第293話 心配は時と場合を選んで欲しい
レオナルドを拘束して3日目。
まだレオナルドが服用したという薬は見つかっていなかった。
一体どういう事だろうか。
店自体も見つからないという。
………う~ん。
現在学園の授業中。
教師の言葉をノートに書き取りながらも、考えていた。
誰かが何らかの目的で作っているのは間違いないはず。
レオナルドが実験に使われた可能性が高い。
そしてその効力を見定め、何か別の目的に使用されるだろう。
もし自身を認識させないようにする薬なら、悪用される前に早く見つけて、処分しなきゃならない。
目の前にいても認識できないなら、やりたい放題。
「では、今日はここまでとします。明日は――」
教師の言葉を聞き、ノートと教科書を閉じる。
究極精霊でさえも見つけられないのは、やっぱり薬が関係しているのだろうか…
「ソフィア」
「あ、はい。ラファエル様、いかがなさいました?」
「ご飯、食べないの?」
「え……」
気がつけば、昼休みになっていたようで…
「すみませんラファエル様」
慌てて立ち上がり、ラファエルの傍に。
「また考え事?」
「………ぇ?」
「授業中、ずっと眉間にシワが寄ってたよ」
ラファエルが苦笑しながら私の眉間をちょんっと突いた。
「授業難しい?」
………こんな教室の中でそんな質問しないで欲しい。
みんな聞き耳を立てているのに。
「大丈夫ですわ。時間がなくなりますから行きましょう?」
「うん」
ラファエルにエスコートされながら教室を出て、王族専用食堂に向かう。
生徒達の死角になる場所に行ったとき、ポスッとラファエルの腰を軽く突く。
「わ…どうしたの?」
キョトンと首を傾げるラファエルに、私は頬を膨らませる。
「あんな所で授業が難しいかなどと聞かないでもらえますか? 難しいとわたくしが答えたら、皆様に馬鹿にされてしまいますでしょ。サンチェス国の人間はランドルフ国の授業についていけないと」
「………ぁ。ごめん」
小声で窘めれば、ラファエルがハッとして素直に謝ってくる。
ラファエルにとっては1度やったことある授業だし、何とも思わないんだろうけれども。
純粋に心配してくれただけだろうけれども。
こっちにはサンチェス国代表としての矜持があるのだから。
ため息をつくと途端にラファエルが焦る。
………別にラファエルに呆れたのじゃないのだけれど…
「授業をたくさん休んでしまいましたからね。ラファエル様にとっては簡単でも、わたくしには難しいのですよ。基礎授業全て飛ばしてしまって、応用から入っておりますから」
「お、教える!」
「どうやってですか? 教室で教わることなどしませんわよ。それこそ授業についていけていないと堂々と公表することになりますから」
「うっ……」
必死に対策を考えているだろうラファエルは、挙動不審になっている。
「教師に教科書を持ち帰る許可などもらわないで下さいね。それも知られることになるのですから」
「………どうしたらいいの…」
「授業中に自力で何とかしますわ。ご心配なさらないで下さいませ」
ニッコリ笑うと、ラファエルが落ち込んだ。
………なんで…
「………ソフィアが冷たい……俺に何もさせてくれない…」
………ラファエルも時々私に何もさせてくれませんけど…?
「自力でやらずにどうするのですか……勉学は個人の努力次第ですわよ?」
「そうだけど…教えるくらい……」
「ですから、教わる場所などございませんでしょう? 教室も図書室も人目があるのですから。教科書は教室から持ち出し禁止でしょう?」
「………じゃあ、王宮の図書館で似たような本探すから、俺に教えさせて」
「………あるのですか?」
「あるよ。………たぶん」
………心許ない…
「ではありましたら教えてもらいますわ」
………まぁ、ラファエルの時間があったら、の話だけれど。
ラファエルの時間がなければローズやヒューバート達に教えてもらおうっと。
「だからね、ソフィア」
「………はい?」
「………その言葉遣いいい加減止めて」
目の前に用意された食事に手を付けようとして、私はラファエルの言葉に手を止めた。
「………そうですね」
「………戻ってないし…」
教室から話していたせいか、食堂について2人きりになっても私の言葉遣いは戻ってなかったようだ。
無意識だった…
ちなみに今日はローズはお休みしている。
なんか、ルイスに説教されて謹慎中みたいよ。
ラファエル経由で聞いた。
「すみませんでした」
ニッコリ笑って言うと、ラファエルが肩を落とした。
………よし。
無神経ラファエルのお仕置きはここまでにしておこう。
純粋に心配してくれただけだものね。
「食べよう? ラファエル」
言葉遣いを戻しただけで、すぐにラファエルの機嫌が戻る。
単純だなぁと思いながら、食事に口を付け始めた。




