第298話 軽すぎかよ ―Re side―
「いいんじゃないか?」
「え…」
「私も問題はないかと思います」
「へ!?」
サンチェス国にレオナルドを連行、および王家規約違反のソフィアを連れて帰国。
まぁ、案の定ラファエル殿がしつこく食い下がって来たけどね。
無理矢理ついてこようとしたから、ちょっと強行手段に及ばせてもらったけど。
レオナルドを牢に入れ、ソフィアは自室で謹慎中。
ソフィアがまたお忍びに抜け出さないように、俺の影を室内に待機させ見張らせている。
まぁ、今回ソフィアは反省しているから、大人しく自室で自主的に謹慎の姿勢を取っていたし、大丈夫だと思うけど。
そして今、俺は親父の執務室で親父と宰相とで、王家規約に関する話し合いをしているところだった。
ソフィアに王家規約の権限を持たせられないかと、親父達に提案したところ、あっさりと同意を得られた。
………って、可笑しいだろう!?
「ちょっ!? 提案しておいてなんだけど、ちょっと軽すぎない!?」
「反対する要素がない。だから同意した。それの何処が悪い」
「今までの規約を覆すって事を、簡単に王が同意してどうするんだよ!?」
「提案して来て、何故お前が反対側になるんだ」
いつも通りの顔で、いつも通りの声色で言う親父を信じられずに、唖然と見つめる。
「ソフィアは、誰と婚姻しようが、我――王の直系の子に変わりない。サンチェス国王の直系としてサンチェス国王女であることに変わりないのだし、罪人を裁く権利を与え、向こうで犯罪を犯した罪人の聴取を取る権利を与えられ、こちらに詳しい報告を送ってくることは、時間短縮になる。罪人がこちらに送られてくる前に刑の確定が出来るわけだ。これ程便利なことはない」
「………便利、ね」
提案した俺もそうと思うけど、ソフィアが使えるとまるで物を操るように言う親父に、いい気分にはならない。
「今回のあのバカの入手したとされる薬は、まだ見つかってないのだな」
親父が俺の作った報告書を見ながら聞いてくる。
「………ああ」
急いで馬車の中で作成した報告書。
ソフィアの言葉を正確に記入した。
俺の影の失態と共に。
「刑の確定はもう少し話し合う必要があるが、我とお前の影も総動員して、なんとしてでも見つけ出せ。この薬が本当にこんな能力があるのなら、全ての国で犯罪が増加する」
「分かっている。もう俺の影は総動員している」
「ソフィアの精霊は便利そうだな」
「………」
ソフィアが複数の精霊と契約していることは報告してあるが、能力までは報告していない。
それは秘されるものだから。
けれど、親父は察しているらしいけれど。
さすが精霊契約者。
同じ契約者としてある程度――いや、精霊が姿を消せることも、捜索に利用できることも同じだから分かるか。
そして、ソフィアの精霊の契約人数は各国王の比ではない。
犯罪の証拠集めは、なにより数がものをいう。
………それもあって、ソフィアに権限を与えることの便利さと規約を天秤にかけ、便利さを取ったのだろう。
「じゃあ、今回のソフィアの罰は」
「無しだ」
「………分かった。謹慎を解いてくる」
座っていたソファーから腰を上げようとして、親父に制される。
「いや、ちょっとは反省させろ。3日ぐらいでいいだろう。その後に規約権限を与えると伝えることを許可する。それからアリーヤがソフィアと話がしたいらしい」
「お袋――王妃が?」
「ああ。暫く茶を共にしてないからと」
「それも謹慎明けで?」
「………っと、言ったのだがな」
親父がほんの少しだけ遠い目をした。
………成る程。
その様子から、今頃ソフィアの部屋に押し掛けているのだろうと推測できる。
相変わらずだなぁと思いながら苦笑すると、扉をノックする音がした。
「入れ」
「失礼致します」
兵士が1人入室してきた。
「何だ」
「ランドルフ国王太子、ラファエル・ランドルフ様から入国手続き申請が届きました」
「早ぇな」
まだ俺達が到着してから半日もしてないぞ…
どんだけソフィア大事だよ。
「いかがなさいますか?」
「ん~…」
「却下だ」
俺がどれぐらいで許可を出そうか考えていると、親父が拒否した。
………って、え…?
「ソフィアは5日以内に返す予定だ。ランドルフ国を放置してソフィアに会いに来る暇があるのなら、国内をもっと整えろと伝えろ。それに国境工事は終わったのか? 通行許可カードはどうした。指紋認証は出来ているのか。罪人の登録は終わっているのか。全部突きつけろ」
「は、はい!!」
兵士が慌てて出て行く。
「容赦ねぇな」
「当たり前だ。早く仕上げてもらわなければ困る。国境が出来上がるまで現在の通行申請を規制しているし、なにより着手すればそれだけ通過人数が減る。行商人達も制限している以上、国内の儲けもそれだけ減るのだ」
「ごもっともで」
これはラファエル殿ソフィアに会えないなぁ。
ま、少しは自制してもらわないとね。
ソフィアがいないと何も出来ない男は、親父に失望されちゃうよ。
ソフィアはラファエル殿と離れることに躊躇なかったな。
自分の犯した罪のせいだろうがな。
「ソフィアに伝えろ。罪の償いとして、サンチェス国の為になるアイデアを1つ以上出せ、とな」
そう言って宰相と共に出て行った。
「………謹慎と称して、それ目的だったわけね」
俺は笑って執務室を出た。




