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第300話 思い切りがいいのは嫌いじゃない ―Re side―




「おーい。ソフィア、朝飯」


足で扉を開けようとして、慌てて兵士が扉を開く。

壊さないって。

……ん?

俺もこれ、ソフィアの事言えないな。

まぁいいか。

ソフィア謹慎から一夜明け、ソフィア用の食事と俺の食事を持ってソフィアの部屋を訪れた。

部屋に入ってソフィアを見ると、ソファーに座ったまま身動き1つしていなかった。

目を閉じ、まるで人形がいるかのように微動だにしない。


「ソフィア?」


寝ているのかと思い、声をかけるとスッと音もなくライトがソフィアの後方に降りてきて、人差し指を唇に当てた。

何だ?

ちなみに俺が食事を運んでいるのは、一応ソフィアは謹慎の身なので侍女も近づけさせないようにしているため。

ソフィアは元々身の回りのこと1人で出来る――いや、するしな。

音を立てないようにソフィアの前にある机に盆を置き、俺はソフィアの真正面になるように座った。

が、ソフィアはそんな事気づきもしないのか、無視しているのか知らないが、動かない。

首を傾げると、ソッと俺の後ろにイヴが立ち、身を寄せてくる。


「現在姫様は精霊を各所に散らばらせて、その目を通してサンチェス国内を見ているようです」


俺だけに聞こえるように小声で囁かれた言葉に、思わず一瞬固まった。


「………そんな事も出来るのか…?」

「………何と言いますか…姫様が「出来る?」と聞き、精霊が「やってみる」と言い、行き当たりばったりで始めたことが出来たそうで…」

「………ソフィアらしいというか何というか…」

「元々精霊は姫様の見ていたものを見られていたそうで、逆転の発想だそうです」

「成る程?」


俺は契約していないから、感覚がよく分からないが。

精霊って万能なのか?

俺も親父から引き継げたらやってみよう。

このやり方、親父も知らないんじゃないかな?

………ってか精霊に願えば、犯罪者の記憶読み放題じゃないか?

ますますソフィアにも権限与える事の利便性が上がるなぁ。


「………ないじゃないの!!」


びくぅっとこの部屋にいる全ての人間が、身体を飛び上がらせたんじゃないかな。

ソフィア、いきなり叫ぶの止めようね?


「何が?」

「………え……はっ!? お兄様いつの間にいらっしゃったのですか!?」

「ついさっき」


ソフィアは俺に驚き、机の上に置かれている食事を見て分かったのか、勢いよく立ち上がらせた身体をソッとソファーに戻した。


「す、すみません。食事をお持ち下さったのですね…」

「うん。今の叫びの事は一先ず後で聞くから、暖かいうちに食べようか。毒味は済んでるからね」

「え…まさかお兄様が毒味をしたのではありませんよね…?」

「え? したけど?」

「王太子がすすんで毒味しないでくださいませ!!」

「俺、大抵の毒効かないもん。この国で1番毒の種類も量も飲んでるもん」

「………もん、じゃないですよ…」


ソフィアがため息をつく。

でも1番早いし安全だしねぇ…と思ってイヴを見上げると、すっげぇ睨まれてた。

………うん、自重する。


「わたくしの精霊でも解毒は出来ませんから、気をつけて下さいませ」

「あ、そうなの? これからは気をつけるよ」

「はい」


ソフィアの言葉に頷き、俺達は食事に手を付けた。

………相変わらずの豪勢な食事は、朝の身体はあまり受け付けないんだけどね。

静かに食事を始め、ソフィアは体力――精神かな? を使いすぎて腹が減っていたのか、完食しそうな勢いで、けれどちゃんとテーブルマナーは完璧で食している。

途中でピクリと反応し、固まって何かを考えているような仕草をした後、また食事をする。

それが数回あった。

毒か……?

そんなはずはないだろうけれど…

………ぁ、もしかして精霊と話しているのだろうか?

