何を言われたのか理解できなくて、首を傾げる。

この兵士は何を言いたいのだろうか。

他の2人も首を傾げている。


「申し訳ございませんが、仰っている意味が分からないのですが…」

「ぼ…私は以前、ソフィア様に大変な失礼を致しました! それは決して許されることではありません! ですがソフィア様は寛大なお心でお許し下さいました! しかも罰もなにも与えずに! このご恩を何も返せないのは兵士にあるまじき事です! お願いします! 私をソフィア様の兵士にしてください!!」


ガバッと頭を下げられる。

………そう言われてもねぇ…


「貴方の主は誰ですか」

「え…あ……レオポルド様です。レオポルド様管轄の部隊に所属しています」

「では、最初に伝えるお相手を間違えておりますよ。貴方が忠誠を誓っているはずの主より、先にわたくしに伝える行為が、兵士規約に反することに気付きませんか」

「ぁ……」

「それに、そんな簡単に主を変更できるほど、貴方の忠誠は安いものなのですか」


私の言葉の意味が分かったのか、兵士が真っ青になる。


「以前の行為を反省するのは良いことだとは思いますが、わたくしに恩を感じているのであれば、わたくしにではなく、お兄様により尽くして下さいませ。わたくしの従者に、中途半端な忠誠を持った者は必要ございません」


キツい言い方になったけれど、本当にこういう人は信用が出来ない。

正しい判断のようで、根本的に間違っている。

主が1番で、2番目などない。

主――お兄様を蔑ろにした時点で、間違っているのだから。


「わたくしの臣は、貴方より頼りになる――揺るがない忠誠心を持った者達ばかりですから」


スッと彼らの前を通り過ぎ、その場を立ち去る。

何かが落ちたような音と、何かを叩く音が聞こえたけれど、振り返りはしない。

多分無礼兵士が崩れ落ち、もう2人が無礼兵士を叩いたのだろう。


「お前何言ってんの!?」

「レオポルド様とソフィア様は、曲がったことは許さない御方達だぞ!?」

「レオポルド様に正式に許可もらってからソフィア様に頭下げろよ! お前本当に後先考えない奴だな!?」

「すいません先輩ぃ!!」


………何やら後ろが騒がしい…

そして、お兄様はともかく、私は色々やらかしてるから彼のこと言えないんだけど…

お忍びとか、罪人庇いとか…

そうか、兵士達の間では清廉潔白な王女に見られているのね。

お忍びとかは結構兵士の中で有名だと思ってたんだけど、スルーされているのだろうか…

こ、これからも気をつけよう…

内心冷や汗をかきながら、そそくさとその場を後にした。


「ぁ~ビックリした……」

「本当だよねぇ。いきなりソフィアに言うとは思ってなかったよ」

「ぅわ!? お、お兄様!?」

「ソフィア、化けの皮が剥がれてるよ。部屋の外は気を張ってなよ」

「すみません。お兄様、何処から聞いていたのです?」

「ソフィアにあの兵士が話しかけたところから」


話しながら私達は通路を歩く。

一部始終を見られていたと知り、苦笑する。


「俺的にはソフィア付きにしてもいいけど?」

「止めて下さいませ。忠誠心が揺らぐような信用できない男はいりません」

「だよねぇ。これ以上男増やしてラファエル殿に嫉妬されても困るよね」

「………分かっているなら言わないで下さいませ…」


私はため息をつき、お兄様は笑いながら私の部屋に戻った。


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