第296話 いい気持ちではないな ―R side―
「やぁ。すまなかったね」
「いいや」
翌日の昼にレオポルド殿が到着した。
俺は執務室に招き入れた。
前の執務室の状態よりかはスッキリしている。
片付けなくても歩けるし、座れる。
「レオナルドはすぐに回収させてもらうよ。まったく…色恋も程々にして欲しいよ」
「その事なんだが、レオポルド殿」
「ん?」
「こちらに到着してからの報告になってすまない。レオナルドは、何かの薬を手に入れ、自分の存在を隠していたようなんだ」
「………どういう事?」
レオポルド殿の表情が険しくなり、俺の説明を求めた。
俺はなるべく詳しく……と言っても分からないことだらけだけれど、分かっていることは全て説明した。
「自分の存在を気付かせないようにする薬か…」
「効果は憶測だが…精霊達が見つけられない原因はそれ以外考えられないんだ」
「だろうね。俺でもそう思う。ランドルフ国で見つけられないって事は、サンチェス国か…テイラー国か…うちの影が見失っていた期間は3日。その間テイラー国まで回り込めるとは思えないから……うちか?」
レオポルド殿はソファーから立ち上がり、執務室内を歩き出す。
「…でも、国境付近にそんな怪しい店があれば気付く。そもそも国境付近に店は無い。1店舗だけあれば不自然すぎる。露店でもな」
「だよね」
「ソフィアはこの事知ってるの?」
「え? うん。レオナルドの聴取をしたのはソフィアだよ」
「………」
レオポルド殿は考える仕草をし、眉を潜めた。
「………そう。ソフィアが聴取したのか」
「………何か問題でも?」
「いいや?」
すぐさま表情を変え、レオポルド殿は笑顔を作った。
「ソフィアは学園?」
「え、うん…」
「じゃあローズもか。帰ってくるまでいさせてもらうよ。レオナルドは先に護送する。もう2度と目を離さないように言い聞かせたから」
「そうか。頼んだ。お茶でも?」
「宜しく」
俺は外にいる騎士に伝言を頼もうと席を立った。
そして気付かれないようにレオポルド殿を見ると、難しい顔をして窓を見ていた。
………何だ……?
扉を少し開けて伝言してすぐにレオポルド殿を見ると、ソファーに座ろうとしている所だった。
さっきの顔が気になる…
「ソフィアに何か用なの?」
「いや? 勝手に来て勝手に帰ったら、ソフィアが悲しい思いをするし、泣くでしょ?」
「しないし、泣かないと思う」
「即答するなよ! 泣くよ!?」
「お前が泣くのか」
苦笑しながらソファーに座る。
それ程待たずにソフィーがお茶を持ってくる。
ソフィアがいなければソフィーが色々やってくれているから、正直助かる。
毒の心配もしなくていいし。
「………って冗談抜きで。ソフィアに何」
「………」
その瞬間鋭い目で見られた。
「………それはソフィアに話す事で、君に関係ないよ」
次の瞬間には笑顔で突き放された。
これは、サンチェス国のことで、ランドルフ国の俺が立ち入っていいことではない、ということだろう。
………仲良くなれたと思っていたら、これだ。
分かっている。
踏み入れてはいけない領域があることは。
けれど、こういう事はハッキリ言っていい気分じゃないな…
「仕方ないけど…俺には言ってくれないのは、寂しいし、苦しいね」
「それ、まんまお前とローズ達がソフィアにしてたからね」
「え……」
何のことか分からず首を傾げると、レオポルド殿は何でもないと笑い、お茶に口づけた。
「さてさて。俺の可愛い妹は頑張って勉強しているかね」
「学園に行ってない時間が多くて、なかなか今の授業についていけないみたい」
「ソフィアあんまり頭よくないからねぇ。コツコツタイプだから、積み重ねないとついていけないだろうねぇ」
勉強が難しいかと聞いた時のソフィアの作った笑顔と、ムスッとした顔が頭に浮かんだ。
「学園に復帰するタイミングは俺に合わせてくれたからね」
「ふぅん。愛されてるねぇラファエル殿」
「え…」
あ…
不意打ちだったから、いつものように返せなかった。
ソフィアからの愛はもう分かる。
疑えないぐらいに、口に出してくれる回数が増えた。
「少しでも傍にいて、もうすれ違うことのないようにっていうソフィアなりの意思表示でしょ」
「………ぁ…」
そう、か。
じゃあ、今日も一緒にいてって言えば良かったかな。
勉強は俺教えるし…
「ま、今はゆっくりソフィアを待とうよ」
「ああ」
レオポルド殿の言葉に頷き、お茶に口を付けた。