表情は変わらずなんだが、目だけ細めるとか、眉を潜めるとか、表情筋が動いていないだけに怖いぞ…

それ、ラファエル殿の前でするなよ…?

ドン引かれる可能性が……いや、ないな…

あのラファエル殿のことだ。

このソフィアの表情さえも可愛いと言ってしまうかもしれない。

兄妹の贔屓目からかもしれないが、ソフィアは普通に可愛いと思うんだが、女の受けはよくないんだよなぁ。

なんでだ?

ソフィアも自分の顔は普通って言うし。

………女は分からん。

カサブランカとローズはソフィアを可愛いと言うけれど。

そんな事を思いながら、俺は食事を無理矢理完食し、ソフィアは苦しそうにせずに普通に完食した。


「………お兄様、無理に食べなくても…」

「バカ。食の国の王族である俺が食事を残してどうする…」

「………今度は量を減らしていただいてください…」


俺がぐでっとソファーに寄りかかっていると、ソフィアに呆れた顔を向けられる。


「………で?」

「はい?」

「何がないんだ?」


俺はソファーに寄りかかったまま、視線だけをソフィアに向ける。


「………それが、サンチェス国向けのアイデアが思い浮かんだのは浮かんだのですが…」

「お?」


俺はすぐさま体勢を戻す。

………我ながら単純だな。


「………肝心の食物が見つからなくて…」

「………どういう事だ?」

「先日、ラファエルに提案した事業がありまして」


ソフィアは紙をライトに用意させ、内容を書いていく。


「屋台…」

「はい。このせ――国々では、祭りと言えば鎮魂祭だけですよね?」

「そうだね」


………今、この世界、って言いそうになったなソフィア…

ちょくちょくそういう不審な言動するから、頭が可笑しくなったと思われるんだぞ?


「それで楽しむ祭りを作ってはどうか、と」

「楽しむ?」

「はい。道に軽食や甘味、道楽の店が並び、夜空には光の花が咲いたり。何かの記念日にそういう催しが出来れば、と」

「光の花、ねぇ…いまいち想像つかないけど」

「ですよね…で、ランドルフ国で将来試験的に開催できないかと色々ラファエルに提案しまして、サンチェス国の人に作っていただきたい軽食や甘味があったのですが…」

「その肝心の食物が見当たらない、って事だね?」

「………はい」


ソフィアは頷き、そして俯いてしまう。

そんなソフィアを見て、俺はニヤリと笑う。

ソフィア、お前のアイデアがあったからこそ、今のこの国の食物が豊かになっているのだぞ。

ソフィアがこんな食べ物があったらいいのに、と言った言葉を親父に言えば、親父がすぐに実現していた。

今となっては、精霊が親父経由のソフィアの言葉で食物を増やしていったのだろう。

………親父の精霊も多分、ソフィアの頭の中に思い浮かんでいた食物を覗いていたのだろうな…


「ソフィア。その屋台向けの食べ物を、この国の独占食材にする、と言うことだな?」

「え? あ、はい。ランドルフ国ではどうしても多彩な食物を育てることは難しいので、こちらで育てたものをランドルフ国に卸してもらい、それを加工して販売するのはランドルフ国の者がいいかと…」

「いや、加工も販売もサンチェス国の人間がする。ランドルフ国の人間は、道楽屋台…どういうのかは分からないが、そちらを経営する。それでどうだ?」

「………」


ソフィアは考え込み、やがて1つ頷いた。


「そうですね。そうすればサンチェス国の利益になり、稼ぎが増えると税も多くなるでしょう」

「よし。ソフィア、ソフィアが思い浮かべている食材を全てここに書き出してくれ」

「え……ですが、存在しないのですよ?」

「任せろ」


ニッと笑うと、ソフィアは戸惑いながらその食材の名前を書いていった。

後は、親父に言えば親父の精霊がソフィアの記憶を覗くだろう。

悪いな、ソフィア。

まだお前はこの事を知らないままにさせてくれ。

親父のやり方が確信になった時に言った方が良いだろう。

不確定要素をお前に言って違ったら恥になるからな、俺の。


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